プラットフォーム
プラットフォームとは、半導体メーカや関連企業が、System LSIやアプリケーションソフトを短期間かつ効率的に開発できるように提供する開発環境の総称である。プロセッサやIPコア、OS、ミドルウェア、ドライバなどをひとつにまとめることで、ソフトウェアとハードウェアの連携を容易にし、製品立ち上げのスピードと信頼性を高める。市場のニーズが刻々と変化する中で、高度化する機能要求と短い開発期間の両立を図るためにプラットフォームが不可欠となっている。
背景
半導体産業が進化するにつれ、SoC(System on Chip)やMPU(Microprocessor Unit)など、複数の機能を一枚のチップ上に集約する技術が普及してきた。しかし、優れたハードウェアのみでは製品として完成しない場合が多く、組み込みOSや各種ドライバ、開発支援ツールといったソフトウェア資産を同時に用意する必要がある。このような状況下でプラットフォームを活用すれば、企業独自の差別化となるアプリケーション部分にリソースを集中できるため、開発効率を飛躍的に向上させられる。また、ハードウェアとソフトウェアのインターフェイスが標準化されることで、コンポーネントの再利用性が高まり、新規プロジェクトへの適応が容易になる。
構成要素
プラットフォームを構成する主要要素は、プロセッサコアやメモリインターフェイス、各種ペリフェラルIP(USBやUART、I2Cなど)といったハードウェアブロックに加え、RTOS(リアルタイムOS)やミドルウェア、デバイスドライバ、テスト用アプリケーションといったソフトウェアスタックである。これらが統合された形で提供されることにより、ハードウェアとソフトウェアの整合性を検証する負荷が軽減される。さらに、開発ボードやエミュレータ、各種プロトタイピングツールなど物理的な環境も含む場合があり、全体として開発プロセスをスムーズに進行させるための基盤が確立される。
利点
プラットフォームを活用する最大の利点は、開発期間の短縮とコスト削減である。半導体メーカがあらかじめ検証済みのハードウェアIPやソフトウェアスタックを提供するため、個別検証の手間が減り、バグ修正や再設計のリスクが軽減される。また、各種インターフェイスが統一されているため、開発者は製品企画に必要なカスタマイズ部分に注力できる。製品開発サイクルが長い時代には、このような包括的な環境が不要に思われる場合もあったが、スマートフォンやIoT機器の市場が短いスパンで進化を求められる昨今では大きな競争力となっている。
応用事例
IoT向けのエッジデバイス開発などでは、強力なプロセッサと省電力を両立するSoCに加え、無線通信やセキュリティ機能を備えたプラットフォームが求められる。半導体メーカはこれら要素をまとめた開発キットを提供し、通信プロトコルのサンプルコードやOTA(Over The Air)アップデート用ソフトウェアなどの枠組みも統合する。自動車向けの分野では、車載制御用MCUやADAS向けSoCに対応するRTOS、AUTOSAR規格のミドルウェアなどが含まれたプラットフォームが用意され、複雑化する車載ソフトウェアの開発効率を高めている。こうした統合環境の利用により、開発者は基本機能の実装を省略し、ユーザエクスペリエンスや新機能創出に注力することが可能となる。
歴史
半導体メーカがシリコン供給だけでなく、ソフトウェアリソースや包括的な開発環境を提供する流れは、1990年代後半から顕著になった。特にマイクロコントローラ(MCU)業界では、評価ボードや専用IDE(統合開発環境)の提供が始まり、これが今日のプラットフォーム概念につながっている。スマートフォン市場の拡大やIoTデバイスの多様化により、限られた時間で機能を盛り込む必要が高まるにつれ、包括的なソフトウェアスタックとハードウェアの組み合わせが一般的な開発手法となった。多くのメーカが独自のプラットフォームを展開する一方、オープンソース系のプロジェクトと連携する事例も増えている。