ナチュラルコンベクション
ナチュラルコンベクション(自然対流)とは、流体の密度差による浮力が駆動力となって生じる対流である。外部送風が要る強制対流と異なり、重力場と温度差のみで流れと熱移動が成立する。電子機器の放熱、建築の熱環境、化学装置の壁面冷却などで重要であり、放射伝熱や伝導としばしば同程度に効く。支配は無次元数の組(Gr、Ra、Pr、Nu)で整理でき、近似としてBoussinesqが実務で広く使われる。
発生メカニズム
加熱で流体の密度が低下すると、重力場g中で上向きの浮力が働き境界層に上昇流が生じる。冷却では逆に下降流となる。密度ρの温度依存は体膨張係数βで表し、ρ≈ρ₀(1−β(T−T₀))と近似できる。浮力は運動方程式の体積力項−ρgに「−ρ₀gβ(T−T₀)」として現れ、流れ・温度場の正帰還によりセル構造やプルームが形成される。
支配方程式と近似
非圧縮連続の式、Navier–Stokes、エネルギー式に浮力を加える。Boussinesq近似では物性を一定とし、密度変化は浮力項のみに残す。小温度差(βΔT≪1)かつ低Ma数で有効である。物性はフィルム温度T_f=(T_s+T_∞)/2で評価するのが慣行である。
無次元数と遷移
Gr=gβΔTL³/ν²、Ra=Gr·Pr、Pr=ν/α、Nu=hL/kで定義する。Raは浮力と粘性・熱拡散の比であり、縦板では概ねRa≲10⁹で層流、Raが大きくなると遷移し乱流へと移る。水平平行平板のRayleigh–Bénardでは臨界Ra≈1708で定常セルが発生する。
境界層の特徴
加熱縦板では先端から熱・速度境界層が厚みを増しながら上方に発達する。層流域では類似解が成立し、平均的にδ/LはRaの負べきに比例して薄くなる。乱流化すると変動プルームが卓越し、熱交換が増大するが壁面熱流束の変動も大きくなる。
代表長さと物性の取り方
代表長さLは縦板なら高さ、水平板なら板辺長、フィン群ならフィンピッチや高さを採る。ΔTは|T_s−T_∞|とし、境界条件は等温壁か等熱流束かで相関式が異なる。鉛直・水平・傾斜の姿勢は決定的で、上向き加熱は不安定で対流が強く、上向き冷却は安定で弱い。
代表的相関式
- 縦板・層流(10⁴≤Ra_L≤10⁹):Nu_L=0.59·Ra_L^(1/4)
- 縦板・乱流(10⁹≤Ra_L≤10¹³):Nu_L=0.10·Ra_L^(1/3)
- Churchill–Chu:Nu_L=0.68+0.670·Ra_L^(1/4)/{1+(0.492/Pr)^(9/16)}^(4/9)
- 水平板:加熱下面は対流強、加熱上面は抑制。相関は幾何・条件依存が大きい
水平板・閉空間の挙動
水平平板では上下面の安定性が逆転し、閉空間では温度成層と循環セルが形成される。Rayleigh–Bénardでは六角セルやロールが現れ、Ra増加で時間依存化する。筐体や二重窓では隙間高さをLとするRaで整理し、漏れ・放射との連成を考慮する。
設計上の指針
空気中のナチュラルコンベクションのhは概ね2–10 W/m²Kで、放射と同程度になることが多い。ヒートシンクはフィンを鉛直に配置し、境界層が干渉しないピッチを確保する。遮蔽や狭隘は避け、吸い込み・吹き出し経路を妨げないことが有効である。
測定と数値解析
測定は熱電対、熱流計、PIV/可視化が用いられる。CFDではBoussinesq、放射連成、壁面近傍の解像が鍵である。格子依存性の確認と物性の温度依存の反映が必須で、等温・等熱流束の設定誤りは結果を大きく歪める。
混合対流と誤り
微風があると混合対流となり、Richarson数Ri=Gr/Re²で判定する。Ri≫1ならナチュラルコンベクション優勢、Ri≪1なら強制対流優勢である。代表長さやΔTの取り違え、放射無視、物性をT_fで取らない、といった誤りは設計余裕を失わせる。
簡単な計算例
空気、縦板高さL=0.5 m、ΔT=20 K、β≈1/298 1/K、ν≈1.6e−5 m²/s、α≈2.3e−5 m²/s、k≈0.026 W/mKとする。Pr≈0.70、Gr=gβΔTL³/ν²≈3.2e8、Ra≈2.2e8で層流域。Nu_L≈0.59·Ra^(1/4)≈72より、h=Nu·k/L≈3.8 W/m²Kとなる。放射が加われば実効hはさらに増すため、併設評価が望ましい。