プレス加工
プレス機によって金属板などの素材を塑性変形させる製造工程であるプレス加工は、自動車部品や電子機器など幅広い製品に利用されている。大量生産に適しており、複雑な形状の部品も短時間で加工できるため、製造業の効率化やコスト低減に大きく貢献する技術である。
概要
工場などで行われるプレス加工は、主に金属材料を一定の形状に変形させる加工方法である。素材を所定の形状に打ち抜く「せん断」や、板を湾曲させる「曲げ」、深さのある形状に変化させる「絞り」、複雑な形状を生み出す「成形」など、多様な手法が存在する。いずれもダイ(型)と呼ばれる専用の金型を用いてプレス機で大きな力を加え、短時間で加工を行う点が特徴である。複数の工程を連続的に組み合わせることで、量産性に優れた部品製造を実現できるため、自動車や航空機から家電に至るまでさまざまな分野で欠かせない技術となっている。
最近では加工技術が発展してきたのでフレームは削り出しや鋳造が中心になりましたがプレス材を手間をかけて溶接して作られたフレームに味わいを感じます。 pic.twitter.com/Res8vaLu9r
— bell-01-01 (@bell01014) December 9, 2024
歴史
金属の塑性加工の歴史は古代にまで遡ることができるが、近代的なプレス加工の原型は産業革命期に見られるようになった。蒸気機関の導入により、大きな力を効率的に加えられる機械式プレスが登場し、金属部品の大量生産が可能となったのである。その後の電動モーターや油圧システムの進歩はプレス機の性能を飛躍的に高め、20世紀には自動車産業の隆盛とともに金型技術も高度化した。結果として精密かつ高速なプレス加工が発展し、現在に至るまで多くの製造業を支える重要技術として位置づけられている。
主な工程
強力な力を加えて金属を変形させるプレス加工では、複数の工程を組み合わせることで多様な形状を作り出すことができる。以下では代表的な工程を紹介する。
せん断
シート状の金属を刃物のようなダイで切り抜く工程がせん断である。板材を狙った形状に切断することで、後続工程に適した素材のサイズを得られる。多段階のプレス加工を行う場合、はじめにせん断工程でブランク(素材)を切り出しておくことが多い。高速かつ連続的に行えるため、大量生産との相性が非常によい。
曲げ
板金を特定の角度に曲げる工程が曲げである。L字やU字、さまざまな形の曲げ加工を行う場合、専用のダイとパンチを使い精密なプレス加工を実施する。曲げ加工では角度の精度が製品品質に直結するため、ダイの形状やプレスの加圧速度などが綿密に管理される。自動車のボディパネルや家電製品の外装部品など、滑らかな外観を必要とする場面で活用される。
先日は「タレットパンチプレス」による鉄板加工をご紹介させていただきました。
今回は板金加工第二弾としまして、「プレスブレーキ」と「ロールベンダー」による鉄板の曲げ加工をご紹介したいと思います。 pic.twitter.com/5PxjyNU83u— 株式会社岡常歯車製作所 公式アカウント (@5VQz8Rl0WtDHY8h) November 27, 2024
絞り
深さを持つ形状を形成するために行う工程が絞りである。円筒状のカップなどを製作する際に多用され、容器や自動車部品などの生産に欠かせないプレス加工手法である。素材を一度で大きく絞ると亀裂が入る場合があるため、複数回に分けて徐々に深さを増していくことが一般的である。絞り加工では摩擦の制御が重要であり、潤滑剤の選択や適切なプレス条件の設定が品質を左右する。
Katate 鍋 絞り加工 3000KNプレス pic.twitter.com/z3McZQuRSH
— blackburns (@blackburns8823) February 21, 2023
成形
複雑な形状を得るために行われる工程が成形である。曲げや絞りと一体的に行われることが多く、多面的な曲面や立体構造を一度に成形する場合に用いられる。難易度が高い一方で、精密な金型設計と高度なプレス加工技術によって、生産性と精度を両立することが可能である。とりわけ多段式プレスラインでは、連続的な成形を効率よく行うために工程間の位置合わせや速度制御などの自動化技術が重要視される。
粉末プレス成形。
これも素人目にはなかなか理解しにくいプレス成法。
pic.twitter.com/aPqrle2Of9— Alunim(アルニムさん)🛠️ (@AluminiumMania) January 27, 2025
活用分野
現代の製造業においてプレス加工は欠かせない技術であり、多種多様な製品に利用されている。自動車産業ではボディパネルやドア、シャーシなどの部品を高速かつ大量に加工するために導入が進んだ。家電製品や電子機器の筐体は軽量化や薄型化が求められ、精密な金型を用いたプレス加工によって複雑な形状を成形している。さらに航空宇宙分野でも高強度・軽量化を両立するために、アルミ合金や特殊鋼を用いた部品の成形に活用されている。
利点と課題
プレス加工は短時間で大量の部品を製造できる利点を持ち、高い生産性を発揮する。金型を用いるため部品の寸法精度が安定し、大量ロット生産ではコストメリットが大きい。一方で、金型の設計・製作には高い初期投資と専門的なノウハウが必要であり、小ロット生産や頻繁な設計変更には不向きな場合もある。また、金属の塑性変形を伴うため、素材の特性を十分に理解していないと割れや変形不良を起こす可能性がある。これらを克服するにはシミュレーション技術の活用や金型設計の高度化が不可欠であり、精密強度解析や高度な制御技術の導入が進みつつある。