クリーンブース
クリーンブースとは、アルミフレームなどの骨格に塩化ビニールカーテンや樹脂・金属パネルを組み合わせた壁材を取り付け、その内部にFFU(ファンフィルターユニット)などを用いてフィルター処理済みの清浄空気を循環させる局所清浄化設備である。建屋を丸ごと改修するクリーンルームと異なり、既存の工場フロアや一般室内に短期間・低コストで設置できる点が最大の特徴であり、半導体・電子部品・医薬品・食品など、製造・検査工程の部分的なクリーン化を必要とする産業で広く採用されている。清浄度はJIS B 9920(ISO 14644-1に準拠)のISOクラス6〜8(旧JIS規格のクラス1,000〜100,000相当)に対応可能であり、用途や工程要求に応じて仕様を柔軟に設計できる。
基本構造と構成要素
クリーンブースの骨格には軽量かつ加工性に優れたアルミ押出し形材が一般的に用いられ、ネジや専用ジョイントで組み上げるため現地での寸法変更や増設が容易である。壁材はソフトパーティション(塩化ビニールカーテン・透明樹脂シート)とハードパーティション(ポリカーボネート板・鋼板など)の2種類があり、視認性・耐衝撃性・帯電防止性能などの要件に応じて選定される。天井面にはFFU(ファンフィルターユニット)を配置し、内蔵ファンで外気を吸引してプレフィルターで粗塵を取り除いた後、HEPAまたはULPAフィルターを通過させ清浄空気をブース内へ均一に吹き出す。排気は床面や壁下部に設けた吸込口から行われ、ブース内を常時陽圧に保つことで外部からの汚染粒子の流入を抑制する構造となっている。
フィルター性能と清浄度クラス
クリーンブースに使用されるHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)は、JIS規格において粒径0.3μmの粒子を99.97%以上捕集し、かつ初期圧力損失が245Pa以下であることが定められた高性能エアフィルターである。さらに高清浄度が求められる工程では、粒径0.1μmの粒子を99.9995%以上捕集するULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)が採用される。清浄度はJIS B 9920に基づくISOクラスで管理されており、クリーンブースが対応するISOクラス6〜8では非一方向流方式(乱流希釈方式)が標準的に採用され、換気回数は1時間あたり10〜90回が目安となる。ISOクラス5以上の高清浄度が必要な場合は、一方向流方式のクリーンルームやクリーンベンチと組み合わせる運用も行われる。
| ISOクラス | 旧FED-209D相当 | 換気回数(回/時) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| クラス6 | クラス1,000 | 30〜90 | 電子部品・精密機器組立 |
| クラス7 | クラス10,000 | 20〜40 | 医薬品製造・食品加工 |
| クラス8 | クラス100,000 | 10〜20 | 一般機械・光学部品検査 |
気流方式
気流方式は大きく一方向流(層流)方式と非一方向流(乱流)方式に分かれる。クリーンブースでは主に非一方向流方式が採用され、天井の吹出口から供給された清浄空気が室内空気と混合・希釈されることで、浮遊粒子濃度を規定値以下に維持する。この方式は超高清浄空間には向かないものの、設備コストと清浄度のバランスに優れ、ISOクラス6〜8の用途に広く対応する。一方、半導体製造など極めて高いクリーン度が求められる局所作業台では、天井から床方向へ清浄空気を均一に流下させる垂直一方向流方式のクリーンベンチをクリーンブース内に併設し、二重のクリーン環境を構築するケースもある。
クリーンルームとの比較・メリット
