秒
秒は、時間を表す国際単位系(SI)の基本単位で、記号は小文字の「s」を用いる。現在はセシウム原子時計の原理に基づいて定義されており、7つあるSI基本単位の中でも最も高い精度で実現できる単位として知られる。メートルやカンデラなど、ほかの多くの単位の定義も秒を土台にしている。
語源と六十進法のなごり
漢字の「秒」は、もともと稲や麦の穂先にある細い毛(のぎ)を指し、そこから「ごくわずかなもの」という意味で使われるようになった。英語のsecondは、ラテン語のpars minuta secunda(2番目に細かく分けた部分)に由来する。1時間を60分、1分を60秒に分ける方法は、古代バビロニアの六十進法が天文学を通じて受け継がれたものである。1日はちょうど86,400秒になる。
地球の自転を基準にしていた時代
20世紀の半ばまで、秒は平均太陽日の1/86,400と定められていた。ところが、潮汐摩擦によって地球の自転は少しずつ遅くなっており、季節によって速さも変わる。1930年代に水晶振動子を使った時計が登場したことで、この揺らぎを観測できるようになった。そこで1956年に国際度量衡委員会(CIPM)は、1900年の太陽年の長さを基準にした「暦表秒」を採用し、1960年の第11回国際度量衡総会(CGPM)で正式に承認された。暦表秒は1太陽年の1/31,556,925.9747と定義されたが、実際に測るには長期間の天体観測が必要で、計測の現場では扱いにくいものであった。
原子時への移行と現在の定義
1967年の第13回CGPMで、秒は天文現象から切り離され、セシウム133原子の性質に基づく定義に変わった。セシウム133原子の基底状態にある2つの超微細準位の間で遷移するときの放射の周期の9,192,631,770倍を1秒とする、という内容である。2019年5月のSI改定では表現が書き改められ、定数の値を固定してから単位を導く形になった。中身は1967年の定義と変わらない。
ΔνCs = 9 192 631 770 Hz
1 s = 9 192 631 770 / ΔνCs
ここでΔνCsはセシウムの超微細遷移周波数を表し、単位のヘルツはs−1に等しい。1983年以降、メートルは「光速が1/299,792,458秒の間に進む距離」と定義されている。このため、時間の精度はそのまま長さの精度にも影響する。
光格子時計と再定義の議論
ストロンチウムやイッテルビウムを使う光格子時計は、マイクロ波領域のセシウム時計に比べておよそ100倍の安定度を示し、精度は18桁に達する。東京大学の香取秀俊らが2001年に提案した方式で、新しい秒の定義の候補として国際的に評価が続いている。
SI接頭語を付けた時間の単位
工学で扱う時間の幅はとても広い。そのため、秒にSI接頭語を付けた単位がよく使われる。表記のルールはISO 80000-3およびJIS Z 8000-3で定められており、「sec」や「S」と書くのは正式ではない。大文字のSはジーメンスの記号なので注意が必要である。
| 単位 | 記号 | 値 | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|
| ミリ秒 | ms | 10−3 s | PLCスキャンタイム、リレー応答 |
| マイクロ秒 | μs | 10−6 s | サーボ制御周期、パルス幅 |
| ナノ秒 | ns | 10−9 s | 半導体のスイッチング、信号遅延 |
| ピコ秒 | ps | 10−12 s | ジッタ評価、超短パルスレーザー |
| フェムト秒 | fs | 10−15 s | フェムト秒レーザー加工 |
分(min)、時(h)、日(d)はSI単位ではないが、SIと併用してよい単位として認められている。
原子時と天文時のずれを埋めるうるう秒
原子時計が刻む時間は一定である一方、地球の自転は不規則に揺らぐ。この差を0.9秒以内に収めるため、1972年から協定世界時(UTC)にうるう秒を挿入する仕組みが始まった。これまでに27回挿入されており、最後に挿入されたのは2017年1月1日(日本時間では午前8時59分60秒)である。ただ、うるう秒はサーバーや通信機器のトラブルの原因になりやすく、2012年には大手Webサービスで障害も起きた。2022年の第27回CGPMは、遅くとも2035年までにうるう秒の調整を事実上やめることを決議している。
日本の標準時と時刻供給
日本標準時(JST)は、情報通信研究機構(NICT)が複数の原子時計を組み合わせて作り、UTCより9時間進めた時刻として配信している。電波時計が受信する標準電波JJYは、福島県のおおたかどや山標準電波送信所から40 kHz、佐賀県と福岡県の境にあるはがね山標準電波送信所から60 kHzで送られている。インターネットではNTPサーバーが公開されている。
製造現場で秒を扱うときの実務
工場では、サイクルタイムやタクトタイムを秒単位、ときには0.1秒単位で管理する。たとえば1日の稼働時間が27,000秒(7.5時間)で、必要な生産数が900個なら、タクトタイムは30秒になる。この数字が工程設計の出発点となる。
複数の設備のデータを突き合わせる場面では、秒の精度だけでなく、各機器の時計がそろっているかどうかが問題になりやすい。PLCや検査装置の内部時計は、一般的な水晶発振器(32,768 Hz)だと月に数十秒ずれることも珍しくない。IoT化を進めている現場では、NTPやPTP(IEEE 1588)で時刻を合わせる運用が広まっている。PTPを使えばマイクロ秒レベルで同期できるが、対応するスイッチの導入費用がかかる。そのため、トレーサビリティにミリ秒単位の精度が本当に必要かを先に見極めることが、設備投資を判断するうえでのポイントになる。タイマーやストップウォッチを校正するときは、JCSS(計量法校正事業者登録制度)の登録事業者に依頼すれば、国家標準につながる証明書を受け取れる。
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