目的関数|最適化で目標達成度を測る評価関数

目的関数

目的関数は、与えられた設計変数や意思決定変数に対して「どの解が望ましいか」を数値で評価する関数である。最適化では可行領域内の点に値を割り当て、最小化(または最大化)という序関係を定める役割を担う。最大化問題は関数の符号反転により最小化問題へ等価変換できるため、実務上は最小化として統一して扱うことが多い。英語ではobjective function、評価関数やコスト関数、損失関数、報酬関数など文脈で呼称が異なるが、本質は「意思決定の良し悪しを一貫した尺度で表す」ことである。測定単位やスケールが混在すると解釈や計算が不安定になりうるため、正規化や重み付けの設計が重要となる。

数学的定義

目的関数は一般にf(x):ℝ^n→ℝで定義され、制約g_i(x)≤0、h_j(x)=0のもとでargmin_x f(x)を求める。無制約なら勾配∇f(x)=0、ヘッセ行列∇^2f(x)の正定性などから極値性を判定する。制約付きではラグランジュ乗数やKKT条件が最適性の基準となる。非滑らかなf(x)(例:L1ノルム)では劣勾配を用いる。

凸性と極値の性質

f(x)が凸で可行領域も凸なら、局所最小は大域最小に一致するため、目的関数が凸かどうかはアルゴリズム選択を左右する。非凸では局所解や鞍点、台地状の領域が現れ、初期値や探索戦略の影響が大きい。滑らかさは勾配法の収束性に直結し、非滑らか項はスムージングや近接法で扱うことが多い。

最小化と最大化の関係

最大化max f(x)はmin −f(x)に変換できる。実務では和や単位が異なる項を一つの目的関数に合成するため、無次元化や重みw_kの調整が要点となる。重みは重要度だけでなく値域の差を吸収する役割を持ち、スケーリングを誤ると最適解が偏る。

制約との関係とラグランジュ法

制約付き最適化では、ラグランジアンL(x,λ,μ)=f(x)+∑λ_i g_i(x)+∑μ_j h_j(x)を用いて目的関数と制約を統合し、KKT条件で停留点を求める。ペナルティ法やバリア法、拡張ラグランジュ法は数値的に堅牢で、制約違反への罰則や内部点の探索を通じて可行かつ最適な点へ導く。

多目的最適化

複数基準F(x)=(f1,…,fm)を同時に最良化する場合、支配概念に基づくパレート最適性が基準となる。単一の目的関数へ写像する手法として加重和min ∑w_k f_k(x)、ε制約法、Tchebycheff法などのスカラー化がある。重みは意思決定者の価値観を反映するため、事前の正規化と感度確認が不可欠である。

スカラー化手法の例

  • 加重和:単純で実装容易。凸問題に強いが非凸前面では一部のパレート点を表現しにくい。
  • ε制約:主要なfを最小化し、他を上限制約に移す。探索の制御性が高い。
  • Tchebycheff:最大偏差を抑える。均衡解を得やすい。

不確実性とロバスト性

不確実性ξの下では、目的関数を期待値min E[f(x,ξ)]やリスク指標(VaR/CVaR)で定める確率的最適化、あるいは最悪ケースmin max_{ξ∈U} f(x,ξ)をとるロバスト最適化が用いられる。前者は平均性能に、後者は保証性能に強い。チャンス制約と組み合わせ、確率αで制約を満たす設計も一般的である。

工学での典型例

  • 構造最適化:重量最小化を目的関数とし、応力・変形・座屈の上限制約を課す。
  • 制御設計:ISE/IAEやH∞指標を目的関数とし、応答の速さとオーバーシュートの折衷を図る。
  • 推定・回帰:二乗和やクロスエントロピーを目的関数とし、過学習防止に正則化を併用する。
  • 生産計画:総遅延やコスト、エネルギー消費を目的関数に据え、納期や資源制約を満たす。

正則化と識別性

目的関数にR(x)=λ‖x‖やTVなどの正則化を付加すると、識別性が高まり過学習や病的な解を抑制できる。L2は滑らかで解析性が高く、L1は疎性を促す。重みλはバイアス–バリアンスの調整弁として機能する。

よく使う形式

  • Least squares:min ‖Ax−b‖^2。物理計測の誤差平方和に対応。
  • L1損失:外れ値に頑健。メディアン推定に関連。
  • Huber:L2とL1の折衷で数値安定性が高い。

アルゴリズム選択の観点

目的関数の凸性・滑らかさ・連続性・離散性で手法が分かれる。凸・滑らかなら勾配法やNewton/準Newton、制約付きならIPMやSQPが強力である。非凸や非滑らかでは近接勾配法、座標降下、DC分解、またはGA/PSO/SAなど勾配不要法を用いる。混合整数ではMILP/MIQP/MINLPが対象となる。

スケーリングと前処理

目的関数に含まれる項のスケールが極端に異なると条件数が悪化し、収束が遅くなる。単位整合、標準化(z-score)、区間正規化、重み再調整、設計空間のリスケーリング、変数変換(対数・Box-Coxなど)が有効である。数値微分ではステップ幅の選択も精度に影響する。

代理モデルと実験計画

評価が高価な目的関数(CFD/FEAなど)では、RSM、Gaussian process、多項式近似、低次元埋め込み等で代理モデルを構築し、Bayesian optimizationで探索効率を高める。直交表や適応型サンプリングは空間被覆と探索–活用のバランスを整える。

メトリクス設計の注意

目的関数が現象の本質を外すと、最適化は望ましくない行動を誘発する(Goodhartの法則)。可観測な代理指標を使う際は、制約・監視指標・安全余裕を併設し、設計者の意図と整合させる。検証用データや独立評価指標で妥当性を継続的に点検することが重要である。