永久磁石
永久磁石は、外部から電流や磁界を与え続けなくても、磁気を長期間保つ物体である。一度着磁すれば、強い逆向きの磁界や高温にさらされない限り、磁力はほとんど失われない。電流を流している間だけ磁界を生む電磁石とは性質が異なり、電力を使わずに安定した磁界を得たい場面で使われる。身近な冷蔵庫のマグネットから電気自動車の駆動モーター、医療用MRIまで用途は幅広い。材料には鉄・コバルト・ニッケルなどの強磁性体や、ネオジム・サマリウムといった希土類元素を含む合金、酸化鉄を主成分とするセラミックスが用いられる。
日本の研究者が塗り替えてきた磁石の歴史
現代の永久磁石の歴史は、日本の研究者の名前を抜きに語れない。1917年、東北帝国大学の本多光太郎がKS鋼を発明し、当時世界最強の磁石鋼となった。1931年には東京帝国大学の三島徳七が、鉄・ニッケル・アルミニウムを主成分とするMK鋼を開発する。これが後のアルニコ磁石の原型にあたる。同じ1930年、東京工業大学の加藤与五郎と武井武は酸化物系の磁石を見いだし、のちのフェライト磁石につながった。1960年代後半には米国でサマリウムとコバルトの化合物SmCo5が磁石材料として注目される。そして1982年、住友特殊金属(現・プロテリアル)の佐川眞人がNd2Fe14B系のネオジム磁石を開発し、最大エネルギー積は一気に数倍へ跳ね上がった。100年あまりで、磁石の強さは桁違いに向上したことになる。
性能を表す3つの指標
カタログで必ず目にするのが、残留磁束密度Br、保磁力HcJ、最大エネルギー積(BH)maxの3項目である。Brは外部磁界をゼロに戻したとき材料に残る磁束密度で、単位はT(テスラ)。保磁力は磁化を打ち消すのに必要な逆磁界の強さを示し、kA/mで表す。値が大きいほど減磁しにくい。磁石の「強さ」を総合的に表すのが最大エネルギー積で、ヒステリシス曲線の第2象限、いわゆる減磁曲線上で磁束密度Bと磁界Hの積が最大になる点の値をとる。
(BH)max = max ( B × |H| ) [単位:kJ/m3]
主要4材料の特性比較
工業的に流通している材料は大きく4系統に分かれる。数値はグレードによって幅があるため、代表的な範囲を示す。
| 材料 | (BH)max[kJ/m3] | Br[T] | キュリー温度 | 使用温度の目安 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| フェライト | 25〜40 | 0.38〜0.45 | 約450℃ | 〜250℃ | 安価で錆びない。低温で減磁しやすい |
| アルニコ | 10〜85 | 0.7〜1.3 | 約850℃ | 〜500℃ | 温度安定性に優れるが保磁力が低い |
| サマリウムコバルト | 150〜260 | 0.9〜1.15 | 700〜820℃ | 〜350℃ | 耐熱・耐食性が高い。高価で割れやすい |
| ネオジム | 260〜450 | 1.1〜1.45 | 約310〜340℃ | 80〜220℃ | 最強クラス。錆びやすく表面処理が必須 |
希土類の資源リスク
ネオジム磁石の耐熱グレードには、保磁力を高めるためにジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が添加される。これらの重希土類は産出地が中国に偏っており、2011年のレアアース価格高騰では一部の価格が10倍近くに達した。以降、Dyを結晶粒の境界だけに染み込ませる粒界拡散法が普及し、使用量を大幅に減らしたグレードが主流になりつつある。
焼結磁石とボンド磁石の製造工程
ネオジム焼結磁石を例にとると、工程はおおむね次の順で進む。
- 原料を真空中で溶解し、ストリップキャスト法で薄片状の合金にする
