フォトダイオード|光を電気信号に変換する半導体素子

フォトダイオード

フォトダイオードは、光を受け取って電流を生成する半導体素子の一つで、光信号を電気信号に変換する主要なデバイスとして広く利用されている。一般的なダイオードと同様にp型とn型の半導体接合からなるが、光が当たった際に接合部付近で電子と正孔が生成され、これらのキャリアが電流として検出される点が特徴である。近年は光通信ネットワークの高度化や産業用センサーの高精度化に伴い、高速応答性や高感度を実現するフォトダイオードの研究開発が活発に行われている。半導体材料の改良や微細加工技術の進歩により、さまざまな波長帯や用途に対応できる高機能デバイスが実用化され、光エレクトロニクス分野を下支えしている。

動作原理

フォトダイオードの動作原理は、半導体接合に光子が入射することで生じる電子と正孔の対を外部回路から取り出す仕組みに基づいている。入射した光のエネルギーが半導体のバンドギャップを超えると、価電子帯にあった電子が伝導帯に励起され、同時に正孔が生成される。外部電圧をかけて逆方向バイアスを与えると、生成されたキャリアが強制的に分離され、結果として電流が流れる。光強度に比例して電流値が変化するため、光量測定や高速通信における光信号の復調など、多様な用途に対応可能である。

PINフォトダイオード

PINフォトダイオードは、p型領域とn型領域の間に不純物の極めて少ないi型領域(intrinsic層)を挟んだ構造が特徴で、高速応答と高感度を両立しやすい。i層がキャリア生成と分離を効率的に行うため、厚みや材料の選定によって受光感度と周波数特性を設計できる。光通信で一般的に利用される1.3μm帯や1.55μm帯を中心に、データセンター間の伝送やアクセス網など、幅広いシステムで利用されている。また量子効率(入射光子に対し生成されるキャリアの比率)が高いため、微弱光の検出にも向いており、ライダー(LiDAR)や医療用計測などでも活用が進んでいる。

アバランシェフォトダイオード (APD)

アバランシェフォトダイオード (APD)は、内部増幅機能を持つフォトダイオードで、高い逆電圧をかけることにより光により生成されたキャリアが衝突イオン化を引き起こし、電流を増幅する仕組みを備えている。微弱な光信号を大きく取り出せる利点がある一方で、動作電圧が高く雑音特性が増大しやすいという課題もある。通信分野では長距離かつ高感度が求められる場合に採用されることが多く、衛星通信や海底ケーブルなど高信頼性を要する分野で活用されている。設計や温度制御が難しく、コスト面でも課題があるが、微弱光検出には欠かせない技術として位置付けられている。

材料と波長特性

フォトダイオードに使用される半導体材料は、バンドギャップ特性や加工技術を考慮して選定される。シリコンは可視光から近赤外領域に対応でき、製造コストや集積度の面で優位性がある。一方、インジウムガリウム砒素(InGaAs)やガリウム砒素(GaAs)は、光通信で主力となる1.3μm~1.55μm帯への感度が高く、特にInGaAs系フォトダイオードは高速通信において広く採用されている。また紫外線や中赤外線領域を検出可能な材料の開発も進んでおり、宇宙観測や分光計測、特殊な産業プロセスでの応用にも期待が寄せられている。

光通信への応用

光通信システムでは、光ファイバを伝搬してきた光信号を最終的に電気信号として検出・復調する際にフォトダイオードが不可欠である。特に大容量化の進行に伴い、複数波長を利用するWDM(Wavelength Division Multiplexing)技術や高速変調方式が採用される中、検出器であるフォトダイオードの性能がシステム全体のボトルネックとなる場合もある。応答速度や雑音特性の改善、低コスト化の要求が高まり、多くの企業や研究機関が高機能なフォトダイオードモジュールの開発に力を注いでいる。5Gや6Gなど次世代ネットワークでもフォトダイオードの高性能化は重要課題である。

産業・計測での役割

フォトダイオードは、通信以外にも産業用センサーや医療機器、環境モニタリングなど幅広い分野で利用されている。例えばラインセンサーとして配置される場合、光学スキャナやバーコードリーダーのコア部品となり、製造ラインの自動化や品質検査にも適用可能である。さらに医療分野では、内視鏡やパルスオキシメータなど、光を使った診断・検査機器に組み込まれ、高精度なデータ取得を支えている。太陽光計測やスペクトル分析においてもフォトダイオードの高い線形性と応答速度が評価され、化学分析や大気観測など多彩な分野で活躍している。

光集積回路(PIC)

近年はフォトダイオードと増幅器、さらには光導波路やフィルタなどを一体化した光集積回路(PIC)が注目を集めている。単体のフォトダイオードでは限られていた機能を、集積化することで高密度かつ低損失で実現し、装置の小型化や省エネルギー化が期待できる。シリコンフォトニクス技術の進歩により、CMOSプロセスとの親和性が高いデバイス開発が進み、マイクロエレクトロニクスと光デバイスの融合がさらに加速している。こうした高機能化の流れは、次世代ネットワークや精密センサー、新しい医療機器の基盤技術として今後も進展すると考えられている。