モータ制御|電動機の回転速度やトルクを制御する

モータ制御

電動機の回転速度やトルクを意図した通りに制御する技術を総称してモータ制御と呼ぶ。工作機械やロボット、空調設備から電気自動車に至るまで、多様な用途で利用されており、近代産業を支える要となっている。目標値に対して実際の回転数や角度がどの程度ずれているかを検出し、その偏差をもとにモータへ与える電気的入力を調整して最適な動作を保つのが基本的な考え方である。制御の手法はモータの種類や要求される性能によって異なるが、センサー技術やパワーエレクトロニクス技術の進歩によって、大きな精度と応答速度を両立できるようになってきた。

モータ制御の概要

モータには大きく分けてDC(直流)モータとAC(交流)モータがあり、前者はブラシ付きDCモータやブラシレスDCモータ、後者は誘導モータや同期モータなど様々な種類が存在する。これらのモータごとに構造が異なるため、制御手法も合わせて選択される。たとえばブラシ付きDCモータであれば電圧制御で回転速度を変えやすいが、ブラシレスDCモータでは電子的に位相を切り替えるドライバが必要になる。ACモータの場合、インバータを用いて周波数や電圧を変化させることで回転速度やトルクを制御する。こうした複雑な制御を円滑に行うために、マイコンやDSP(Digital Signal Processor)などの演算装置が不可欠である。

オープンループとクローズドループ

最も単純な方法は、センサーで回転数を検出せずに電圧や周波数を一方向的に与えるオープンループ制御である。しかし、外乱や負荷変動に弱いため、正確な回転速度制御を要求する場面では物足りない。そこで実際の回転数やトルクをフィードバックし、誤差を小さくするクローズドループ制御が一般的となっている。多くのモータ制御は、このクローズドループアプローチを採用しており、PID制御や状態フィードバック、モデル予測制御などの各種アルゴリズムと組み合わせることで高精度化を図っている。

ベクトル制御

誘導モータや永久磁石同期モータなどでは、電流の位相をベクトル的に扱うベクトル制御(Field-Oriented Control: FOC)が広く利用されている。これは回転磁界の生成過程を理論的に整理し、モータ内部の磁束軸とトルク軸を独立に制御できるようにしたものである。従来のスカラー制御では電圧や周波数を単純な関数で与えていたが、ベクトル制御ではd軸とq軸の二軸成分に分解してモータ電流を細やかに制御する。その結果、応答性と効率が大幅に向上し、精密制御が要求される産業ロボットや高速スピンドルなどで採用が進んでいる。

センサレス制御

モータの回転角や速度を検出するためにはエンコーダやホールセンサーが用いられるのが一般的だが、センサーの追加はコスト増やシステムの複雑化につながる。そこで、電流や電圧の情報からモータの回転状態を推定し、フィードバック制御を行うセンサレス制御が研究・実用化されている。高回転域では比較的精度が保ちやすいが、低回転域では推定誤差が大きくなる場合があり、専用のアルゴリズム設計やロバスト化が求められる。

DCモータ制御

ブラシ付きDCモータは構造がシンプルで、電圧を変化させることで容易に回転速度を調整できる。PWM(Pulse Width Modulation)を使って平均電圧を調整する方法が広く浸透しており、小型のドローンアクチュエータなどで利用されている。一方、ブラシレスDCモータはコイルの切り替えを電子制御で行うため、回転子の位置検出が必要になる。ホールセンサーやセンサレス推定を組み合わせることで、高効率かつメンテナンスフリーを実現している。

ステッピングモータ制御

ステッピングモータは一定角度ずつステップ動作を行う特徴を持つため、オープンループでも比較的正確な位置制御が可能である。しかし高い回転速度を得るには発熱やトルク特性などの制約があり、最近ではマイクロステッピングと呼ばれる制御法が導入されている。マイクロステッピングでは各相への通電を連続的に変化させることでステップ角よりも細かい分解能で動かすことができ、振動や騒音の低減にも寄与する。

実装時のポイント

  1. ドライバの選定:最大電流・電圧と制御方式の適合性を確認。
  2. 冷却対策:パワーデバイスモータ本体の放熱設計が不可欠。
  3. ノイズ対策:高速スイッチングやケーブル長によるノイズ発生に注意。
  4. 安全機構:過電流や過温度に対応する保護回路の実装が望ましい。

モータ制御の応用

産業分野では工作機械や搬送装置、ロボットなどで精密な位置決めを行うためにモータ制御が用いられる。自動車分野ではEVやHEVの駆動系だけでなく、パワーステアリングや空調用コンプレッサなど多くの補機で採用が進む。さらに省エネルギー化や製造ラインの効率向上にも寄与しており、IoT時代においてはリアルタイムでモータの挙動を監視・制御する技術が注目を集めている。これらの進化が、さらなる自動化や高効率化を促す原動力となっている。

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