- 水素粉砕とジェットミルで粒径3〜5μm程度の微粉末にする
- 磁場をかけながらプレス成形し、結晶の向きをそろえる
- 1,000〜1,100℃で焼結した後、時効熱処理を行う
- 研削・切断で寸法を仕上げ、ニッケルめっきやエポキシ塗装を施す
- 最後に強い磁界をかけて着磁する
ボンド磁石は、磁性粉末を樹脂やゴムに混ぜて射出成形や圧縮成形で形にしたものである。磁性粉の割合が下がるぶん、ネオジム系でも(BH)maxは80〜100kJ/m3程度にとどまる。とはいえ、薄肉リングや複雑形状を後加工なしで作れるうえ寸法精度も高く、小型モーターやセンサー用途で重宝されている。
温度変化と減磁のしくみ
磁石は温度が上がると磁力が下がる。ネオジム磁石のBrの温度係数は約-0.12%/℃で、20℃から100℃に上がると約10%弱まる計算になる。温度を戻して磁力が回復する分を可逆減磁、戻らない分を不可逆減磁と呼ぶ。後者を左右するのが、磁石の形状と磁気回路で決まるパーミアンス係数である。
Pc = Bd / ( μ0 × |Hd| )
着磁方向に薄い磁石ほどPcが小さく、動作点が減磁曲線の屈曲点に近づきやすい。キュリー温度に達すると磁性そのものが失われるが、実際にはそれよりずっと低い温度で不可逆減磁が起こる点に注意したい。フェライトは逆の傾向をもち、低温ほど保磁力が下がるため、寒冷地で使う機器では-40℃付近での減磁確認が欠かせない。
用途による使い分け
求められる磁力、使用温度、コストの兼ね合いで材料は選ばれる。代表的な組み合わせを挙げる。
- ハイブリッド車・電気自動車の駆動用電動機:耐熱グレードのネオジム磁石
- ハードディスクのボイスコイルモーター:高Brのネオジム磁石
- 家電のモーター、スピーカー、マグネットシート:フェライト磁石
- 航空宇宙機器や200℃を超える環境のセンサー:サマリウムコバルト磁石
- 計測器やギターのピックアップ:温度安定性を重視したアルニコ磁石
製造現場での選定と取り扱いの勘所
調達の現場では、まず「フェライトで足りるか」を検討するのが定石である。重量単価で比べると、ネオジム磁石はフェライトの10倍以上になることも珍しくない。そのため、磁石の体積を増やしてフェライトで設計できるなら、そのほうが総コストを抑えやすい。ネオジム焼結体は硬く脆いため、加工にはダイヤモンド砥石を使い、チッピングを避けるには面取りを指定しておくと安心である。研削で出る微粉は空気中で発火しやすく、湿式研削とスラッジの水中保管が不可欠となる。
後着磁という選択
着磁済みの強力磁石は、互いに吸着して指を挟む事故や部品の破損を招きやすい。そこで、未着磁の状態でロータなどに組み込み、専用の着磁ヨークでパルス磁界を与える後着磁が多く採用されている。ネオジム磁石を飽和まで着磁するには約2,400kA/m(3T相当)以上の磁界が必要とされ、着磁装置の能力が設計の制約になることもある。航空輸送時も、IATAの規則で梱包外の漏洩磁界が制限されるため、鉄板による磁気シールド梱包が求められる。
規格と測定方法
国内では、材料の分類と特性値をJIS C 2502「永久磁石材料」が、測定の手順をJIS C 2501「永久磁石試験方法」が定めている。国際的にはIEC 60404-8-1が対応する規格にあたる。減磁曲線の測定には直流B-Hトレーサを使い、試料を電磁石の磁極で挟んで磁界を掃引する。ただし、HcJが2,000kA/mを超える高保磁力材では通常の装置では磁界が足りず、パルス磁界を使う測定器が用いられる。受入検査では、全数をガウスメーターで表面磁束密度だけ確認し、抜き取り品でB-H特性を測る運用が一般的である。
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