ねずみ鋳鉄(FC材)|黒鉛が大きく、ねずみの尻尾に見える

ねずみ鋳鉄

ねずみ鋳鉄(Gray cast iron FC材)は古くから生産されていた一般的な鋳鉄であり、黒鉛が大きく、ねずみの尻尾に見えるためねずみ鋳鉄と呼ばれる。また、「特別な合金元素を添加していない」ことを意味して普通鋳鉄とよばれる。 ねずみ鋳鉄は、炭素が主にグラファイトの形で存在し、その結晶構造が特有の強度と脆性を持ち、耐摩耗性や振動吸収性を持つ。JIS記号では、FC100~FC350まで6種類が規定されているが、これは、FC+引張強さを示している。

歴史と発展

ねずみ鋳鉄の歴史は古く、紀元前の中国にまで遡ることができる。当時の技術者たちは、鉄鉱石を高温で溶解し、鋳型に流し込むことで初期の鋳鉄製品を作り出していた。18世紀に入ると、産業革命の進展とともにねずみ鋳鉄の利用は大きく拡大した。特に、蒸気機関のシリンダーや建設用部材として広く使用され、近代産業の発展に寄与した。

概要

ねずみ鋳鉄や普通鋳鉄という名前のほか、組織に分散している黒鉛の形状が三日月状であることから片状黒鉛鋳鉄ともよばれる。黒鉛を含むため、耐摩耗性や振動吸収性が優れている。ただし、三日月状の黒鉛の先端がとがっているため、鋳鉄の内部は亀裂状の欠陥が散在しており、さらに、このとがった部分には応力が集中して、クラック(割れ目)の発生ができる。そのため、もろく大きな塑性変形に弱い。切削加工には向かず、切りくずが連続的ではなくボロボロと粉状に発生する。

名称と引張強さ

ねずみ鋳鉄(FC材)は、FC100~FC350と規定されているが、ここでいう3桁の数字は、引張強さの最低保証値を表している。炭素鋼(たとえばSS400)と比べ、FC材の引張強さは小さく、大きな引張荷重を受ける構造材には適していない。

化学組成と構造

ねずみ鋳鉄の主要な化学成分は鉄(Fe)であり、炭素(C)とケイ素(Si)も重要な役割を果たしている。通常、炭素含有量は2.5%から4.0%、ケイ素含有量は1.0%から3.0%である。また、マンガン(Mn)、硫黄(S)、リン(P)などの微量元素も含まれる。炭素は主にグラファイトとして析出し、これがねずみ鋳鉄の特有の物理的性質を生む要因となっている。

グラファイトの形態

ねずみ鋳鉄におけるグラファイトは、通常、層状または鱗片状の形態をとる。これらのグラファイトの形態が、鋳鉄の強度と脆性に大きな影響を与える。層状のグラファイトは、応力がかかると裂けやすく、材料の脆性を増加させる。一方で、鋳鉄の硬度と耐摩耗性を高める効果もある。

ねずみ鋳鉄の製造

ねずみ鋳鉄は、主に溶解、鋳造、冷却、熱処理の4工程からなる。①溶解工程では、鉄鉱石とコークスを高炉で溶解し、溶けた金属を得る。②鋳造工程で、溶けた鉄を鋳型に流し込んで形状を作る。次に、③冷却工程に進み、炉内で金属を冷却し、凝固させる。固まったものを熱処理することによってつくり込む。この過程で、グラファイトが析出し、ねずみ鋳鉄特有の微細構造が形成される。最後に熱処理を行い、炭素分の球状化処理を行うことで材質を整える。

強靭鋳鉄

強靭鋳鉄(クロコダイル鋳鉄)とはねずみ鋳鉄の性質を改善した材料である。鋳鉄の材料にマグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)、セシウム(Ce)などを添加することで、黒鉛が球状化した球状黒鉛になる。球状黒鉛は脆さを改善し、特に伸びや耐摩耗性が飛躍的に改善する。強度が必要な自動車部品や水道管などに使われている。

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