ウォームギア
ウォームギアとは、ねじ状の軸部品である「ウォーム」と、これにかみ合う円板状の歯車である「ウォームホイール」を組み合わせた動力伝達用の機械要素である。入力軸と出力軸が空間的に直交しながらも互いに交わらない位置関係にあるのが特徴で、他の歯車と比較して非常に大きな減速比を、比較的小さな装置寸法で実現できる点に優れている。歯面どうしがすべりながらかみ合う構造であるため動作音が静かで振動も少ないが、摩擦損失が大きく伝達効率が低下しやすい性質も併せ持つ。この特性ゆえに、減速機や割り出し装置、コンベアの駆動部など幅広い産業機械に採用されている。
構造と噛み合いの原理
ウォームは、円筒状の軸にねじ山を連続的に刻んだ形状をしており、その形状は台形ねじやねじ歯車に近い。ウォームホイールは、この螺旋状の歯すじを受け止められるように歯面をわずかにえぐった形状の円板歯車で、平面上で見ると通常の歯車の種類に含まれる曲面歯形をとる。ウォームが回転すると、そのねじ山がウォームホイールの歯を一枚ずつ押し出すようにして回転運動を伝達し、ウォームの条数(ねじ山の本数)とウォームホイールの歯数の組み合わせによって減速比が決定される。かみ合いは点または線接触に近く、他のギアセットに多い転がり接触とは異なり、歯面全体がすべりながら力を伝える点に構造上の特徴がある。この接触形態は歯面圧力が局所的に高くなりやすく、面圧や滑り速度の管理を誤ると初期段階で摩耗が急激に進行しやすいため、設計段階での歯当たり調整が重要な工程となる。
歯車要素と各部の名称
ウォームギアの各部は、リード角、モジュール、ピッチ円直径、条数など、通常の歯車と共通する要素で規定される。減速比は、ウォームホイールの歯数をウォームの条数で割った値として求められ、単純な構成でも百対一を超える大きな比率を得ることが可能である。この計算方法は基本的に平歯車などの歯車比の考え方と同じであるが、ウォームが複数条になる場合は計算上の注意が必要になる。設計図面への表記方法は歯車の製図の規定に準じ、リード角や歯直角モジュールなどの要目を別表にまとめて記載することが多い。
リード角と条数
リード角とは、ウォームのねじ山が軸に対してどれだけ傾いているかを示す角度であり、この角度が大きいほど一回転あたりの送り量が増えて効率は向上するものの、自己保持性はしだいに弱まる傾向にある。条数は一条から数条まで設計されるが、条数を増やすほど減速比は小さくなり、逆に効率は高くなるため、用途に応じた最適な組み合わせが選定される。
使用材料と表面処理
ウォームには耐摩耗性と強度が求められるため、機械構造用鋼に浸炭焼入れや高周波焼入れなどの表面硬化処理を施したものが多く用いられ、歯面を研削仕上げすることで滑らかなかみ合いを確保する。一方、ウォームホイールには、なじみ性と耐焼付き性に優れたりん青銅などの銅合金が使われることが一般的で、硬いウォームと柔らかいウォームホイールを組み合わせることで摩耗を一方の部品に集中させ、交換や補修の負担を軽減する設計思想が採られている。基材となる炭素鋼の選定も、要求される強度と加工性のバランスを踏まえて行われる。
潤滑と伝達効率
歯面が広い範囲ですべりながら接触する構造上、ウォームギアは他の歯車機構に比べて摩擦損失が大きく、伝達効率はおおむね五十パーセントから九十パーセント程度にとどまることが多い。効率を左右する主な要因はリード角、面粗さ、潤滑状態であり、粘度の高い潤滑油を用いた油浴潤滑や強制給油によって歯面の焼付きを防止する設計が一般的である。潤滑が不十分な状態で高負荷運転を続けると発熱が進み、油潤滑式軸受と同様に油膜切れによる摩耗や損傷を招く危険性がある。潤滑油には、金属間の直接接触を抑えるための極圧添加剤を配合したものが選ばれることが多く、使用環境の温度域に応じて粘度等級を適切に選定することが、長期的な耐久性を左右する重要な要素となる。
自己保持性とその利用
ウォームギアの大きな特徴の一つが自己保持性(セルフロック性)であり、ウォーム側からウォームホイールへは容易に動力が伝わる一方、逆にウォームホイール側からウォームを回そうとする力はほとんど伝わらない性質を指す。リード角が小さい設計ほどこの性質は強く現れ、外力による逆回転を防ぐ安全機構として、巻き上げ機やエレベーターの保持ブレーキ代わりに利用されることがある。ただし、リード角や潤滑状態によっては逆入力が可能になる場合もあるため、安全上重要な用途では別途ブレーキ機構を併用するのが一般的である。
製造方法
ウォームの歯切りには、旋盤加工に近いねじ切りの原理を応用した専用工具や、ホブ盤を用いた創成加工が採用され、ウォームホイールの歯切りには、ウォームと同じ形状のホブを用いる専用の歯切り盤が使われることが多い。仕上げ工程では、歯面の面粗さを向上させるために研削やラッピングが行われ、かみ合い精度と静音性の向上が図られる。
用途
ウォームギアは幅広い産業機械に用いられており、代表的な用途は次のとおりである。
- 減速機や動力伝達装置における減速段としての利用
- トランスミッションやファイナルギアと組み合わせた特殊な減速機構
- 工作機械の割り出し装置や送り機構
- エレベーターや巻き上げ機の駆動部
- ステアリングギアボックスなど自動車の操舵系部品
長所と短所
| 項目 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 減速比 | 小型でも大きな減速比を得られる | 多段化しなくても済む反面、増速用途には不向き |
| 静音性 | すべり接触で静粛かつ低振動 | 摩擦により発熱しやすい |
| 効率 | 構造が単純で組み立てやすい | 伝達効率が低下しやすい |
| 安全性 | 自己保持性による逆回転防止 | 潤滑管理を怠ると焼付きの危険がある |
呼称についての補足
なお、ウォームギアは英語のworm gearに由来する用語であり、日本語の文献や規格では「ウォームギヤ」と表記されることも多く、両者は同一の機構を指す表記の違いにすぎない。技術資料を参照する際には、どちらの表記も同じ概念を示すことを念頭に置く必要がある。設計者や購買担当者が資料を横断的に参照する場合には、両方の表記で検索を行うことで見落としを防ぐことができる。
コメント(β版)