亜鉛(Zn)|融点が低く、鋳造性に優れる金属

亜鉛(Zn)

亜鉛とは、原子番号30の金属元素であり、実生活から工業生産まで幅広く利用されている資源である。融点が約420℃と比較的低く、鋳造性に優れる青白色の金属光沢をもつ、もろい金属である。比較的安価な素材で広く使われている。特にダイカスト用亜鉛合金と金型用亜鉛合金の需要が高い。表面を酸化被膜で保護する性質を持つため、防食コーティングや合金形成などで重宝されてきた。さらに、生体内でも酵素反応や免疫機能の維持などに関与する必須ミネラルとして機能することから、栄養学的にも重要な存在となっている。

物理的特性

亜鉛は常温常圧で青みを帯びた銀白色の金属光沢を示すが、結晶構造は六方最密構造と呼ばれる特徴的な配置を取るため、展延性はそれほど高くない傾向にある。この結晶構造によって脆さが生じやすい半面、比重は約7.14と比較的軽量であり、熱伝導性や電気伝導性も良好であることから、産業用途では多方面で活用されている。たとえば鋳造時には流動性が高い特性を示すため、精密部品やダイカスト用途にも活用されるなど、扱いやすい側面がある。

化学的性質

大気中での腐食に対してある程度の抵抗性を持つことが亜鉛の大きな特性である。表面に薄い酸化膜を形成し、それが金属内部を保護するため、鉄鋼などの防食被膜としてメッキ加工によく利用される。また希酸とは比較的容易に反応して水素を発生するが、不動態被膜の形成によって濃酸とは反応が抑制されやすいという側面もある。酸化物や硫化物など多彩な化合物を形成し、顔料や医療用途にも応用されている。

犠牲防食作用

亜鉛はイオン化傾向が鉄よりも強いため、鉄(Fe)と接して存在すると、亜鉛が先にイオン化する。このため、亜鉛が存在する限りは、鉄が腐食しない。これを犠牲防食作用という。

製造方法

亜鉛の生産には、主に硫化鉱石からの抽出が用いられる。亜鉛鉱石として代表的な閃亜鉛鉱(ZnS)は、まず焙焼工程で酸化物に変換され、その後浸出や電解により純度の高い亜鉛が得られる仕組みになっている。この湿式精錬では、硫酸溶液に溶解させてから電解精錬する手法が主流である。一方、乾式精錬としては亜鉛蒸気を還元炉で生成し、それを冷却・凝縮して金属亜鉛を回収する技術も存在する。これら複数の工程を組み合わせることで、大量生産が可能になっている。

用途

最大の利用分野は溶融メッキによる防食処理であり、いわゆるトタン板や電気メッキを施した鉄鋼材などには亜鉛が不可欠である。さらに、ダイカスト技術においてはアルミニウムマグネシウムなどと合金化して用いることが多く、自動車部品や住宅設備など各種の部材として活用されている。そのほか、乾電池の負極材料や農業用の微量要素肥料、健康補助食品の原料としても需要が存在する。

トタン

鉄(Fe)に亜鉛めっきした板材をトタンという。しかし、亜鉛が溶け出すことによる防食であるため、食品容器には利用できず、主に屋外での利用となる。

生体内での働き

ヒトを含め、多くの生物は酵素反応に亜鉛を利用しており、たとえばDNAやタンパク質を合成する酵素には亜鉛イオンが結合している場合が多い。また、免疫力を維持する機能や味覚を正常に保つ上でも重要であり、欠乏すると皮膚障害や免疫低下、味覚異常などの症状が出るとされている。そのため、食品やサプリメントからの摂取を通じて適切な量を摂ることが推奨されている。

歴史的背景

古代から黄銅(ブラス)として銅と亜鉛の合金が利用されてきたが、純粋な亜鉛金属としての存在が明確に分離・認識されたのは比較的後年のことである。中世ヨーロッパでは東洋から伝わった黄銅の製造技術が広まり、後に17~18世紀の冶金学の発展とともに亜鉛の単離が確立された。こうした経緯から、亜鉛は大航海時代の貿易や科学革命とともに世界各地へと広がり、産業革命以降は鉄鋼の防食メッキ材として欠かせない資源となった。

合金と特有の性質

との合金である黄銅は美しい光沢と加工性を持ち、楽器や装飾品などに用いられることが多い。一方、アルミニウムやマグネシウム、鉛などを混ぜた亜鉛合金はダイカストに適し、小型で複雑な形状の工業部品を大量生産できるメリットがある。これらの合金は強度や硬度、耐食性が向上し、高い寸法精度が求められる製品に対して優れた材料特性を発揮するので、航空宇宙や自動車、電子機器などの幅広い分野で利用されている。

亜鉛ダイキャスト合金(ZDC)

亜鉛ダイキャスト合金(ZDC)は、鋳込み温度が低く、寸法精度の高い鋳造が期待できる。耐食性の面からニッケルクロムメッキをすることが多い。

タイトルとURLをコピーしました