伝達関数|周波数領域でシステム動特性を表現

伝達関数

伝達関数は、線形時不変(LTI)システムの入力と出力の関係を、ラプラス変換領域で表した比である。微分方程式で与えられるシステムを、初期値ゼロのもとでラプラス変換し、出力の像を入力の像で割って得る。一般に伝達関数は有理関数G(s)=Y(s)/U(s)で記述され、極と零点の配置が応答の速さや振動、安定性を規定する。連続系ではs平面、離散系ではZ平面で議論し、周波数応答はs=jωを代入して得る。制御設計、フィルタ設計、同定など幅広い工学分野で標準的な表現である。

定義と前提

伝達関数G(s)=Y(s)/U(s)は、因果性・線形性・時不変性を満たし、初期条件をゼロとする前提で定義される。非線形系でも作業点周りの線形化により近似的な伝達関数を導ける。物理定数のばらつきや外乱は、通常はパラメータ変動や入力項で扱い、G(s)自体は名目モデルを表す。

導出手順

  1. 支配方程式(微分方程式)を記述する。例:a₂y¨+a₁y˙+a₀y=b₁u˙+b₀u。

  2. 初期条件ゼロでラプラス変換し、Y(s),U(s)の代数方程式にする。

  3. G(s)=Y(s)/U(s)を解き、有理式として整理する(分母が特性多項式)。

  4. 既約化・モニック化を行い、必要に応じて直列・並列・フィードバック分解で表現する。

正規化と単位

係数のスケーリングで数値桁落ちを避け、DCゲインや角周波数を基準化することが実務的である。物理量の単位整合を確認し、伝達関数として意味のあるゲイン次元になるようにする。

零点・極と安定性

分子多項式の根が零点、分母特性方程式の根が極である。BIBO安定は連続系で極の実部がすべて負(左半平面)で成り立つ。極の重複や虚軸上の極は発散・無界応答を生み得る。零点は過渡整形や位相特性を規定し、右半平面零点は非最小位相となる。

最小位相性

零点が左半平面(離散系では単位円内)にあると最小位相で、同じ振幅特性に対し最小の位相遅れとなる。右半平面零点をもつ伝達関数はステップ初期応答が逆向きに立ち上がるなどの特徴を示す。

定常ゲインと時間応答

最終値定理により定常値はlimₜ→∞y(t)=limₛ→0 sY(s)で評価でき、ステップ入力ではG(0)がDCゲインとなる。2次標準形G(s)=ωₙ²/(s²+2ζωₙs+ωₙ²)では、ζが減衰、ωₙが速さを決め、極の位置(−ζωₙ±jωₙ√(1−ζ²))からオーバーシュートや整定時間を見積もれる。

ブロック線図と合成則

  • 直列:G=G₁G₂。物理的には段積みでゲイン・極零が合算される。

  • 並列:G=G₁+G₂。経路和で応答を重ね合わせる。

  • 単純フィードバック:G=Gf/(1±GfH)。感度関数S=1/(1+GH)、相補感度T=GH/(1+GH)で整形する。

周波数応答とボード線図

s=jωを代入したG(jω)の大きさ・位相は、ボード線図やナイキスト線図で可視化する。ゲイン余裕・位相余裕は安定余裕の指標で、TやSのピーク(|T|∞、|S|∞)を抑える設計はロバスト性向上に寄与する。伝達関数の零・極近傍は±20 dB/decの傾きを与えるため、漸近近似が有効である。

離散時間系との関係

サンプル周期Tでゼロ次ホールドを仮定すると、連続伝達関数から離散G(z)を得る。双一次変換(bilinear)やマッチド零極法で極零対応を保ちながら写像する。連続系左半平面は離散系単位円内に写り、安定判別もそれに従う。

同定と実務上の留意点

周波数応答法や最小二乗により、測定データから伝達関数モデルを同定できる。雑音・量子化・飽和はバイアスを生むため、励振信号設計、帯域選定、前処理が重要である。数値計算では標準形・状態空間への変換、スケーリング、実現可能性(プロパ・厳密プロパ)を確認する。

初期条件と外乱

定義上伝達関数は初期条件ゼロを仮定する。実データでは初期値応答や外乱が混入するため、フィルタリングやウィンドウで分離し、モデル評価は残差の白色性や交差検証で行う。

よくある限界と誤解

伝達関数は非線形・時変・大域的飽和・ヒステリシス・デッドゾーンなどを直接は扱えない。大きな時間遅れはe^{-Ls}の無限次元性を伴い、近似としてパデ近似を用いるが高次化・位相遅れに注意が要る。MIMO系ではSISOの単一伝達関数では不十分で、行列伝達関数や状態空間表現を用いるのが適切である。

パデ近似と時間遅れ

時間遅れe^{-Ls}は1次または2次のパデ近似でG(s)≈(1−Ls/2)/(1+Ls/2)などと置き換える。周波数帯域外で位相誤差が増すため、設計帯域を明確化し、必要最小限の次数で近似することが望ましい。