アルゴンガス|溶接や電球に不可欠な希ガス

アルゴンガス

アルゴンガス(Argon gas、元素記号:Ar)は、原子番号18の希ガス元素であるアルゴンを主成分とする不活性ガスである。大気中に約0.93%含まれており、窒素・酸素に次いで3番目に多い気体成分にあたる。常温・常圧では無色・無臭・無味の単原子分子ガスであり、他の物質とほとんど反応しないという化学的安定性が最大の特徴だ。この不活性という性質を活かし、溶接のシールドガス、半導体製造プロセス、照明器具への封入ガスなど、幅広い産業用途に用いられている。工業的には空気の液化・分留によって大量生産されており、コスト面でも比較的入手しやすい産業ガスの一つである。

基本的な物性

アルゴンガスの原子量は39.948であり、空気(平均分子量約29)より重い。沸点は−185.8℃、融点は−189.4℃と極めて低く、常温では気体として存在する。希ガス(貴ガス)に分類されるため、最外殻電子が閉殻構造をとっており、イオン化エネルギーが高く化学反応をほとんど起こさない。熱伝導率は空気より低く、この性質は断熱用途にも応用される。また、電子との衝突断面積が大きいという特性があり、プラズマ生成が比較的容易なため、スパッタリングや放電加工などにも活用される。

物性項目
原子番号 18
原子量 39.948
沸点 −185.8℃
融点 −189.4℃
密度(0℃、1atm) 1.784 g/L
大気中濃度 約0.93%(体積比)

製造方法

工業用アルゴンガスの主な製造方法は、空気の深冷分離(液化分離)法である。まず空気を圧縮・冷却して液化し、沸点の差を利用した精留塔で窒素・酸素・アルゴンを分離する。アルゴンの沸点(−185.8℃)は酸素(−183.0℃)と近いため、粗アルゴン段階では酸素や窒素が混入しており、さらに触媒による脱酸素処理と吸着精製を経て高純度品(純度99.999%以上)に仕上げる。この方法は酸素・窒素ガスの製造と同時に行えるため、副産物として大量かつ安価にアルゴンを回収できる点が経済的優位性の源泉となっている。製造されたガスは高圧ガスボンベや液化アルゴンとして供給される。

産業用途

アルゴンガスが最も多く消費される用途は溶接分野である。次いで半導体・電子産業、照明、窓ガラス(複層ガラス)封入、分析機器向けと続く。その用途の広さは、化学的不活性・比較的安価・大量供給が可能という三要素が組み合わさった結果である。

溶接シールドガス

TIG溶接(タングステン不活性ガス溶接)およびMIG溶接(金属不活性ガス溶接)では、アルゴンガスがシールドガスとして用いられる。溶融金属が大気中の酸素・窒素・水素と反応すると酸化や気孔が生じ、溶接品質が著しく低下する。アルゴンはこれらの大気成分を溶接部から遮断し、清浄なビードを形成させる。ステンレス鋼・アルミニウム・チタンなど酸化しやすい材料の溶接では特に不可欠であり、純アルゴンのほか用途に応じてヘリウムや二酸化炭素を混合したガスも使われる。

半導体製造プロセス

半導体製造工程では、アルゴンガスは不活性雰囲気の形成・スパッタリング・イオン注入・CVD(化学気相堆積)など多岐にわたる場面で使用される。スパッタリングではアルゴンイオンをターゲット材料に衝突させて原子を弾き出し、基板上に薄膜を形成する。この際、アルゴンが化学反応を起こさないことが成膜の純度を保つ上で不可欠だ。また、熱処理工程でのアニール雰囲気としても利用されており、超高純度(6N:99.9999%以上)のアルゴンが求められる場合が多い。

照明と複層ガラス

白熱電球や蛍光灯の封入ガスとして、アルゴンガスは長年にわたり使用されてきた。タングステンフィラメントの蒸発を抑制し寿命を延ばす効果があるためだ。また、省エネ建材として普及している複層ガラス(ペアガラス・トリプルガラス)の中空層にアルゴンを封入することで、空気封入品に比べて熱貫流率(U値)を約15〜20%改善できる。アルゴンの熱伝導率が空気より低いことを利用した断熱技術であり、建築材料の省エネ化に貢献している。

分析機器への応用

ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法やICP質量分析法では、アルゴンガスがプラズマ生成ガスとして不可欠な役割を担う。高周波コイルで発生させた電磁場によりアルゴンがイオン化・プラズマ化し、試料を6,000〜10,000Kの高温に曝して原子・イオンを発光させる仕組みだ。アルゴンプラズマのスペクトルは既知の波長に限られるため、多元素の同時定量分析において妨害が少なく、金属・環境・食品・医薬品分野の微量元素分析に広く使われている。キャリアガスや内部標準としての役割も担い、ガスクロマトグラフィーにおいてもアルゴンが選択されるケースがある。

安全性と取り扱い

アルゴンガスは毒性・腐食性・可燃性をもたない。しかし無色・無臭であるため、漏洩が視覚・嗅覚で検知できないという危険性がある。密閉空間でアルゴンが漏洩すると酸素濃度が低下し、酸欠状態を引き起こす。酸素濃度が18%未満になると法令上の「酸素欠乏危険作業」に該当し、酸素欠乏症・最悪の場合は死亡事故につながる。日本では高圧ガス保安法によって製造・貯蔵・移動・消費に関する規制が定められており、取扱事業者はガス検知器の設置・換気の徹底・保護具の着用が義務づけられている。液化アルゴン(液アル)は極低温(約−186℃)であるため、皮膚接触による凍傷にも注意が必要だ。

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