電食|迷走電流腐食の原理と防食手法

電食

電食は、金属間の電位差や外来電流により局所的な電池作用が生じ、陽極側の金属が優先的に溶解する腐食現象である。一般に「ガルバニック腐食」や「迷走電流腐食」とも呼ばれ、配管継手、熱交換器、海洋構造物、埋設配管、電鉄近傍の鋼構造などで問題化する。腐食速度は電位差、電解質の導電率、温度、酸素濃度、面積比、流速などに依存し、設計と保全の両面で体系的管理が必要である。

定義と発生メカニズム

電食の基本は微小な「腐食電池」の成立である。異なる金属(例:鋼と銅)が導電性の電解質(水、湿膜、土壌水分)を介し電気的に接続されると、電位の卑な金属が陽極となり溶解し、貴な金属が陰極として保護される。陽極反応は金属の溶解、陰極反応は主に酸素還元や水素発生で進行する。外部からの直流(DC)迷走電流や電位勾配が加わる場合、自然電位差由来のガルバニック作用よりも大きな腐食が誘起されうる。

異種金属接触と電位差

異種金属接触による電食では、材料組み合わせの電位差と面積比が実務上の鍵である。電位差が大きいほど腐食駆動力は増し、さらに「小さな陽極×大きな陰極」の面積比は陽極側の電流密度を著しく高め、短期間で穿孔に至る危険がある。設計段階でガルバニックシリーズ(各金属の腐食電位序列)を参照し、近接配置や直接接触を避けることが推奨される。

ガルバニックシリーズの概念

海水中など代表環境で測定した電位序列をガルバニックシリーズという。マグネシウム、亜鉛、アルミニウム合金は卑で、銅、ニッケル、チタンは貴に位置づく。同一材料でも合金成分や熱処理、表面皮膜の状態で実効電位は変化し、局部電池を形成して電食を助長することがある。

電解質環境の影響

電解質の導電率が高いほど電食は進みやすい。塩化物イオンは受動皮膜を破壊し点食を促進するため、海水、融雪剤、汗などは危険度が高い。温度上昇は反応速度を増し、流速は酸素供給やスケールの剥離に影響する。pHは反応の律速や皮膜安定性を左右し、酸性側で溶解が促進されやすい。

差別曝露(通気差)電池

同一金属でも酸素濃淡や湿潤の差で電位差が生じる。隙間、ガスケット下面、堆積物下では酸素が枯渇し陽極化して電食が局所進行しやすい。これは異種金属が無くても起こる典型的な局部腐食機構である。

設計・材料選定の指針

  • 同種材の連続性を優先し、やむを得ない異材接続には絶縁スリーブ・絶縁ガスケットを介在させ電食の電気回路を断つ。
  • ガルバニックシリーズで近接する組み合わせを選ぶ。特に小面積部材(ボルト、薄板)を卑側に置かない。
  • 塗装・被覆は陽極側を重点的に。陰極側のみの被覆は返って陽極電流密度を増すことがある。
  • 犠牲陽極(亜鉛、アルミ、マグネシウム)や外部電源方式のカソード防食を適用し電食を抑制する。
  • 金属接触部は水たまりや塩分堆積を避ける形状とし、排水・通気を確保する。

面積効果と局部腐食

陰極面積が大きく陽極面積が小さいほど、陽極の単位面積当たり電流が増し電食が急速化する。特に銅配管と鋼製継手、ステンレスと炭素鋼の小物部などは要注意である。

配管・設備での事例

給水・冷却水ラインでは、銅合金チューブと鋼製管台の接触、温度差と塩分の影響が重なり電食が発生する。ボイラ補機や海水取水設備では塩化物、流速、気泡混入が複合して局部腐食を加速する。埋設配管では土壌抵抗率の分布や土壌化学が電位差を生み、塗覆装の欠陥部から穿孔が起こる。

電食と迷走電流

電鉄や直流送電の近傍では、レール・地中への漏れ電流が構造物に流入・流出し、流出点で激しい電食が起こる。排流器、排流線、絶縁継手の設置や、外部電源式カソード防食の適正制御により電位を管理することが重要である。

評価・試験法

開回路電位測定、分極曲線、交流インピーダンス法(EIS)、ライナープローブ、腐食クーポンが用いられる。埋設配管では参照電極に対する構造物電位を測り、保護基準内(例:−0.85V vs Cu/CuSO4 など)に維持されているかで電食抑制を判定する。現場では外観、肉厚測定、漏れ検知と併せて総合診断を行う。

防食技術の実務

防食は多層的に設計する。第一に材質選定(近接電位、耐食合金)、第二に電気回路の分断(絶縁継手・スリーブ)、第三に環境制御(脱塩・脱気・pH管理・排水)、第四に被覆(塗装、ライニング、テープ巻き)、第五に電気防食(犠牲陽極、外部電源式)を組み合わせる。緊急補修では陽極側への被覆補完や絶縁部材の後付けで電食の進展を抑える。

規格・指針

用語・評価・設計の参照として、国内外のJISやISO、防食学会指針、配管・建築設備の設計基準がある。特に電気防食の設計・監視は基準電位、排流管理、記録・点検周期を定め、長期的に電食リスクを管理する枠組みを構築することが望ましい。

安全・環境面の留意点

電食は圧力機器の漏えいや突発破損に直結し、二次災害や水質・土壌汚染を引き起こす。保全上は「微小漏えい=重大兆候」と捉え、定期点検、環境監視、材料追跡、変更管理(MOC)を徹底する。設計・施工・運用の各段階で情報を連携し、記録を残すことで、再発防止とライフサイクルコスト低減を実現できる。