スラスト軸受(円筒穴)のはめあい|円筒穴での適正はめあい設計

スラスト軸受(円筒穴)のはめあい

機械要素の中でも回転と荷重支持に大きく関わる軸受は、使用環境や軸受構造によって多彩な形式が存在する。中でも、軸方向の荷重を受け持つスラスト軸受は高速回転には不向きだが、設計上の省スペース化や軸方向剛性の確保などに寄与するため多用されている。軸と軸受内径の形状にはさまざまな方式があるが、円筒穴の設計は加工性や取り付けの簡易性などから一般的である。このとき、組み付け精度を左右する重要要素として挙げられるのがスラスト軸受(円筒穴)のはめあいである。JISでは、JIS B 1566に規定されている。

スラスト軸受の特徴

スラスト軸受は、ボール型やローラー型といった異なる転動体を用いたものが存在するが、いずれも軸方向への荷重に対応することを主目的として設計されている。ラジアル方向の負荷には弱いため、スラストとラジアルを組み合わせた複合ベアリングを用いるケースも見受けられる。これらの設計を円筒穴と組み合わせる場合、固定側と遊び側を明確に区分し、取り付け誤差や潤滑条件を考慮する必要がある。特にスラスト軸受(円筒穴)のはめあいは、軸受端面と軸またはハウジングとの接触状態に影響し、潤滑剤の保持性や摩耗の進行度合いにも関与するため、非常に繊細な設計が求められる。

寸法精度と公差

円筒穴の内径精度はISOやJISなどの規格を参考に設定される場合が多く、はめあい方式としてはH7、h7、またはそれに準ずる範囲が選定されることが多い。スラスト軸受の座面と軸・ハウジング部の嵌合が過度にきついと、荷重に加えて過大な組立応力を生じ、摩擦熱の発生や転動体の損傷を引き起こすリスクがある。一方、はめあいが緩い場合には、座面が不安定となり軸受の傾きが生じやすくなるため、計算上と実稼働時の負荷分布が大きく乖離する可能性が生まれる。よって、適切な寸法精度と公差を選び、摺動抵抗の低減と位置精度の確保を両立させることが肝要である。

適切な隙間設計

スラスト方向の荷重を確実に支持するには、上下座面と軸受部品の間に適切な隙間を設計することも重要である。ここでは転動体の種類や荷重条件、さらに使用時の温度上昇を考慮し、潤滑油膜を確保できるだけのクリアランスを持たせつつ、軸受が余分に動きすぎないように制御する必要がある。円筒穴でのはめあいにおいても、この軸受隙間の設定が不十分だと組付け後に生じる熱膨張や偏荷重で軸受部品が変形し、ベアリング寿命を大幅に縮める場合がある。設計段階で材質の膨張係数や潤滑剤の特性を考慮して適切な隙間を検討することが推奨される。

はめあい選定の考え方

はめあいの選定では、軸系とハウジング系それぞれの作用を理解することが不可欠である。一般に軸は回転部として高い寸法精度が要求されるため、h6やh7などの狭い公差域が採用される場合が多い。一方、ハウジング側は軸受の外輪あるいは座金が固定される部分となるため、H7やH8レベルの公差に設定することも多く見受けられる。スラスト軸受の場合は、取り付け時に浮動側と固定側を分けることで、熱伸縮や微小な振動を吸収できる設計をとることが通例である。こうした方針を踏まえつつ円筒穴の寸法公差を設定し、必要に応じて仕上げ加工や表面処理を施すことが品質管理上の重要ポイントとなる。

負荷条件と回転速度

スラスト軸受が負荷される圧力や回転速度は、はめあいの選定基準に大きな影響を与える。高速回転時には転動体の遠心力や発熱が増大し、軸やハウジングのわずかなゆがみが軸受寿命を左右するため、なるべく高精度でのはめあいを必要とする。一方、低速や断続的な動作であれば高精度のはめあいは必ずしも求められず、むしろ大きめのクリアランスを設けることで摩耗を低減する設計が採用される場合もある。したがって、使用環境のデューティーサイクルを総合的に把握し、適切な寸法公差と潤滑方法を組み合わせることが望ましい。

温度変化への配慮

軸受部の温度が上昇すると、材料の熱膨張により内径や外径の実効寸法が変化する。スラスト軸受では、軸方向の荷重が集中しやすいため、ちょっとした寸法変化が性能に影響を及ぼす。特に円筒穴を持つ構造では、軸と軸受が同じ材質であってもハウジング部が別材質のケースが多く、熱膨張率の差異によって座面の合わせ面にすきまや過大な干渉が発生することがある。こうした問題を回避するには、はめあいの選択のみならず、潤滑剤や冷却機構の導入、あるいは適切なシール設計などを用いて温度制御に配慮する必要がある。定期的に軸受温度を監視し、メンテナンスを行うことで安全率を確保することが推奨される。

スラスト軸受の内輪に対するはめあい

中心アキシアル荷重
(スラスト軸受全般)
合成荷重
(スラスト自動調心ころ軸受の場合)
内輪回転荷重
または
方向不定荷重
内輪静止荷重
軸の公差域クラス
0級
6級
js6 h6 n6 m6 k6 js6
はめあい 中間ばめ 中間ばめ しまりばめ しまりばめ しまりばめ 中間ばめ

ラジアル軸受の外輪に対するはめあい

中心アキシアル荷重
(スラスト軸受全般)
合成荷重
(スラスト自動調心ころ軸受の場合)
外輪静止荷重
または
方向不定荷重
外輪回転荷重
穴の公差域クラス
0級
6級
H8 G7 H7 JS7 K7 M7
はめあい すきまばめ すきまばめ すきまばめ すきまばめ 中間ばめ 中間ばめ 中間ばめ
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