キャスター|機器や台車を自在に動かす車輪部品

キャスター

キャスターとは、台車・機械装置・什器などの底部に取り付け、人力または動力で移動させるための車輪ユニットである。車輪単体ではなく、車輪・軸・取付金具(フォーク、ブラケット)を一体化した機械要素であり、走行機能に加えて旋回機能や制動機能を持たせることができる。国内ではJIS B 8920「キャスタ」に用語・種類・試験方法が規定され、車輪径は50mm、75mm、100mm、125mm、150mmといった系列が普及している。搬送現場では許容荷重・床面条件・走行速度に応じた選定が求められ、材質や取付方式の組み合わせは数千通りに及ぶ。

固定式と自在式

走行方向の自由度による分類が最も基本的である。固定式(rigid caster)は取付金具に対して車輪の向きが変わらず、直進性に優れる。自在式(swivel caster)は旋回軸まわりに360度回転するフォークを備え、旋回軸と車輪軸の間にオフセット(トレール)を設けることで、進行方向へ車輪が自然に追従する。旋回部の内部には玉軸受やボール転走路が組み込まれ、荷重を受けながら軽い旋回を実現する。台車では前2輪を自在式、後2輪を固定式とする配置が定番で、直進安定性と小回り性を両立できる。4輪すべてを自在式にすると横移動が容易になる反面、長距離の直進では蛇行しやすい。狭い通路で機械を据え付ける現場では、あえて自在式4輪+旋回ロック付きを選び、据付時だけ直進性を確保する使い方もある。

取付方式の種類

取付方式は装置側の構造で決まる。プレート式は平板金具を4本のボルト六角ナットで固定する方式で、許容荷重が大きく産業機械で主流である。締結部には緩み対策としてばね座金ワッシャを併用する。ねじ込み式は雄ねじ軸を装置のめねじに直接ねじ込む方式で、M12やM16のねじ径が一般的である。差込み式(ステム式)はパイプ脚に差し込んで固定するため什器や医療機器に多い。装置レイアウト変更が頻繁な工場では、プレート式を選んでおくと交換部品の入手性が高く、保全上有利である。

車輪材質と使い分け

車輪材質は走行性・床面保護・耐薬品性を左右する。機械材料としての性質を踏まえた使い分けの目安を下表に示す。

材質 特徴 主な用途
ゴム 弾性が高く静音、床を傷めにくい オフィス什器、病院
ウレタン 耐摩耗性と耐荷重の均衡が良い 工場台車、AGV
ナイロン 硬く転がり抵抗が小さい、耐薬品性良好 重量物搬送、食品工場
鋳鉄・鋼 高荷重・耐熱に強いが床を傷めやすい 炉前台車、金型搬送

ウレタン車輪の位置づけ

現在の産業用途で最も採用が多いのはウレタン車輪である。PU(ポリウレタン)は硬度をショアA90前後に設計でき、ゴムに近い床面保護性とナイロンに近い転がり性能を両立する。アルミや鋳鉄の芯金にウレタンを焼付け成形した構造が主流で、使用温度はおおむね−20℃から+80℃が目安となる。単価はゴム車輪の1.5倍から2倍程度になるが、摩耗寿命が長く床のゴム汚染(黒い筋)も出にくいため、クリーンな床面を維持したい半導体工場や食品工場ではウレタン一択という運用が多い。

許容荷重と軸受の選定

許容荷重の計算では、積載物と台車自重の合計を車輪数で割った値をそのまま使ってはならない。床の凹凸や段差乗り越え時には一部の車輪へ荷重が集中するため、実務では4輪台車でも3輪で支える前提とし、1輪あたり必要荷重=総荷重÷3に安全率を掛けて選定する。JIS B 8920の走行試験は速度4km/h以下の人力搬送を想定しており、動力牽引で速度が上がる場合はメーカーの動荷重仕様を別途確認する必要がある。車輪軸の軸受には、軽荷重用のすべり軸受(樹脂ブッシュ)、中荷重以上の転がり軸受が使われ、静音性を重視する機器では深溝玉軸受、限られた車輪幅で高荷重を受けたい場合にはローラーベアリングが選ばれる。旋回部と車輪部の双方にボールベアリングを備えた仕様は、走行抵抗が小さく作業者の負担軽減につながる。

ストッパーと制動機構

停止保持にはストッパー付きキャスターを用いる。車輪の踏面をペダルで押さえる車輪ブレーキ、旋回と車輪の両方を同時に固定するダブルストップ、レバー操作で本体を持ち上げて接地を切り離すフロート式などがある。傾斜床に置く装置や、作業反力を受ける作業台では、4輪中2輪以上へダブルストップ仕様を指定するのが安全設計の定石である。ストッパーの保持力は経年で低下するため、踏面ゴムの摩耗とペダルの戻り不良を定期点検項目へ含めるとよい。

使用環境と表面処理

金具の材質と表面処理は使用環境で選ぶ。一般環境では鋼板プレス金具に亜鉛めっきや溶融めっきを施した仕様が標準で、コストを抑えられる。洗浄水や薬品がかかる食品・医薬環境ではSUS304のステンレス金具が用いられ、金属材料の種類の中でも耐食性を優先した構成となる。導電性床が必要な電子機器組立工程では、体積抵抗率を下げた導電性ウレタン車輪(抵抗値104Ω程度)を選定し、静電気による素子破壊を防ぐ。高温炉周りでは樹脂車輪が使えないため、フェノール樹脂や鋳鉄車輪に耐熱グリースを組み合わせる。

保守と交換の目安

キャスターは消耗部品である。踏面の摩耗が新品径の5%を超える、旋回部にガタが出る、走行音が急に大きくなる、といった症状は交換時期のサインとなる。グリース補給が可能な仕様であれば、旋回部への給脂を半年から1年ごとに行うと旋回の重さと異音を予防できる。プレート寸法とボルト穴ピッチを控えておけば、メーカーが異なっても互換品を短納期で手配でき、設備停止時間を最小化できる。台車1台あたりのキャスター費用は総製作費の1割前後にすぎないが、走行性の良否が作業者の疲労と搬送効率を直接左右するため、安易な低価格品への置き換えは避けたい部品である。

コメント(β版)