軽油|ディーゼル車の主要燃料

軽油

軽油は、原油の常圧蒸留で得られる中間留分を主体とするディーゼル内燃機関用燃料である。炭化水素の主成分はおおむねC10–C20で、引火点が高くガソリンより揮発性が低い。自動車、建設機械、発電機、船舶など圧縮着火方式(compression ignition, CI)のエンジンに用いられ、燃料品質はJIS、ASTM、ENなどの規格で細かく定義される。日本では超低硫黄化が進み硫黄分は10 ppm以下の超低硫黄軽油が一般的で、排出ガス後処理(DPFやSCR)の性能を支える。消防法上は第4類第2石油類に区分され、保管・取扱いに一定の規制が課される。

定義と規格

軽油はJISで密度、動粘度、蒸留曲線、セタン指数、硫黄分、潤滑性、冷間流動性などが規定される。世界的にはASTM D975(米)、EN 590(欧)等が広く参照され、寒冷地向けにグレード分け(例:CFPP基準)も行われる。セタン価(またはセタン指数)は一般に45–55程度を目標とし、硫黄分は超低硫黄(≤10 ppm)が主流である。引火点は概ね50°C以上で、ガソリンより着火安全性が高い。

組成・物性

  • 主成分:直鎖・分岐・環状の飽和炭化水素(C10–C20)、芳香族は性能と環境の観点から低減傾向である。
  • 密度(15°C):0.82–0.86 g/cm³ 程度。体積ベースの取引や噴射制御に影響する。
  • 動粘度(40°C):約2.0–4.5 mm²/s。噴霧形成とポンプ潤滑性に寄与する。
  • 引火点:およそ50–80°C。輸送・保管リスクを低減する特性である。
  • 発熱量:下位発熱量約43 MJ/kg、体積換算で約35 MJ/L。
  • セタン価/指数:45–55が一般的。着火遅れ短縮に効く。
  • 蒸留範囲:目安として180–360°C。蒸留性状は始留点~終点で評価する。
  • 硫黄分:超低硫黄(ULSD)で≤10 ppm。後処理装置の耐久に有利である。

エンジンと燃焼

CIエンジンは圧縮比14–22程度で空気を高温高圧化し、燃料を高圧コモンレールで微粒化噴射する。着火遅れの後、予混合燃焼と拡散燃焼が連続して進むため、セタン価が低すぎると始動性・騒音・黒煙が悪化する。EGRでNOxを抑え、DPFでPMを捕集、SCRでNOxを還元するのが主流である。超低硫黄化により潤滑性が低下しうるため、HFRRで評価された潤滑性向上剤を添加することが多い。

環境特性と排出制御

軽油の排出ではNOx、PM、未燃炭化水素、COが課題である。ULSDはSOxを大幅に低減し、触媒やDPFの劣化を抑える。バイオ由来のFAMEをB5–B7程度で混合するとPM・COを低減し得るが、酸化安定性や低温流動性、水分管理に注意が必要である。燃焼制御(多段噴射、噴射時期最適化)と後処理の統合が鍵である。

低温特性と対策

低温下ではパラフィンが析出しフィルタ詰まりを招く。指標にはcloud point(濁点)、pour point(流動点)、CFPP(cold filter plugging point)がある。対策として冬季グレードの選定、流動点降下剤の添加、灯油等との適正ブレンド(規格適合前提)、燃料系の加温・保温が挙げられる。保管タンクの凝水は微生物繁殖や腐食を助長するため、水抜きと清掃が重要である。

製造プロセス

  1. 常圧蒸留で軽油留分(gas oil)を切り出す。
  2. 水素化精製で硫黄・窒素・金属・芳香族を低減し、色相・安定性・臭気を改善する。
  3. 需要や性状に応じ、分解軽油や改質留分をブレンドし、粘度・蒸留曲線・セタン指数を調整する。
  4. 添加剤処方(cetane improver、lubricity improver、antioxidant、depressant、defoamer等)で実使用性能を最適化する。

関連燃料との比較

  • ガソリン:火花点火(SI)用。オクタン価でノッキング耐性を評価し、揮発性が高い。引火性は軽油より高い。
  • 灯油:蒸留範囲がやや軽く、暖房や航空タービンの基礎留分(精製は別)として利用される。
  • A重油・船用留分:粘度・硫黄が高めで大形定置・船舶に用いる。規格はISO 8217が参照される。

試験法と品質指標

セタン価はASTM D613、セタン指数はISO 4264など計算式で推定する。蒸留性状はASTM D86、硫黄分は蛍光X線などで測定する。潤滑性はHFRR摩耗痕径で評価し、銅板腐食、灰分、残留炭素、金属元素も管理対象である。これらの総合管理により、エンジン始動性、騒音、黒煙、燃費、後処理耐久のバランスが確保される。

取り扱いと安全

  • 静電気対策とアースを徹底し、可燃蒸気の滞留を避ける。
  • 漏えい時は吸着材で回収し、排水系への流入を防止する。
  • 適合容器・表示で保管し、消防法(第4類第2石油類、危険等級Ⅲ)の要求に従う。