重油|船舶・発電で使う重質高粘度燃料

重油

重油は、原油の常圧・減圧蒸留後に残る残渣分を主体とする燃料油である。高い粘性と高含炭素・高含硫黄が特徴で、ボイラー、火力発電、大型船舶の主機関などに広く用いられる。発熱量はおおむね40~42 MJ/kg、密度は0.90~0.99 g/cm3程度で、価格優位性が高い一方でSOx・NOx・PMの排出が課題である。近年はIMO 2020規制により低硫黄のVLSFOやMGOへの転換が進み、従来のHFOは排ガス浄化装置と併用されることが多い。用途・性状・規格を理解することは設備設計・運用・保全に直結する。

定義と分類

国内ではJIS K 2205により、A重油・B重油・C重油に大別される。Aは留出系が多く粘度が低い軽質側、Cは残渣分主体で粘度が高い重質側、Bは両者のブレンドと位置付けられる。国際海運ではISO 8217に基づきRMA~RMK(残渣系)やDMA~DMZ(留出系)で規定され、船舶用は運転温度での粘度・密度・硫黄分・灰分・水分・TSP(沈殿)などが管理対象となる。

性状と規格の要点

粘度は設計・運用の最重要指標で、C重油は50°C換算でおおむね180 cStや380 cSt級が流通する。引火点は通常60°C以上、流動点は-5~+30°C程度と配合で大きく変わる。硫黄分はVLSFOで0.50%以下、ECAでは0.10%以下が一般的である。密度は15°Cで計測し、比重・体積補正に用いる。これらの項目はJIS・ISOの試験法(例えば動粘度、ASTM D445相当)で評価される。

製造プロセス

重油は常圧・減圧蒸留の残渣に、減圧残油、溶剤脱アスファルト油、接触分解油、軽油留分などを配合して粘度・硫黄・残炭を調整して製造する。必要に応じてHDS(脱硫)や脱金属処理を施し、設備側の要件に合わせたブレンディングで規格を満たす。ブレンド安定性はアスファルテンの溶解状態に依存し、相溶性を外すとスラッジが生成して配管・噴射系を閉塞させる。

主な用途

産業用ボイラー・加熱炉・コージェネ、ディーゼル機関の大形二冲程主機、補機発電機などで使われる。A重油は小中規模ボイラーやガスタービン補助燃料、C重油は大型船舶や大規模ボイラー向けが典型である。燃焼系は粘度・霧化性・着火性(セタン指数相当)に依存し、バーナーや噴射ノズルの選定・噴霧圧・予熱温度を合わせ込む必要がある。

取り扱いと安全

重油は常温で高粘度のため、貯槽・配管・ろ過装置に蒸気や電気の予熱源を設置し、ポンプ吸込みでのNPSH確保と粘度低減を図る。引火点は軽油等より高いが、霧化時は可燃性が増すため火気管理が必要である。長期保管では水分混入・微生物増殖・スラッジ析出に留意し、循環ろ過とドレン排出を定期実施する。

環境影響と規制動向

SOxは硫黄分に比例し、ECAでの上限0.10%やグローバル0.50%(IMO 2020)が基準となる。NOxは燃焼温度・滞留時間に依存し、EGRやSCRで低減する。PMは未燃炭素やS関連化合物・アスファルテンに起因し、霧化改善と燃焼最適化、適切な前処理が有効である。スクラバー併用時は排水処理にも規制が及ぶ。

粘度管理と加熱設定

目標は燃料噴射系入口での動粘度10~15 cSt程度が目安である。C重油380級なら供給温度120~140°C、180級なら100~120°C程度が多い。過加熱は燃料ポンプの潤滑低下やシール劣化を招き、加熱不足は霧化不良・カーボン生成を増やす。配管は熱保持のため保温・トレースを併用する。

試験項目と現場管理

  • 動粘度(cSt, 50°Cまたは40°C)
  • 密度(15°C)、比重換算
  • 硫黄分(wt%)、灰分、残炭(CCR)
  • 水分、全沈殿分(TSP)、金属分(V・Ni)
  • 流動点・析ろう点、引火点
  • 安定性・相溶性(ブレンド適合性)

設計・運用の実務ポイント

燃料系統は予熱器・粘度制御器・遠心分離機・二重ろ過・循環ラインで構成する。ポンプは歯車式やねじ式を選定し、吸込み側の圧力損失を最小化する。バーナーは油圧噴霧またはエアアシスト方式を使い、燃焼室は滞留時間・空気比・二次空気の混合を最適化する。運用ではロット差に応じた温度再設定と、スラッジ監視を日常点検に組み込む。

トラブル事例と対策

スラッジ詰まりは不相溶ブレンドや低温域の滞留で起こる。対策は燃料切替時の段階的混合、オンライン粘度監視、分離機の吐出最適化である。燃焼不良による未燃カーボンは霧化不良・過負荷・空気比不足が原因で、ノズル交換・噴霧圧調整・二次空気の再配分が有効である。腐食は高硫黄燃料の低温域酸露点に起因し、運転温度を露点以上に保持する。

代替燃料との比較

LNGはSOxゼロ・NOx低減・PM低減で優位だが供給網と初期投資が課題である。VLSFOは既存設備の改造が小さい一方、安定性・潤滑性のばらつきがある。MGOは清浄だがコストが高い。スクラバー併用のHFOは燃料費メリットが大きく、運転・保全と規制適合コストの最適点を個別に評価する。

用語の整理

HFO(heavy fuel oil)は残渣系全般、IFO(intermediate fuel oil)は留出と残渣の混合、VLSFOは硫黄0.50%以下の低硫黄残渣系を指す。DMA・DMBは留出系の等級、RM系列は残渣系の等級で、粘度・密度・硫黄分・安定性が規定値に収まるよう管理する。

経済性とライフサイクル

重油の経済性は原油スプレッド、規制適合コスト、保全・停止損失で決まる。燃料単価だけでなく、熱効率・可用率・メンテ周期・逸失利益を含めたLCC評価が重要である。設備投資(予熱・スクラバー等)は運転時間・負荷率と合わせて回収年数で判断し、燃料市場のボラティリティに備えて複数燃料対応を設計に織り込む。