ローター振動
ローター振動とは、回転機械の回転軸とその付随部品が回転中に示す時間的・空間的な変位や荷重変動の総称である。タービン、発電機、圧縮機、ポンプ、工作機械主軸などで顕在化し、信頼性、効率、寿命、騒音、安全に直結する。主要因は不平衡、芯ずれ、軸受特性、摩擦接触、流体励振、歯車・ベルト伝達、電磁力などであり、設計・製造・据付・運転・保全の各段階で管理対象となる。
基本モデル
基礎理解には単一質点・弾性・粘性減衰から成るJeffcott型モデルが有用である。偏重心半径rを持つ回転系の横振れxは、m x” + c x’ + k x = m r ω^2 cos(ωt−φ)で表され、共振近傍では振幅が急増し位相がπ/2を横切る。剛性k、減衰c、質量mの設計値は臨界回転数、応答倍率、過渡特性を規定する。
不平衡と臨界回転数
不平衡は量と角度で記述され、遠心力が回転数と共に線形に増大する。一次危険速度では1X成分が卓越し、位相が90°を超えて急変する。実機ではロータの分布質量やディスク位置により多段のモードが現れ、上位臨界で前向き・後向きの旋回(whirl)が区別される。
芯ずれと軸受の影響
機械的芯ずれは主に2X成分の増大、軸方向荷重変動、ベアリング温度上昇を伴う。すべり軸受では油膜の動特性が負減衰を生み、サブハーモニックのoil whirlや、臨界の一部で固定化するoil whipを誘発する。転がり軸受の欠陥は特徴周波数に基づく側帯波を生じる。
計測センサ
- 非接触渦電流プローブ:軸表面の振れとオービット観測に適する。
- 加速度ピックアップ:広帯域のケーシング振動と包絡解析に有効。
- 速度計:全体速度mm/s RMSの監視に用いられる。
- キー位相信号(keyphasor):位相基準とオーダ追従に必須。
スペクトルとオーダ解析
周波数領域ではFFTで1X、2X、分数次やサイドバンドを読み解く。可変速機ではorder trackingで回転数依存のピーク移動を追跡し、Campbell図でモード交差と励振線の交点を確認する。時間波形、包絡、同調フィルタを併用すると診断精度が上がる。
Bode/Nyquist/オービット
起動・停止試験で得るBode線図は振幅と位相の速度依存性を示し、臨界と減衰比を推定できる。Nyquistは複素平面上のベクトル軌跡で安定余裕を可視化する。直交配置のプローブで得るオービットは前向き・後向きの旋回、楕円率、ルーブ・ダイアゴナルの有無から摩擦や油膜不安定を識別する。
バランス取り
実機バランスは単平面・二平面の影響係数法が標準で、試験重りに対する応答の線形性を利用する。重り配置は位相解析と制約条件(安全、遠心強度、取付可否)で決める。許容残留不釣合いはISO 21940系のグレード(例:G2.5等)や用途基準で評価する。
共振回避設計
設計段階では軸・ディスク・継手・軸受のパラメータで固有値を調整し、運転域と危険速度を十分離す。シールやダンパベアリングで有効減衰を付与し、支持剛性を最適化する。モーダル質量と節点配置を見直すことで、励振源との結合を弱めることができる。
軸受と安定化手段
すべり軸受ではクロスカップリングが不安定化を招くため、tilting-pad、スロットル、squeeze film damperの適用で負性効果を抑える。作動油の粘度、温度、供給圧、クリアランスも重要で、API類の推奨範囲を満たすよう設計・管理する。
ローター動解析手法
解析はtransfer matrixや有限要素で行い、曲げ・ねじり・縦振動、ジャイロ効果、回転剛性低下(spin softening)を含める。減衰は材料・構造・流体の寄与を合成し、非線形接触やバックラッシュ、摩擦も必要に応じて考慮する。実験モード解析でモデル同定を行う。
診断の実務手順
- 安全確保と基線化(運転条件・履歴の整理)。
- 全体振動の健全性判定(速度RMS等)。
- キー位相を基準に1X/2Xと位相を測定。
- 起動・停止でBodeとNyquistを取得。
- 直交プローブでオービットを確認。
- 必要時に試験重りで感度を測定し、是正。
関連規格と指標
全体速度基準はJIS・ISOの受入基準を参照し、据付後の許容値、監視アラーム、トリップレベルを設定する。回転機器ではISOのバランス等級、APIの軸受・回転機仕様、現場の保全標準を整合させ、測定点・方向・帯域を統一することが重要である。
典型的な症状例
高速ポンプの不平衡は起動で1Xが鋭く立ち上がり、位相は90°近傍を通過する。芯ずれは2Xが顕著で軸方向成分を伴う。軽い擦れはサブハーモニックとオービットの扁平化を示す。油膜不安定では1/2X付近で自励が現れ、速度上昇でwhipに遷移し飽和する。
設計・保全の勘所
回転体の形状精度、質量偏差、組立同心度を製造段階で厳格化し、据付時は芯出し・支持剛性・配管応力を管理する。運用ではバランス、軸受状態、潤滑・シール条件、回転加減速プロファイルを管理し、データ駆動の状態監視と故障解析で予兆を捉えることが効果的である。
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