キログラム|プランク定数で定まる質量の単位

キログラム

キログラム(kilogram、記号:kg)は、国際単位系(SI)における質量の基本単位である。SIの7つの基本単位のなかで、名称に接頭語「キロ」を含む唯一の単位でもある。長いあいだ人工物の国際キログラム原器によって定義されていたが、2019年5月20日に施行された改定で、プランク定数の数値を固定する方式に移った。現在、日本国内で取引・証明に用いられる質量の測定値は、すべてこの定義までさかのぼることができる。

メートル法の誕生と水による定義

起源は18世紀末のフランスにある。1795年の法律は、質量の単位「グラム」を、融解する氷の温度における水1立方センチメートルの質量と定めた。グラムは実用には小さすぎたため、1799年に水1リットル分に相当する白金製の分銅「アルシーブ原器」がつくられ、これが事実上の基準になった。ただし、水の密度は温度によって変わる。密度が最大になる約4 ℃でも、水1リットルの質量は約0.999972 kgにとどまる。水を基準にする方法には、避けられない不確かさが残っていた。

国際キログラム原器の時代

1889年の第1回国際度量衡総会(CGPM)で、白金90 %・イリジウム10 %の合金でつくった円柱が国際キログラム原器として承認された。直径と高さはどちらも約39 mmである。原器はフランス・セーヴルの国際度量衡局(BIPM)で、三重のガラス鐘に覆われて保管された。同時に各国へ複製が配られ、日本は1890年にNo.6を受け取った。この日本国キログラム原器は、現在も産業技術総合研究所の計量標準総合センター(NMIJ、茨城県つくば市)が管理している。

約50マイクログラムのずれ

人工物である以上、表面の汚れや洗浄による変化は避けられない。約100年にわたる定期比較で、国際原器と各国の複製のあいだに最大約50 μg(相対値で約5×10-8)の差が見つかった。ただし、どちらが変化したのかを原理的に決めることはできない。基準そのものが動いている可能性を否定できない状態は、精密計測の分野で深刻な問題とみなされた。

2019年の再定義とプランク定数

2018年11月16日、第26回CGPMはSI基本単位の改定を全会一致で採択した。新しい定義では、プランク定数 h を 6.62607015×10-34 J·s と正確に固定する。J·s は kg·m2·s-1 と同じ次元なので、秒とメートルの定義が決まれば質量の単位も一つに決まる。施行日は世界計量記念日の2019年5月20日。この改定によって国際原器は定義としての役割を終え、130年続いた人工物による定義が終わった。

定義から実際の質量をつくる方法

定数を固定しただけでは、分銅を校正できない。定義から実際の質量をつくり出すことを「実現」と呼び、主に次の2つの方法が使われている。

キブルバランス法

キブルバランスは、英国国立物理学研究所(NPL)のブライアン・キブルが1975年に考案した装置で、以前はワットバランスと呼ばれていた。まず、おもりにかかる重力と、電流 I を流したコイルに働く電磁力を釣り合わせる。次に別のモードでコイルを速度 v で動かし、発生する誘導電圧 U を測る。2つの測定を組み合わせると mgv = UI の関係が得られる。電圧と電流をジョセフソン効果と量子ホール効果で測ることで、質量とプランク定数が結びつく。米国NISTやカナダNRCは、この方法で10-8台の不確かさを達成した。

X線結晶密度法(XRCD法)

もう一つは、原子の数を数える方法である。ケイ素28を99.99 %以上に濃縮した単結晶を、直径約94 mmの球に磨き上げる。球の直径はレーザー干渉計で、結晶の格子定数はX線干渉計で測り、そこから球に含まれる原子の数を求める。この値はアボガドロ定数(6.02214076×1023 mol-1)を介してプランク定数に換算できる。NMIJはこの国際プロジェクトに参加し、球の体積の精密測定などを通じて、新しい定義に使う定数値の決定に貢献した。

分銅の精度等級と許容誤差

工場や検査室で使う分銅の精度等級は、国際法定計量機関(OIML)の勧告OIML R 111と、これに整合したJIS B 7609で定められている。1 kg分銅について、主な等級の最大許容誤差を次の表に示す。

等級 1 kg分銅の最大許容誤差 主な用途
E1 ±0.5 mg 国家標準の維持、上位の校正
E2 ±1.6 mg 校正事業者の参照標準、分析天秤の校正
F1 ±5 mg 精密天秤の日常点検
F2 ±16 mg 工業用はかりの点検
M1 ±50 mg 台はかり、製造ラインの計量器の点検

実務では、点検する電子天秤の目量に比べて許容誤差が十分小さい等級を選ぶ。最小表示0.1 mgの分析天秤ならE2、目量1 gの台はかりならM1で足りることが多い。等級が上がるほど分銅本体と校正の費用は高くなり、E2級の1 kg分銅では証明書付きで数万円を超えることも珍しくない。品質マネジメントシステムISO 9001の審査では、点検用分銅に国家標準へのトレーサビリティがあるかを確認される。そのため、JCSS校正証明書付きの分銅を1~2年ごとに再校正するのが一般的な運用である。素手で触れると皮脂や水分が付き、E2級では数十μg単位の変化が起こりうる。手袋とピンセットを使い、使用前に室温へなじませるといった扱いも欠かせない。

質量と重さの違いと地域による表示差

質量は場所によって変わらない。しかし、ばねばかりやロードセル式の電子はかりが実際に検出しているのは、物体にかかる重力、つまり重さである。重力加速度は緯度と標高によって変わり、国内でも札幌付近の約9.805 m/s2と那覇付近の約9.791 m/s2では0.1 %以上の差がある。1 kgの物体なら、表示が約1.4 g違う計算になる。このため計量法は、取引・証明に使うはかりについて使用地域を定め、その地域に合わせて調整したものを使うよう求めている。工場の移転やはかりの転用で設定を見直さないと、出荷重量の誤差の原因になる。天秤で分銅と直接比べれば重力の影響は打ち消せるが、空気の浮力の影響は残る。協定質量では、空気密度1.2 kg/m3、分銅密度8000 kg/m3を基準条件として浮力を扱う。

表記と接頭語の扱い

記号は小文字で「kg」と書き、「Kg」や「KG」は誤りになる。SI文書やISO 80000-1の表記規則では、数値と単位記号のあいだに半角スペースを入れる。すでに「キロ」が付いているため、接頭語はグラムを基準に付ける。たとえば103 kgは「キロキログラム」ではなく「メガグラム(Mg)」と書く。ただし実務ではSIとの併用が認められたトン(t)を使うのが普通で、1 t = 1000 kgである。小さい単位はミリグラム(mg)、マイクログラム(μg)と続き、製薬や半導体材料の秤量ではμg単位の管理が日常的に行われている。

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