ディフューザ
流体機械や空調ダクトで用いられるディフューザは、断面積を拡大させて流速を下げ、その運動エネルギーを静圧へ回収する要素である。ベルヌーイの関係に損失を考慮しつつ、適切な拡散角と長さを選べば圧力回復を高め、逆に選定を誤れば境界層の剥離で損失が増える。遠心ポンプ・圧縮機の羽根車下流、風洞のテスト部下流、HVACのレジスタ背後など、均一で高い静圧を得たい場面でディフューザは核心的役割を果たす。
基本原理
連続の式により断面積が増えると平均速度は低下し、ベルヌーイにより静圧は上昇する。ただし粘性や剥離に起因する損失が存在するため、実務では圧力回復係数Cpや損失係数ζで性能を表す。入口の速度分布や乱れ強さTu、渦度や旋回の有無がCpを左右し、良好な入口整流と穏やかな圧力勾配設計が要点である。
形状と種類
- 軸対称円錐形(製作容易、汎用)
- 2D平行板形(風洞・ダクト遷移)
- 曲線壁形(NACA型、剥離抑制)
- ベーン付き(ターボ機械の案内羽根)
- ボリュート併用(集流と回収の分担)
最適拡散角
円錐形の半角は概ね3°〜7°が経験的に良好である。8°〜10°を超えると境界層が剥離しやすく、Cpが急落する。必要面積比ARを満たしつつ長さL/D1を適度に確保し、段階的拡散や曲線壁で圧力勾配を緩和すれば、短尺でも剥離を抑えやすい。ReやTu、入口旋回の有無で許容角は変動する。
境界層制御
剥離対策としては、入口直管の確保、整流格子やハニカムでの速度一様化、角度の段階分割、曲線壁プロファイル採用、微小スロット吸込みやベーン追加、表面粗さ管理などがある。非一様流入では高速度側に合わせた形状修正が有効で、圧力タップの分布計測で壁圧の滑らかさを確認する。
設計指標
- Cp:圧力回復の尺度(高いほど良い)
- ζ:損失の尺度(低いほど良い)
- AR:面積比A2/A1
- L/D1:長さの無次元化
- θ:拡散半角
- Tu:入口乱れ強さ
ポンプ・圧縮機における役割
遠心機では羽根車出口の高速流をディフューザで静圧化し、全体効率とヘッドを決める。無羽根形は広い安定範囲を持つが回収がやや劣る。ベーン付きは高Cpを狙える一方で失速・サージの感度が上がるため、設計点近傍の入射角、背面剥離、周方向一様性の確保が重要である。
風洞・HVACでの利用
風洞ではテスト部の低損失化とファン前の静圧増加にディフューザを用いる。ダクトでは急拡大の代替として損失と騒音を低減し、送風機動力を節約できる。曲がり直後やT字合流直後に配置する場合は整流を併設し、片側剥離と圧力偏りを避ける。
簡易設計手順
- 所要流量Qと入口径D1からV1を算出する。
- 目標静圧上昇と許容損失からCp目標を置く。
- 必要ARとθを仮設定し、L/D1を決める。
- 入口速度分布・Tuを見積り整流要否を判断する。
- 1D計算やCFDでζと壁圧分布を評価する。
- 試作して差圧・ピトーやPIVで実測し修正する。
よくある不具合
急拡大による広域剥離、非一様流入での片側失速、ボルト段差や溶接ビードに起因する二次流、低周波の逆流脈動が典型である。入口直管不足や前段エルボの近接が原因のことが多く、ストレート長とガイドベーン、段付きの面取りで改善する。計測タップ位置の誤りも性能誤判定の温床である。
関連機器との違い
ディフューザは動圧を静圧へ変換する受動要素である。逆に静圧を動圧へ変えるのがノズルであり、エキスパンダのように仕事を取り出す装置とは目的が異なる。ボリュートは集流・搬送が主機能で、圧力回復は副次である点でディフューザと区別される。
計測と評価
性能評価は入口・出口の静圧タップ列とピトーで速度を求め、Cpとζを算出する。流れ場は5孔プローブやPIVで確認し、壁圧の滑らかな上昇と速度分布の均一化を指標とする。実機では配管系の反射で脈動が混入するため、時間平均と周波数解析の併用が有効である。