表面粗さ計
表面粗さ計は、加工面の微細な凹凸(プロファイル)を数値化し、機械要素の機能・寿命・外観品質を評価するための計測機である。接触式のスタイラスで表面をなぞる方式と、レーザや白色干渉などを用いる非接触式が主流であり、得られたプロファイルから各種指標を算出して規格(JIS・ISO)に基づき判定する。適切なカットオフやフィルタ、測定長さの設定、プローブ先端半径や測定力の選定、校正とトレーサビリティの維持が測定の信頼性を左右する。
測定指標(Ra・Rz・Rq・Rsk・Rku)
- Ra(算術平均粗さ):最も一般的な平均粗さで、全評価長の絶対偏差の平均値を示す。
- Rz(十点平均粗さなどの代表値):山と谷の代表的な高さ差を反映し、外観やピークの突出に敏感である。
- Rq(二乗平均平方根粗さ):エネルギ的な平均をとるため、尖鋭なピークに対してRaより敏感である。
- Rsk(歪度)・Rku(尖度):分布の非対称性や尖り具合を示し、潤滑性やシール性の予測に有用である。
- Rmr(マテリアル比)やベアリングエリア曲線:接触支持性の評価に用い、摩耗や初期なじみの見通しを与える。
測定原理:接触式と非接触式
接触式は、先端半径が一般に2〜5μmのダイヤモンドスタイラスを一定測定力(例0.75mN前後)で走査し、垂直変位を電気信号に変換してプロファイルを得る方式である。非接触式は、レーザ共焦点、白色干渉、光切断などの光学技術を用い、脆弱面や軟質材料でも表面を傷つけずに高速・広域測定ができる。接触式は形状追従性と規格適合性に優れ、非接触式は高速・面(3D)測定に利点があるため、ワーク材質・形状・目的に応じて選択する。
測定条件:カットオフ・フィルタ・評価長さ
粗さ評価では、うねり(低周波成分)と粗さ(高周波成分)を分離するために、規格化されたカットオフ長λc(例0.08/0.25/0.8/2.5mmなど)とガウシアンフィルタを用いる。評価長さは通常、λcの5倍とし、安定した統計を得る。測定速度(例0.5〜1mm/s)や方向(加工目と直交)が結果に影響するため、規格(JIS B 0601、ISO 4287/4288)の条件に整合させることが重要である。
プローブ仕様と測定力のトレードオフ
スタイラス先端が小さいほど微細形状の追従性は高まるが、先端摩耗やノイズ感度が増す。測定力も、強すぎれば軟質材料で塑性変形を生じ、弱すぎれば接触安定性を損なう。表面粗さ計の仕様選定では、材料(鋼、アルミ、樹脂など)、表面処理(めっき、コーティング)、期待するRaレンジ(例0.02〜3.2μm)を踏まえ、先端半径・測定力・アンプレンジを整合させる。
機種構成:ポータブル・卓上・CNC
- ポータブル型:現場で素早くRaやRzを確認できる一体型。治具と組合せて姿勢再現性を高める。
- 卓上型:駆動ユニットと高剛性コラム、基準平板を備え、位置決めと再現性に優れる。スキッド/スキッドレス両対応がある。
- CNC/自動測定:多点やラインの自動測定、SPC連携、合否判定の自動化により工程内検査へ展開しやすい。
校正とトレーサビリティ
表面粗さ計は、粗さ標準片(標準RaやRzが付与されたアーティファクト)で感度と線形性を定期確認する。駆動直進性、スタイラスの先端形状、変位センサの直線性、フィルタ特性が総合性能を決めるため、校正周期の管理と国家計量標準へのトレーサビリティ確保が不可欠である。標準片の清浄・保管、温湿度管理、接触圧の再現が精度維持に直結する。
測定手順とワーク準備
- 清浄化:切粉・油膜・粉塵を除去し、誤検出や滑走を防ぐ。
- 固定と位置決め:治具で姿勢を安定化し、加工目と直交方向に走査する。
- 条件設定:λc、評価長さ、速度、フィルタ種別を規格・図面に合わせる。
- 複数回測定:位置をずらして複数本取り、平均とばらつきを把握する。
- 記録:条件・環境・治具情報をレポートに明記し、再現性を担保する。
誤差要因と不確かさ
主な要因は、振動・温度ドリフト、スタイラス摩耗、ワークの傾き(レベリング不足)、端部効果、極端な傾斜面での追従限界、表面皮膜の損傷、非等方性表面の方向依存などである。うねり除去が不十分だとRa/Rzが過大になることがあり、逆に過度なフィルタリングは機能上重要なピーク群を失わせる。総合不確かさは、機器特性、環境、手順、統計処理を含めて評価する。
データ解析とレポート出力
プロファイルとパワースペクトルの併用で、加工プロセス固有の周波数成分を同定できる。ベアリングエリア曲線とRkファミリ(Rk/Rpk/Rvk)はなじみ特性や潤滑保持性の評価に有効である。レポートは、Ra・Rz・Rq・Rsk等の値、条件(λc、評価長さ、速度)、測定方向、サンプル数、図面許容値、合否判定を含め、CSVやPDFで保存しSPCに連携する。
用途と選定のポイント
- 切削・研削・ホーニング:シール面・摺動面での初期摩耗や漏れに直結するため、Rk系とRmrの併用が有効。
- ラップ・ポリッシュ:Raが極小領域では、Rqや散乱光ベースの非接触評価と併用して判断する。
- コーティング・めっき:前処理粗さが密着性を左右する。非接触式で前後比較を高速化する。
- 樹脂・軟質材:低測定力・鋭利すぎない先端半径の選択が表面損傷の回避に有効。
関連規格の例
2D粗さはJIS B 0601およびISO 4287(用語・パラメータ)、ISO 4288(規定条件・評価手順)に基づく。機能パラメータはISO 13565(Rkファミリ)が参照される。面粗さ(3D)評価ではISO 25178によりSa・Sq・Skなどが定義され、非接触式のエリア測定と親和性が高い。図面ではRaだけでなく、測定方向、カットオフ、評価長、許容範囲の明記が望ましい。
導入・運用の実務
表面粗さ計の導入では、対象部品のRaレンジ、想定スループット、工程内/最終検査の別、必要な自動化度、ソフトウェアのSPC連携、保全・校正体制を総合的に検討する。運用では、標準片での日常点検、プローブ摩耗の監視、治具の姿勢再現性向上、測定条件の版管理、教育訓練による測定者間差の低減が品質保証を支える。