ウェットエッチング
ウェットエッチングとは、半導体製造や微細加工などで用いられる素材除去手法の一つであり、主に液体の薬液を使って対象物質を化学的に溶解・除去するプロセスを指す。薬液に浸漬して不要部分のみを選択的に溶解除去できるため、シリコン基板や金属層の微細加工に広く利用されてきた。ただし薬液の浸透によるエッチング速度の差や、マスク下への横方向の浸食など、プロセスを安定させるうえで考慮すべき要因も多い。最近では微細化の進行に伴いウェットエッチング以外の手法も注目される一方、コスト面や大量生産性から根強い需要が存在している。
定義と基本原理
ウェットエッチングは、材料を化学反応によって液中で溶かす工程である。シリコンをはじめとする半導体材料では、特定の結晶面が薬液と反応しやすい性質を活かして、アニソトロピック(異方性)エッチングを行うことが可能である。たとえばKOH(水酸化カリウム)溶液を用いた場合、結晶の配向に応じて溶解レートが異なるため、V字形状のトレンチや特定の勾配をもつ形状を実現できる。材料表面にフォトレジストや金属マスクを施し、必要部分だけを選択的にエッチングすることで、微細パターンを生成する仕組みになっている。
主な薬液とエッチング機構
代表的なウェットエッチングの薬液には、酸系(HF、HNO3など)、アルカリ系(KOH、TMAHなど)、および各種金属エッチャー(塩化第二鉄、硝酸など)がある。酸やアルカリは素材に対して特定の化学反応を起こし、表面をイオンレベルで溶解させる。結晶配向が関わる場合は、分子の衝突頻度や結晶格子の密度によってエッチング速度が変化する。酸化膜や窒化膜が保護層として働く場合は、エッチング液が基体に到達しないため、狙った領域だけを効果的に加工できるのである。
プロセス条件の重要性
薬液の濃度や温度、撹拌速度、エッチング時間などのパラメータは、ウェットエッチングの結果を大きく左右する。濃度が高いほどエッチング速度は上がる傾向にあるが、表面が荒れやすくなるなどの問題も生じる。温度を高めると化学反応速度は増すものの、異方性エッチングでは狙った結晶面を保護するための最適な温度域が存在する。撹拌によってエッチング生成物を除去しやすくする一方、過度な撹拌は表面形状のばらつき要因になりかねない。これらの条件を統合的に設計することで、再現性の高いパターン形成が可能となる。
ドライエッチングとの比較
ウェットエッチングは薬液に浸漬するだけのシンプルな工程ゆえ、ドライエッチングに比べて設備コストが低い場合が多い。大量生産ラインで一度に複数枚の基板を処理できるため、生産性にも優れる。一方、横方向への浸透によるアンダーカットや、エッチング速度の均一性に課題がある場合がある。ドライエッチングではプラズマを利用することでより精密なパターン制御が可能であるが、真空装置を要し工程が複雑化しやすい。実装用途やコスト要件、パターン形状などの要素を総合的に検討したうえで、ウェットエッチングかドライエッチングかを選択する流れが一般的である。
安全管理と環境への配慮
酸やアルカリなど強い薬液を扱うウェットエッチングでは、作業者の安全確保と環境への負荷軽減が極めて重要である。耐薬品性の高い装置や排気システム、緊急シャワー設備の整備はもちろん、取り扱いマニュアルの徹底や定期的な教育が欠かせない。廃液はそのまま廃棄すると水質汚染を引き起こすため、中和処理やイオン除去など適切な処理工程を経たうえで廃棄する必要がある。近年では薬液のリサイクルシステムも開発され、製造コストの削減と環境保全を両立させる取り組みが進んでいる。