ドーピング
ドーピングは、半導体材料中に微量の不純物原子を意図的に導入し、その電気的特性を制御する技術である。シリコンやゲルマニウムといった半導体結晶において、不純物原子を添加することで自由電子や正孔が増減し、n型またはp型と呼ばれる導電性の変化を得る。これにより、半導体はトランジスタやダイオードといった電子デバイスの基本素子として機能する。ドーピングは現代のエレクトロニクス産業において基礎的な工程であり、その精度や均一性は高性能・高集積の半導体チップ実現に欠かせない。
ドーピングの基本原理
半導体結晶は、純粋な状態ではキャリア密度が低く、電気的特性も制御しにくい。そこで、半導体原子よりも価電子数が1つ多い元素(ドナー)や1つ少ない元素(アクセプタ)を微量添加することで、電子密度や正孔密度を制御する。これら不純物原子が格子点に置換または格子間に挿入されることにより、n型やp型といった異なる伝導特性を付与できる。
ドーピング手法
代表的なドーピング方法には拡散法とイオン注入法がある。拡散法はウェハ表面に不純物源を塗布・接触し、熱処理で不純物を結晶内部に拡散させる手順である。一方、イオン注入では高エネルギーイオンビームで不純物原子を半導体表面へ打ち込み、深さと濃度分布を精密にコントロールする。イオン注入は量産性、再現性、微細領域への局所導入といった利点があり、先端半導体プロセスでは主流となっている。
拡散ドーピング
拡散ドーピングは比較的初期から利用されてきたプロセスで、ガスや固体不純物源を用い、熱拡散によりウェハ内へ徐々に不純物を広げる方法である。高温環境下で行われるため、結晶構造への影響や拡散深さの制御が難しく、近年では微細化の進展に伴い、その用途は限定的となっている。ただし、大面積対応や装置の簡易性などから特定分野では依然有効な手法である。
イオン注入技術
イオン注入は、イオン源から生成した不純物原子のイオンビームを加速・集束し、ウェハ表面へ衝突させて半導体内部に組み込む。イオンエネルギーや注入量を正確に制御できるため、狙った深さや濃度分布を精密に再現できる。また、フォトレジストパターンなどをマスクとして用いれば、局所的な領域に選択的にドーピングが可能となり、複雑なデバイス構造にも柔軟に対応できる。
アニールと活性化
イオン注入後は結晶格子が乱れ、不純物原子が格子間に存在する。これを修復し、不純物を格子点へ組み込み、電気的に活性化するために熱処理(アニール)が行われる。高温アニールや急速熱処理(RTA)によって結晶欠陥が減少し、不純物は意図した電気特性を発揮する。温度や時間を最適化することで、デバイス性能向上や歩留まり改善が可能になる。
計測・評価の一例
ドーピング後の不純物濃度や分布はSIMS(二次イオン質量分析)やSRP(スプレッディングレジスタンスプロファイル)などで評価される。これら計測技術により、プロセス条件の最適化や品質保証が行われ、狙ったデバイス特性を確実に得るための基盤となる。
新材料・新構造への対応
近年ではSi以外にもGeやIII-V族化合物、SiC、GaNなど多様な半導体材料が利用されている。これら新材料に適合する不純物種やドーピング技術の開発は、パワーデバイスや高速トランジスタの実現を支える。また、FinFETや3D NANDといった3次元構造にも対応する高度なドーピング手法が求められており、さらなる研究開発が続く。