トグル機構|小さな力で大きな力を生む倍力機構

トグル機構

トグル機構とは、2本のリンクをピンで「く」の字形につなぎ、その屈曲点を押して一直線に近づけることで、小さな入力を非常に大きな出力に変えるリンク機構の一種である。英語ではtoggle mechanism、またはknuckle joint(ナックル継手)と呼ばれ、リンクが一直線になる位置を死点という。死点付近では出力側の移動量がほとんどゼロになる代わりに、理論上の倍力比は無限大に近づく。この性質を利用して、ワークを固定するトグルクランプ、金属を押しつぶすプレス機械、樹脂成形機の型締装置、電路を開閉する配線用遮断器など、製造業の幅広い場面で使われている。

砕石機から始まった実用の歴史

てこの原理を応用したトグルの考え方自体は古くから知られていたが、工業機械として広く普及するきっかけになったのは、1858年に米国のイーライ・ホイットニー・ブレークが特許を取得したジョークラッシャーである。この砕石機は偏心軸で動かすトグルプレートを介して可動ジョーを押し出し、岩石を砕く構造をもっていた。現在のシングルトグル式・ダブルトグル式ジョークラッシャーもこの系譜にある。20世紀に入ると、1924年に考案されたロッキングプライヤーのように、死点をわずかに越えた位置で止まる「オーバーセンター」を利用した工具が登場し、手作業の固定具にも応用が広がった。

倍力が生まれる原理

同じ長さの2本のリンクが、一直線の状態から角度θだけ折れているとする。屈曲点に横から力Pを加えると、両端を押し広げる出力Fは次の式で表される。

F = P ÷ (2 tan θ)

式からわかるように、θが小さくなるほどtan θはゼロに近づき、出力は急激に増える。角度ごとの倍力比(F/P)は以下のとおりで、10°から1°に折れ角を詰めるだけで倍力比は約10倍になる。

折れ角 θ tan θ 倍力比 F/P
20° 0.364 約1.4
10° 0.176 約2.8
5° 0.087 約5.7
2° 0.035 約14.3
1° 0.017 約28.6

実際にはピンの摩擦やリンク・フレームの弾性変形があるため、無限大の力は生まれない。死点直前では出力側がほとんど動かず、その分だけ入力側のストロークを使って力を稼いでいると考えるとわかりやすい。

治具で使われるトグルクランプ

溶接や組立の治具で最もよく見かけるのがトグルクランプである。レバーを倒すとリンクが死点をわずかに越え、ストッパーに当たった状態で止まるため、手を離してもワークの反力では外れない。保持力は小型品で数百N、大型の横押しタイプでは10kNを超える製品もあり、垂直式・水平式・押出し式・引付け式の4形式に大別される。現場では、押さえボルトの突出し量を調整して「レバーが最後に軽く節度感をもって入る」位置に合わせるのが一般的なやり方となっている。締めすぎると死点を越えられず、緩すぎると保持力が不足するので、ワークの板厚公差が±0.5mmを超えるような場合はウレタンパッド付きの押さえ先端を選ぶことが多い。

ナックルプレスと射出成形機の型締

プレス加工の分野では、クランク軸の回転をトグルリンクで増力するナックルプレスが知られる。下死点付近でスライドが大きく減速し、高い加圧力を保つため、硬貨のような圧印加工や冷間鍛造、精密な打抜きに向いている。下死点近くでのスライド速度が遅いことはバリ除去の手間を減らす面でも有利に働く。機械プレスの精度等級はJIS B 6402で規定されており、トグル式でも同じ基準で検査される。

射出成形機ではトグル式型締装置が中小型機の主流である。5点支持のダブルトグルが一般的で、油圧シリンダやサーボモータの比較的小さな推力で数百kNから数千kNの型締力を得る。直圧式(油圧直結式)に比べて開閉速度が速く、サイクルタイムを短縮しやすい点が評価されている。ただし、金型を交換するたびに型厚調整を行わないと、リンクが死点まで伸びきらず規定の型締力が出ない。段取り替えの多い工場では、この調整時間がトグル式と直圧式を選ぶ際の判断材料になる。

電気機器のトグル

電気の世界でもトグルは欠かせない。配線用遮断器の開閉機構は、ばねとトグルリンクを組み合わせ、ハンドル操作の速さに関係なく接点を瞬時に開閉させる「速入・速切」の構造をとる。過電流で引外し装置が動くとトグルの死点保持が崩れ、ばねの力で接点が一気に開く。回路遮断器の性能はJIS C 8201-2-1で定められ、引外し自由機構もこの規格の要求事項に含まれる。古い箱開閉器のナイフスイッチでは、刃が刃受に差し込まれる接触圧をレバーで直接与えていたため、操作速度によってアークの発生具合が変わっていた。トグル式への移行は、この不安定さを解消する意味ももっていた。

トグルスイッチとの関係

操作盤のトグルスイッチも名前の由来は同じで、レバーを倒すと内部のばねが死点を越えて接点を切り替える。定格は交流125Vや250Vで数A〜15A程度のものが多い。

設計・保守で見落としやすい点

トグル機構は死点付近で力が大きく変わるため、寸法誤差の影響を受けやすい。とくにピンと穴のすきまが0.1mm広がるだけで、狙った折れ角がずれて出力が大きく変化することがある。保守上の着眼点は次の4つにまとめられる。

  • ピン・ブシュの摩耗によるガタの増加と、それに伴う出力低下
  • 給脂不足による焼付き(射出成形機では自動集中給油が標準的)
  • 過負荷時にリンクやフレームへ集中する曲げ応力
  • オーバーセンター量が大きすぎることによる解除力の増大

設計段階では、死点付近で発生する最大荷重を見込んでピン径とリンク断面を決め、過負荷を逃がす安全装置を組み込む。生産設計の観点からは、ピン穴を同時加工して左右リンクの寸法をそろえると、組立後の調整を減らせる。ねじ式やカム式の増力機構と比べると、トグルは部品点数が少なく安価に大きな力を得られる反面、出力が位置に強く依存するという性格をもつ。用途に応じてこの特性を活かすか、別の機構を選ぶかを判断する必要がある。

コメント(β版)