冷間圧接|金属を常温下で塑性変形させて接合する工法

冷間圧接

冷間圧接とは、電気やガス、化学薬品などの熱源を一切用いずに常温のもとで強い圧力を加え、材料表面の酸化膜や不純物層を除去・変形させながら接合する方法である。(これを固相接合法という。)溶融溶接のように接合部を局所的に溶かすのではなく、塑性変形によって材料同士を密着させて結合強度を得る点に特徴がある。熱エネルギーの使用を抑えられるため、熱影響部の発生が少なく、母材の性質を損ないにくいという利点を持つ。主としてアルミニウム錫(すず)亜鉛など、展性(薄い板状に広がる性質)、延性(細長い針金状に延びる性質)に富む非鉄金属、が対象となる。

冷間圧接の概要

冷間圧接は、表面を密着させた2枚の母材に、大きな圧力を加え、金属の原子同士を限りなく接近させることによって起きる拡散現象(二つの母材表面の金属原子が相互に移動して、相手方の原子間に入り込む現象)を利用した接合である。加熱を伴わないため、母材の結晶粒成長や組織変化が起きにくい。一般的には金属同士を合わせ、機械的・圧力的に押しつけることで母材表面の酸化膜などが除去され、同時に塑性変形が進行して表面同士の密着度が向上する。結果として、原子レベルでの接触面積が増大し、高い接合強度が得られる。接合後は強度試験や顕微鏡観察によって接合部の欠陥の有無が確認される場合が多い。

冷間圧接のメカニズム

強い圧縮力を加える際に、母材表面にある酸化膜や汚染物質は変形によるせん断力や摩擦力で剥がされる。このとき、金属結合を阻害する障壁が除去され、金属の新鮮面が露出する。さらに、微視的な凸部が相互に潰されながら塑性変形し、原子間距離が接合に必要なレベルまで近づくことで金属結合が形成される。冷間圧接ではこの一連の過程を常温において行うため、溶融温度や溶融特性を考慮する必要がないが、一方で十分な塑性変形を起こすために適切な圧力と工具構造が求められる。接合時に不純物があると接合が不十分になるため、接合前の母材表面は、その汚れや酸化皮膜などを完全に除去し、清浄な状態にする必要がある。

冷間圧接の特徴

冷間圧接の最大の特徴は、母材組織の熱的変化を最小化できる点である。高温加熱を行わないため、熱影響部の硬化や脆化が起こりにくく、組織変化による強度低下が生じにくい。また溶接ひずみが低減され、接合部の仕上がり精度が高まる傾向がある。エネルギー消費面では加熱工程が不要となるため省エネルギー化が期待され、溶融溶接に比べて排出ガスや飛散物質も少ない。ただし、接合面の準備や汚れ・酸化膜除去の徹底が必要であり、適切な工具や表面処理工程を選ぶことが重要である。また、接合部には、母材表面に深い圧迫痕が残り、この部分の板厚が減少するため、強度の低下や材料の局部的な硬化が起こる。

冷間圧接における材料と適用範囲

一般に冷間圧接アルミニウムなどの展延性に優れた金属でよく用いられる。これらは比較的低い変形抵抗を持ち、所定の圧力を加えることで容易に塑性変形を誘発できるため、安定した接合面が形成されやすい。一方で、硬度の高い金属や脆性材料に対しても、局所的な表面処理や最適な加圧速度を選択することで可能性が広がる。具体的には電気・電子部品の端子接合、鋼板や線材の連続接合などで実用化されており、自動車産業や家電産業では部品の軽量化と省エネルギーを実現する手段として利用される場面が増えている。

冷間圧接の工程と装置

まず、接合する材料の表面を清浄化し、油分や酸化膜を取り除く下処理を行う。次に、専用の圧接装置やロール機構を用いて、両材料を正確に位置合わせした状態で高圧力を加えながら表面同士を押しつける。多くの場合、接合面同士を摩擦させるわけではなく、定位置で静的に圧力を加える形式が一般的である。圧力は材料の種類や板厚、あるいは線材径などに応じて設定され、過不足があると十分な接合強度を確保できない。装置としては、アプセット方式(軸方向に強制変形を与えるもの)やロール方式(連続的に圧下するもの)が存在し、用途や材質に合わせて選択される。

冷間圧接の課題と展開

熱を用いない接合であるため、材料内部での冶金学的変化が少なく、異種金属を組み合わせる場合にも有効な接合方法となっている。一方、金属の強い酸化膜や硬い表面層を完全に除去できないと、接合強度の低下を招くおそれがある。さらに、硬質合金や比較的脆い材料では高い圧力を要し、割れや局所的な破断が生じるリスクがあるため、適正な工程設計が不可欠となる。近年は表面活性化技術や超音波支援技術を組み合わせたハイブリッド的な冷間圧接手法も開発されており、異種材料の軽量高機能化に応える接合技術として今後も注目を集めることが見込まれる。