電力自由化
電力自由化とは、地域ごとの大手電力会社が独占してきた電気の小売・発電事業に新しい事業者が参入できるようにし、市場の競争で料金やサービスを改善しようとする制度改革である。日本では1995年の電気事業法改正から段階的に進み、2016年4月に一般家庭を含む全面自由化に至った。2020年4月には送配電部門を別会社に切り分ける法的分離も実施され、発電・送配電・小売の3部門がそれぞれ異なるルールで動く体制になっている。
独占体制から自由化へ至る経緯
戦後の日本の電力供給は、1951年の電力再編成で生まれた9電力会社(1972年の沖縄返還後は10社)が、発電から小売までを地域ごとに一貫して担う垂直統合型であった。この方式は安定供給には適していたものの、欧米と比べて産業用電気料金が高いという批判が1990年代に強まる。そこで1995年、卸電力分野に独立系発電事業者(IPP)の参入が認められた。製鉄所や石油化学コンビナートの自家発電設備を活用した入札が始まり、これが電力自由化の出発点となった。
小売自由化の段階的な拡大
小売部門の開放は、契約電力の大きい需要家から順に進められた。大口ほど価格交渉力があり、新規参入者にとっても採算をとりやすいためである。各段階の対象範囲は次のとおりである。
| 実施時期 | 対象となった区分 | 契約電力の目安 | 主な需要家 |
|---|---|---|---|
| 2000年3月 | 特別高圧 | 2,000kW以上 | 大規模工場、百貨店、大型オフィスビル |
| 2004年4月 | 高圧(大口) | 500kW以上 | 中規模工場、スーパー |
| 2005年4月 | 高圧(全体) | 50kW以上 | 小規模工場、中小ビル |
| 2016年4月 | 低圧 | 50kW未満 | 一般家庭、商店、小規模事業所 |
2016年の全面自由化によって約8,000万件、市場規模にして約8兆円とされる低圧部門が開放された。家庭向けには、ガス会社や通信会社、石油元売りなど異業種からの参入が相次ぎ、登録小売電気事業者は700社を超える規模にまで増えている。
3つの部門と制度を支える機関
現在の電力事業は、発電事業・送配電事業・小売電気事業の3つに区分される。このうち送配電網は物理的に1本しか敷設できないため、地域独占が維持されている。その代わりに中立性が求められ、2020年4月の発送電分離で東京電力パワーグリッドや関西電力送配電などの一般送配電事業者が別会社として独立した。新電力が送配電網を使うときは、規制された託送料金を支払う。
制度運営の面では、2015年4月に電力広域的運営推進機関(OCCTO)が設立され、地域をまたぐ需給調整や連系線の運用を担っている。同年9月には電力・ガス取引監視等委員会も発足し、不当な販売行為や市場操作の監視にあたる。
日本卸電力取引所(JEPX)の役割
自社で発電所をもたない新電力にとって、電気の主な調達先は日本卸電力取引所(JEPX)である。JEPXは2003年に設立され、2005年4月から取引を開始した。翌日に受け渡す電気を30分単位、1日48コマで売買するスポット市場が中心であり、ここで決まる価格が新電力の仕入れ原価を大きく左右する。
市場価格高騰が示したリスク
2021年1月、寒波と液化天然ガス(LNG)の在庫不足が重なり、JEPXのスポット価格は一時251円/kWhにまで上昇した。平常時の10円前後から見れば20倍を超える水準である。調達を市場に頼っていた新電力の多くが逆ざやに陥り、2022年のウクライナ情勢による燃料高も加わって、事業撤退や新規受付停止が続出した。
契約先を失った高圧需要家は、一般送配電事業者による最終保障供給へ移ることになった。本来は一時的な受け皿にすぎない仕組みに、一時は4万件を超える契約が集中している。この経験から、価格の安さだけで事業者を選ぶ危うさが広く知られるようになった。
工場・事業所が契約を見直す際の実務ポイント
製造業の現場で新電力への切り替えを検討する場合、比較すべきは単価だけではない。高圧の契約電力は過去12か月の最大デマンド(30分平均電力の最大値)で決まるため、基本料金の算定方法が電力会社と同じかどうかをまず確認したい。そのうえで注意すべき点を挙げると、次のようになる。
- 市場連動型プランは平常時に安くても、需給ひっ迫時に請求額が数倍に跳ね上がるおそれがある
- 燃料費調整制度の上限の有無や、独自の電源調達調整費の算定式を契約前に確かめる
- 中途解約の違約金と、事業者撤退時の契約移行手続きを把握しておく
- 力率割引(基準85%)の扱いが従来の契約と同等かを見る
電気代が売上原価の数%を占める鋳造や熱処理、樹脂成形などの工場では、固定単価型と市場連動型を受電点ごとに使い分けたり、デマンドコントローラーで契約電力を抑えたりする手法が現実的である。切り替えにあたって高圧受電設備やキュービクルを改修する必要はなく、計量は送配電事業者のスマートメーターがそのまま使われる。
再生可能エネルギーとの関係
自由化は、電源を選んで電気を買うという新しい選択肢も生んだ。2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)で太陽光発電が急増し、非化石証書と組み合わせて実質再エネ100%をうたう料金メニューが登場している。RE100に加盟するメーカーにとっては、サプライチェーン全体の脱炭素を求められるなかで、こうしたメニューやオフサイトPPA(電力購入契約)が調達手段の一つとなった。
ただし再生可能エネルギーは天候で出力が変動するため、火力発電の調整力が欠かせない。新電力の増加で発電所への投資が細ったことから、2020年には4年後の供給力をあらかじめ確保する容量市場の初回オークションが行われ、2024年度から拠出金の負担が始まった。小売事業者が負担するこの費用は、最終的に需要家の電気料金にも反映される。
規制料金が残っている理由
低圧の全面自由化後も、大手電力会社の従量電灯などの規制料金は経過措置として存続している。十分な競争が育っていない地域で、消費者が選択肢を失わないようにするためである。規制料金は国の認可が必要で、燃料費調整額にも上限が設けられている。2022年度には燃料高騰で多くの自由料金がこの上限を上回り、規制料金のほうが安いという逆転現象が起きた。撤廃の時期は市場の競争状況をみて判断されることになっており、電力自由化の完成形をどう描くかは、いまも議論が続いている。
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