エーゲ文明|エーゲ海に栄えた古代文明,世界史

エーゲ文明

エーゲ文明は、前3000~前1200年頃、エーゲ海を中心に栄えた青銅器文明である。ヨーロッパ・アジア・アフリカの3つの大陸に囲まれた地中海とその沿岸地中海世界のでは、エーゲ海の島々とバルカン半島にオリエントの影響をうけた独自の文明が生まれた。特に前2000~前1400年頃に栄えたクレタ文明と、前1600~前1200年頃に栄えたミケーネ文明は後の古代ギリシアやローマに大きな影響を与えた。様々な地域文化が相互に影響し合いながら、地中海世界の黎明期に高度な建築技術や航海術、芸術性豊かな工芸品を生み出したことで知られる。

エーゲ文明

エーゲ文明

エーゲ文明は伝説と考えられていた

19世紀の半ばまで、ホメロスの叙事詩によって語られる英雄が活躍したギリシア地方の文明は、伝説であると考えられていた。あくまでも未開の地であって、しだいに都市国家であるポリスが出来、ソクラテスアリストテレスといった哲学者が活躍する古代ギリシアが花開いた、とされていた。しかし、ドイツ人の考古学者シュリーマンはホメロスの詩は実際の歴史を描いていると信じ、小アジアやギリシアの発掘をおこない、ミケーネ文明を発見する。遅れて、イギリスのエヴァンズはクレタ文明を発見し、ポリスが出来る数百年前に、ホメロスに伝わる、華やかなエーゲ文明が繁栄していたことが確実となった。

自然環境

地中海の沿岸部は雨量は少なく、ギリシアでは年間400mmから500mmで、それも秋から冬に集中して降り、夏は乾燥して暑い。ナイル川をのぞくと大河はなく、山地が海岸まで迫り、平野はせまく、山脈で区切られる。土地は石灰岩や片岩質でやせており、表土は浅く保水力も小さい。したがって、ナイル下流や北イタリアの穀物農業に適した地域以外では、麦などの栽培にはたえず空耕して保水力を維持するための労働が必要であった。

エーゲ海

エーゲ海一帯は海上交通の便に優れ、交易ルートの結節点として多様な価値観と物資が行き交った結果、特有の国際性と洗練を伴う文明が育まれたと考えられている。

オリーヴ・ぶどう・いちじく

干ばつの危険が常にあったから、オリーヴ油を輸出して穀物を輸入するなどの努力がはらわれ、交易は活発におこなわれた。地中海はこのように、人々の生活に不可欠の役割を果たし、この世界の均質な都市的文明を生みだす要因となった。しかし、オリーヴ・ぶどう・いちじくなどの果樹栽培には好適で、牧畜では牛・豚など大形家畜よりも羊・山羊の飼育に適していた。人々の多くは沿岸部に分かれて住み、陸の交通が困難だったために地中海の航路を利用した。

オリーブ・ブドウ

オリーブ・ブドウ

クレタ文明

  • 文明:クレタ文明
  • 民族:不明
  • 政治:王が権力を持つオリエント式政治風土
  • 美術:彩色土器や宮邸生活の壁画、写実的でダイナミックな画法
  • 滅亡:アカイア人により滅亡されたと考えられている
  • 発掘:イギリスの考古学者エヴァンス
  • 文字:絵文字、線文字A(未解読)
クレタ島で見つかった壁画

クレタ島で見つかった壁画

ミケーネ文明

  • 文明:ミケーネ文明
  • 民族:アカイア人(ギリシア人)
  • 政治:小国家が分立
  • 美術:抽象性が高く幾何学模様の陶器、壁画(戦士・馬・狩猟)
  • 滅亡:ドーリス人または海の民により滅亡
  • 発掘:ドイツの考古学者シュリーマン
  • 文字:線文字B(ヴェントリスが解読)

トロヤ文明

  • 文明:トロヤ文明
  • 民族:不明
  • 政治:王が権力を持つオリエント式政治風土
  • 美術:顔・動物をかたどった壺、ミケーネ文明と同じ傾向が認められる
  • 滅亡:アカイア人により滅亡
  • 発掘:ドイツの考古学者シュリーマン

ミノア文明

クレタ島を中心に展開したミノア文明は、エーゲ文明の中でも特に優れた芸術と建築で知られている。紀元前2000年頃から壮麗な宮殿群(クノッソス、ファイストス、マリアなど)が建造され、幾何学模様や動物・植物をモチーフとした彩色豊かな壁画が発達した。また、海洋国家としてエーゲ海一帯に航海路を確立し、多彩な物産を行き来させている。文字は線文字Aが使用されたが、未解読の部分が多く、政治構造や宗教については不明点が残る。しかし平和的かつ豊かな社会であったと推測され、クノッソス宮殿に象徴されるように防壁が見られない点が特徴的である。

キクラデス文明

  • エーゲ海キクラデス諸島に発達
  • 大理石製の偶像(キクラデス・フィギュア)が代表的芸術作品
  • 交易拠点としてミノア・ミケーネ両文明と交流が盛ん

線文字

線文字は、エーゲ文明で使われた線状の文字である。クレタ文明後期のものを線文字A、ミケーネ文明期のものを線文字Bという。線文字Aは未解読であるが、線文字Bはイギリスの考古学者ヴェントリスによって解読されている。

エーゲ文明に関する考古学者

  • シュリーマン(1822ー90):ドイツの考古学者。幼い頃からホメロスの叙事詩の内容を事実と信じ、1870年以降トロイア(トロヤ)・ミケーネ地方を発掘し、その実在を証明した。
  • エヴァンズ(1851~1941):イギリスの考古学者。1900年以降クノッソス宮殿跡を発掘し、クレタ文明を発見した。
  • ヴェントリス(1922ー56):イギリス人建築家。1952年、線文字Bの解読に成功し、その言語が古ギリシア語であることを証明した。

衰退とその影響

エーゲ海一帯を繁栄に導いたエーゲ文明は、紀元前1200年頃を境に大きな断絶を迎える。その原因としては、自然災害(地震や火山噴火、津波など)の発生や、外部民族による侵入、内乱などが複合的に重なったと推測されている。特にクレタ島ではサントリーニ島(テラ島)の火山噴火が環境破壊と社会混乱をもたらし、ミノア文明を大きく後退させる一因となった。さらにギリシア本土のミケーネ文明も、同時期に謎の崩壊を遂げ、「暗黒時代」に突入することになる。

暗黒時代

暗黒時代とは、前12~前8世紀のギリシア史上の混乱時代である。エーゲ海はクレタ文明からミケーネ文明が現れたが、ミケーネ文明の滅亡後の約400年間は史料が残されておらず、ほとんど不明であることから暗黒時代と名づけられた。暗黒時代に青銅器時代から鉄器時代に移行し、前8世紀頃からポリスを中心とした新たなギリシア文明の時代に入る。

海の民

海の民とは、前13世紀末~前12世紀初めにかけて、東地中海一帯の広い地域を混乱させた民族系統不明の民族である。ミケーネ文明の突然の衰退とも関係していると考えられているが、詳細はわかっていない。

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