建屋全体を改修するクリーンルームの新設には大規模な空調・電気・内装工事が伴い、完成まで数ヶ月を要することが多い。これに対してクリーンブースは、既存スペースにフレームとパネルを組み立て、FFUを設置するだけで稼働できるため、工期は数日〜数週間程度に短縮できる。コスト面でもクリーンルームの数分の一で導入可能であり、生産ラインの変更・拡張・移設にも柔軟に対応できる。また、柱脚部にキャスターを取り付けた移動式仕様にすることで、工程変更時のレイアウト組み直しも容易である。必要面積だけをクリーン化する局所クリーン化の考え方は、設備投資額と運用エネルギーの双方を最適化する合理的な手段として評価されている。
主な用途・適用分野
クリーンブースが利用される分野は多岐にわたる。電子工業・半導体・液晶分野では、基板や部品への微細粒子付着が歩留まり低下に直結するため、組立・検査工程に局所クリーン環境が不可欠である。医薬品・化粧品分野では、GMP(医薬品製造管理・品質管理基準)に対応した無菌・低菌環境の確保に活用される。食品加工では異物混入防止を目的とした清浄区画として機能し、大学・研究所・再生医療施設では培養や試料調製のためのクリーン作業空間として使われる。光学部品や精密金型の加工・測定においても、塵埃による傷や計測誤差を防ぐ目的でクリーンブースが設置されている。
- 電子工業・半導体・液晶:基板・部品の組立・検査
- 医薬品・化粧品:GMP準拠の製造・充填工程
- 食品加工:異物混入防止のための清浄区画
- 大学・研究所・再生医療:培養・試料調製作業
- 光学・精密機器:部品加工・寸法測定
設計・設置上の注意点
クリーンブースを設計・設置する際は、まず目標とするISOクラスを明確にし、それに必要な換気回数からFFUの台数と風量を算出することが基本となる。例えば3m×3m×高さ2mのブースをISOクラス7(換気回数40回/時)とする場合、容積18m³に対し1時間あたり720m³の清浄空気供給量が必要となる。壁材の選定では帯電防止性能の有無、作業内容の視認性、耐薬品性などを考慮する。運用開始後は定期的なパーティクルカウンターによる浮遊粒子測定でクラス維持を確認し、HEPAフィルターの圧力損失上昇を監視して適切な時期に交換することが求められる。また、作業員の入退室手順や専用作業着の着用など、生産設備の運用ルールを整備することも清浄度維持に直結する重要事項である。
維持管理と運用コスト
クリーンブースの維持管理における主な項目は、フィルター交換・清掃・定期測定の3点である。プレフィルターは比較的安価であり、汚れ具合に応じて数ヶ月おきに交換する。HEPAフィルターは通常2〜5年程度で交換時期を迎え、差圧計の値が初期値から規定量上昇した時点で新品に交換する。ブース内壁面や床面は発塵の少ない専用クリーナーで定期的に拭き取り清掃を実施する。FFUのファンモーターは長寿命であるがブラシレスDCモーターを採用した省エネ仕様への更新も進んでおり、工場全体のエネルギーコスト低減にも貢献する。パーティクルカウンターによる清浄度測定はISO 14644-2が推奨する周期(ISOクラス7・8では12ヶ月以内)を目安に実施するのが一般的である。
ソフトウォール型とハードウォール型の違い
壁材の選定はクリーンブースの性能と運用性を左右する重要な要素である。ソフトウォール型は塩化ビニールシートや透明帆布を使用するため、設置・撤去・改造が容易でコストが低く、小規模なクリーン化や頻繁にレイアウト変更が生じる工程に向く。ただし、気密性がハードウォール型より劣るため、高清浄度クラスの達成には不向きな場合がある。ハードウォール型はポリカーボネート板や鋼板・アルミ複合板などを用いるため気密性・強度・耐薬品性に優れ、長期間安定したクリーン環境を維持できる。医薬品製造や再生医療など厳格な衛生管理が求められる分野ではハードウォール型が選ばれることが多い。なお、SMIFやFOUP(Front Opening Unified Pod)のような密閉搬送容器と組み合わせることで、ブース外の清浄度クラスを下げながらも搬送中のウェハを高清浄度環境下に保つシステム設計も採用されている。
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