片持ち梁
片持ち梁は一端を剛に固定し、他端を自由端とする梁要素である。固定端が回転・並進とも拘束されるため、外力に対して固定端に大きな曲げモーメントとせん断力が発生し、自由端側へ向かうにつれて内力が減少するのが典型である。建築の庇、バルコニー、クレーンのジブ、工作機械のオーバーハング、AFM探針など広範に使われる基本構造であり、強度と変形の両観点から設計する。
定義と特徴
片持ち梁は、境界条件が「固定端(たわみ0・回転0)」と「自由端(曲げモーメント0・せん断力0)」の組で定義される。固定端は基礎・壁・フレームに剛結され、自由端は外力や変位を受ける。最大曲げ応力と最大たわみが固定端近傍に集中しやすく、割裂・座屈・疲労の起点になりうるため、断面形状と材料選択が重要である。
支配方程式と境界条件
細長梁についてはEuler–Bernoulli梁理論がしばしば適用される。たわみy(x)はEI y””(x)=q(x)に従い、境界条件は固定端x=0でy(0)=0, y'(0)=0、自由端x=LでM(L)=−E I y”(L)=0, V(L)=−E I y”'(L)=0となる。ここでEはヤング率、Iは断面二次モーメント、q(x)は分布荷重である。
代表的な荷重とたわみ公式
- 先端集中荷重P(x=L):最大モーメント|M_max|=P L、自由端たわみδ= P L^3 /(3 E I)、自由端角度θ= P L^2 /(2 E I)。
- 全長一様分布荷重w(N/m):|M_max|= w L^2 /2、自由端たわみδ= w L^4 /(8 E I)、自由端角度θ= w L^3 /(6 E I)。
- 先端モーメントM0:自由端角度θ= M0 L /(E I)、自由端たわみδ= M0 L^2 /(2 E I)。
せん断力図・曲げモーメント図
一様分布荷重では、せん断力図は自由端0から固定端wLまでの一次分布、曲げモーメント図は自由端0から固定端wL^2/2までの二次曲線となる。先端集中荷重ではせん断力は固定端でP、モーメントは固定端でP Lの三角形分布で、自由端でいずれも0に戻る。
応力評価と断面設計
曲げ応力はσ= M c / I(矩形断面でσ= 6 M /(b h^2))により算出する。固定端の|M_max|に対して許容応力以下となるb, hや形鋼・中空断面を選定する。せん断応力は矩形断面でτ_max= 3 V /(2 b h)が目安である。高応力集中が予想される固定端近傍では、フィレや補強リブで応力勾配を緩和する。
たわみ制限と剛性設計
片持ち梁は使用限界状態(たわみ・振動・がたつき)が支配的になりやすい。一般機械では自由端たわみをL/200〜L/300程度以下に抑える設計目安が用いられることが多い。たわみはIに比例して低減されるため、同重量で高Iが得られるH形・箱形・テーパー断面が有利である。
動的特性(固有振動数)
均一断面の基礎固有円振動数はω1= 1.875^2 √(E I /(ρ A L^4))、固有振動数f1= ω1 /(2π)で近似できる。自由端の集中質量や先端剛性の影響は低下係数として扱い、共振回避のため加振周波数との分離を確保する。
設計上の留意点
- 疲労:固定端近傍の繰返し曲げが支配。溶接止端の仕上げや応力集中低減が有効。
- 座屈:鉛直上向き荷重時の側方座屈や薄肉断面の局部座屈に注意。
- クリープ・熱:高温や温度勾配での長期たわみ増大・熱曲げに配慮。
- 支持剛性:実機では「準固定」となることが多く、埋込み長さ・基礎剛性で有効固定度が変化する。
実務例(概算計算)
例:鋼(E=210 GPa)、矩形断面b=40 mm, h=80 mm、L=1.0 mの片持ち梁に先端荷重P=500 N。I= b h^3 /12 ≈ 0.04×0.08^3/12 ≈ 1.706×10^-6 m^4。自由端たわみはδ≈ P L^3 /(3 E I)= 500×1^3 /(3×210×10^9×1.706×10^-6) ≈ 0.00047 m(0.47 mm)。固定端最大曲げ応力はσ_max= 6 M /(b h^2)= 6×500×1 /(0.04×0.08^2) ≈ 117 MPaで、一般構造用鋼(降伏約235 MPa)に対して余裕がある。
断面形状と最適化
同重量で剛性を高めるには、繊維距離cを大きくしIを稼ぐことが重要である。箱形・I形は材料を外周に配置でき、曲げに効率的である。先端たわみが支配する場合、テーパー梁や段付き梁により曲げモーメント分布に合わせて断面を変化させると材料効率が向上する。
補足:Timoshenko梁・大たわみ
短く厚い片持ち梁ではせん断変形が無視できず、Timoshenko梁での補正が必要となる。また、先端大荷重で回転が大きい場合は幾何学的非線形を含む「エラスチカ」による大たわみ解析を適用する。必要に応じて有限要素法(FEM)での検証を併用する。
材料選定の要点
鋼はEが高く寸法を抑えやすい。アルミは軽量で動的応答に有利だがEが小さく、たわみ抑制には断面拡大が要る。CFRPは比剛性・比強度に優れるが層間せん断や接合設計が難しい。腐食・疲労・コスト・加工性を含めて総合評価する。
固定端の実現
理想固定は実機では困難で、ボルト本数・締結長、溶接長、埋込み長、基礎プレートとアンカー配置で有効固定度が決まる。試験では固定治具の曲げ剛性を把握し、見かけのバネ支持としてモデル化すると整合が取りやすい。