磁石
本稿は磁石の基礎と材料、特性、設計・測定、応用、取扱いを大学生レベルで体系的にまとめるものである。磁石とは自発磁化を保持し外部磁場なしに磁束を生む物体であり、北極・南極を持つ双極子の集合体として理解できる。巨視的には磁束密度Bと磁場H、磁化Mで記述し、微視的には交換相互作用と磁気異方性が磁石の安定性を決める。自然界の磁鉄鉱から合金・焼結体まで磁石は多様である。
磁化と磁区
磁石内部は一様ではなく、同一方向にスピンが整列した微小領域(磁区)が多数集まっている。磁区壁の形成は交換相互作用と異方性、磁壁エネルギーの拮抗で決まる。永久磁石では異方性定数が大きく磁壁移動が抑制され、外場を除いても自発磁化が残留する。この残留が実用磁石の要である。
磁場・磁束密度・磁化の関係
連続体近似では真空でB=μ0H、物質中でB=μ0(H+M)と表す(μ0は真空の透磁率)。単位はBがT、HがA/m、MもA/mでSI準拠である。有限体では脱磁場が生じ、形状依存の脱磁係数Nが有効Hを減じる。設計時は磁石の形状・配置で実効Bを最適化することが重要である。
ヒステリシス曲線
B-H曲線は磁石性能の指標である。外場を0に戻したときの残留磁束密度Br、逆向きにB=0となる保磁力Hc、B×Hの面積の最大値(BH)maxが代表値である。(BH)maxが大きいほど小型で強力な磁石設計が可能になる。硬磁性体はHcが大きく、軟磁性体は損失低減に適する。
永久磁石材料の種類
- Nd-Fe-B:非常に高い(BH)max、等級N35~N52が普及。耐熱は中程度、腐食対策が要る。
- Sm-Co:高温でも性能安定、耐食性良好。高価だが航空・計測向け。
- フェライト:安価で耐食性良。磁力は中庸で家電・スピーカに多用。
- AlNiCo:温度特性に優れるがHcは低め。計測器やセンサ用に適合。
温度特性とキュリー温度
磁石の磁化は温度で変化し、キュリー温度Tcを超えると強磁性が消失する。Nd-Fe-BはTcが比較的低く、Sm-CoやAlNiCoは高温安定性に優れる。設計では可逆温度係数(例:Brの%/℃)を考慮し、周囲温度範囲で必要Bが確保できるかを評価すべきである。
表面磁束密度と形状
同じ体積でも形状により表面Bは大きく変わる。薄板は脱磁が強くB低下しやすいが、リングやハルバッハ配列(Halbach)にすると片側Bを増強できる。磁気回路でヨークを併用すれば漏れを減らし、磁石体積を抑えつつ有効Bを引き出せる。
着磁と測定
磁石はパルス着磁器で所定方向に飽和させる。多極着磁では専用治具が必要である。評価はガウスメータや振動試料型磁力計で行い、規格はJISやISOの用語・試験法に準拠するのが通例である。量産品では抜取検査でBr・Hc・寸法を確認する。
応用例
- モータ:BLDCやSRMで磁石がトルク密度向上に寄与。
- 発電機:小型化と高効率化に有効。
- センサ:リードスイッチ、ホールICと組み合わせて位置検出。
- 医療・分析:磁気分離、ドラッグデリバリで磁石粒子を利用。
安全・取扱い
強力磁石は指挟みや飛来の危険がある。磁性粉・工具の付着にも注意する。Nd-Fe-Bは脆く欠けやすいため樹脂・Ni・エポキシ等の表面処理を施す。保管は相互脱磁を避けるため適切な間隔とシールドを用いる。高温や衝撃は不可逆減磁を招く。
関連する基本式
空隙を含む磁気回路ではΦ=∮B·dS、起磁力F=∮H·dlで近似し、ギャップでのBを支配する。等価磁気抵抗Rmの概念で磁石とギャップ、ヨークを直列合成すれば設計見通しがよい。有限要素法は複雑形状のB分布推定に有効である。
設計上の注意
要求Bと体積を決めたうえで(BH)maxの高い材料を選び、脱磁係数Nが小さくなる形状と回路を採る。動作点が減磁曲線の直線部に入るよう厚み・ギャップを調整する。量産では寸法公差・磁化方向・着磁多極数を図面で明示し、JIS/ISOの記号・単位系を統一して誤解を防ぐことが肝要である。
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