シャルピー
シャルピー衝撃試験(Charpy impact test)は、切欠きを持つ試験片に振子式ハンマーを衝突させ、破断に要した吸収エネルギーを測定する方法である。金属材料の脆性—延性遷移挙動、溶接部のじん性評価、熱処理条件の適否判定などに広く用いられる。標準化はJIS Z 2242およびISO 148-1、ASTM E23などで整備され、試験片寸法、切欠き形状、打撃条件、温度管理、表示方法が細かく規定されている。
原理とエネルギーの算出
シャルピーの基本原理は、振子の位置エネルギー差が破断仕事に等しいというエネルギー保存である。振子(質量m)が初期高さh1から自由落下して試験片を破断させ、反対側の上昇高さh2に到達する。このとき吸収エネルギーKは、K=mgh1−mgh2−損失補正で与えられる。実機では軸受摩擦や空気抵抗を事前に補正し、目盛板またはデジタル指示でK(J)を読む。最新機では打撃力—時間曲線F(t)を取得する計装化シャルピーもあり、破断開始時刻、最大荷重、エネルギー分配(き裂発生・進展)を分離評価できる。
試験片と切欠き形状
標準試験片は10×10×55 mmの角棒で、支点間隔40 mmのアンビル上に水平に支持する。切欠きはVノッチ(開き角45°、深さ2 mm、先端半径約0.25 mm)またはUノッチが用いられ、打撃は切欠きと反対面の中央に与える。サブサイズ(10×7.5×55など)も規格化され、寸法縮小時は吸収エネルギーの換算や受入れ基準を別途定める。切欠き加工はバリ・塑性変形・微小欠陥の有無が結果に直結するため、仕上げ粗さと先端半径を規格内に維持することが必須である。
評価指標と記録
シャルピーでは主に以下を記録する。①吸収エネルギー(KV、J)、②破面せん断率(シェアエリア%)、③側面膨出量(LE、mm)、④破面様相(結晶状・繊維状の割合、ディンプル観察)。エネルギーだけでなく破面の性状を併記することで、き裂の発生・進展機構や介在物の影響をより確実に把握できる。計装化では最大荷重Fmaxや発生エネルギーKi、進展エネルギーKpを分離して整備設計に活用する。
遷移温度と低温特性
フェライト—パーライト系鋼などは温度低下で脆化し、吸収エネルギーと破面様相が連続的に変化する。規格や仕様書では、27 J以上を満たす温度(T27J)や50%せん断率に達する温度(T50)を指標にすることが多い。低温機器、配管、橋梁、造船では、使用最低温度において要求エネルギーを満足させることが安全確保の基本である。温度調整は液体窒素やエタノール浴などで行い、浸漬時間や搬送時間を規定して打撃直前の試験片温度を管理する。
装置構成と運用
振子容量は一般に150〜450 J級が流通し、ストライカ先端半径(例:2 mm)が規格化される。支持台の平行度・高さ、衝撃中心の合わせ込み、振子支点のガタは系統誤差要因である。ゼロ点確認、摩擦損の空打ち補正、標準試験片(リファレンス)の定期確認によりトレーサビリティを確保する。自動給材・温調槽一体型の連続試験機では、温度レンジの広い遷移曲線取得が容易である。
結果に影響する要因
- 切欠き加工品質:先端半径・仕上げ粗さ・局所加工硬化
- 材料の微細組織:粒径、析出物、介在物、バンド組織、焼戻し状態
- 試験条件:打撃速度、試験片温度、支持条件、ストライカ摩耗
- 寸法効果:サブサイズ時のスケーリングと受入れ基準の設定
- 溶接継手:HAZ、溶接金属、バタリングの位置取りと試験片採取方向
関連する試験・規格の位置づけ
シャルピーは「切欠きじん性」の迅速評価法として、延性破壊支配の材料に対しても脆性破壊のリスク評価に対しても指標となる。アイゾット衝撃試験は試験片の固定・打撃方向が異なる別規格であり、数値の相互換算は原則行わない。破壊力学に基づくKやJ評価は継手や厚板の厳密設計に有効だが、工程監視や受入検査では扱いやすいシャルピーが依然として有力である。
設計・製造への活用
配管・圧力容器・建築鉄骨・自動車シャシ・造船などでは、使用温度域に対する必要じん性を材料仕様に組み込む。溶接施工条件の最適化(入熱、予熱・後熱、PWHT)や熱処理の選定(焼ならし、焼入れ・焼戻し)において、遷移曲線の左右移動と上限エネルギーの変化を確認する。鋼種開発では微量元素制御、脱酸・介在物低減、細粒化、ベイナイト・マルテンサイトの制御によりシャルピー特性の改善を図る。
実務の勘所(チェックリスト)
- 規格選定:JIS/ISO/ASTMで寸法・切欠き・温度・表示方法を一致させる。
- 温度管理:目標温度±1 °C程度で安定保持し、搬送時間を標準化する。
- 機差管理:ゼロ点・摩擦補正・標準片で日常点検、ストライカ摩耗を記録。
- 採取位置:圧延方向、板厚中央/表面、溶接部のHAZ位置を明確化。
- 記録様式:K(J)、LE(mm)、シェア%、破面写真、試験温度を一体管理。
計算とデータの扱い
目盛読みのシャルピーでは、吸収エネルギーKを直接読み取る。エネルギー法の基本式はK=mgh1−mgh2−ΔElossで、ΔElossは空打ちで求める。遷移曲線は温度TとKの関係をロジスティック関数やスプラインで近似し、T27JやT50を補間する。計装化シャルピーでは、F(t)からエネルギーを数値積分し、発生・進展寄与を分離できるため、溶接金属とHAZの差異評価に有効である。
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