比重計
比重計は液体の相対密度(特定の基準温度における水の密度を1とした無次元量)を測定する器具である。化学工業、食品、石油、めっき、蓄電池整備などで溶液濃度や品質管理の指標として広く用いられる。比重は一般にsg=ρ/ρwで表し、ρは試料密度、ρwは水(4℃が基準)の密度である。浮ひょう式ガラス比重計をはじめ、U字管振動式密度計から換算表示するデジタル比重計、ハイドロスタティック天秤やピクノメーター(密度瓶)による方法まで多様である。測定では温度の管理と気泡・表面張力の影響低減が重要であり、規格に従った校正とトレーサビリティの確保が品質保証に直結する。
原理
比重計の基本原理はアルキメデスの原理に基づく浮力平衡である。浮ひょう式では、浮ひょうに刻まれた目盛が液面と一致する位置で浮力=重力となり、その沈み込み量から比重を読む。デジタル方式ではU字管に封入した液体の固有振動数fが密度に依存することを用い、ρを算出してsg=ρ/ρwに換算する。比重は温度依存性が大きく、標準温度(20℃や石油分野の15/60°F)を明記し、必要に応じて温度補正係数や換算表を適用する。濃度指標との対応として、糖液のBrix(%sucrose)、石油のAPI度(API=141.5/sg@60°F−131.5)、Baumé度などがある。
種類
- 浮ひょう式:ガラス製の棒状浮ひょう。水準面の読みでsg、Brix、Baumé、APIなどの専用スケールを持つものがある。
- U字管振動式:卓上のデジタル密度計。温調槽と併用し高精度で再現性に優れる。表示をsgに切替可能である。
- ハイドロスタティック天秤:空気中と液中の重量差から密度を求めsgに換算する。
- ピクノメーター(密度瓶):既知体積の瓶の質量差から密度を算出し、sgを得る。
- 現場用比重計:蓄電池電解液や冷却液(不凍液)の迅速チェック用に簡易スケールを備えたものがある。
選択は目的、必要精度、試料の粘度や腐食性、現場/実験室の運用形態で決まる。食品・飲料ではBrix表示の浮ひょうやデジタル屈折計、石油ではAPIスケール、めっきではデジタル比重計がよく用いられる。
測定手順
- 試料調製:均一化し、気泡や懸濁物をできるだけ除く。測定温度に恒温する。
- 器具準備:浮ひょう式比重計は清浄・乾燥し、容器は十分に広く深い円筒形を用いる。
- 測定:浮ひょうをそっと沈め、容器壁に触れないようにし、液面の静止を待つ。透明液はメニスカスの下端、濁った液は上端を水平視線で読む。
- デジタル:校正後、気泡が入らぬようセルを満たし、表示温度を確認してsg表示に換算する。
- 後処理:器具洗浄・乾燥、記録には温度・スケール・規格・補正の有無を併記する。
校正とトレーサビリティ
校正は基準液(脱気した純水、規定濃度の塩化ナトリウム溶液など)で実施し、温度は標準温度に合わせる。U字管では空気と水の2点、あるいは複数点で校正するのが一般的である。目盛誤差、温度計の不確かさ、メニスカス読み、浮力補正(空気密度)、繰返し性を不確かさ要因として予算化し、JISやASTMの手順に従ってトレーサブルな結果とすることが望ましい。
誤差要因と補正
- 温度影響:液体と器具の熱膨張によりsgが変動する。補正係数または換算表を適用する。
- 気泡・溶存ガス:見かけの密度を下げるため、脱気・静置・超音波処理を検討する。
- 粘度・動的効果:高粘度液では浮ひょうの安定化に時間を要し、読みが遅れるため十分な静置時間を取る。
- 表面張力・濡れ性:浮ひょう表面の汚れや界面活性剤でメニスカス形状が変わり読みを狂わせる。
- 容器影響:壁面近傍の毛管上昇・下降で液面が歪むため、直径の大きな容器を用いる。
- 混合不均一:濃度勾配を避けるため撹拌後に静置して測定する。
濃度換算とスケール
Brixは蔗糖水溶液に対する質量分率の近似指標で、食品分野で糖度として通用する。Bauméは比重に基づく経験的スケールで酸・塩類溶液の管理に使われる。石油分野のAPI度はAPI=141.5/sg@60°F−131.5で定義され、数値が大きいほど軽質であることを示す。産業現場ではsgから濃度表へ換算するワークフローが一般的で、適用範囲外の外挿や温度条件違いを避けることが肝要である。
用途
- 蓄電池:硫酸電解液のsgから充電状態を推定する。
- めっき浴:Ni、Cu、Znなどの浴組成管理に比重計を用い、補給・希釈の基準とする。
- 食品・飲料:シロップや果汁のBrix管理により官能品質と発酵管理を安定化する。
- 石油・ケミカル:API度・sgで原油ブレンドや製品受入検査を行う。
- 冷却・防錆液:エチレングリコール濃度の迅速判定に役立つ。
- 環境・水処理:塩水や廃液の濃度トラッキングに利用する。
選定のポイント
必要精度(例:±0.0005)、測定レンジ、表示スケール(sg/Brix/API)、温度管理機能、化学的耐性(溶剤・酸アルカリ)、試料量、清掃性、規格適合性を総合評価する。現場の迅速判定には堅牢で読みやすい浮ひょう式比重計、高精度の品質保証には温調付きU字管振動式が適する。記録性やトレーサビリティが求められる場合はデータ出力や校正証明の有無も重視すべきである。
安全と取り扱い
ガラス浮ひょうの破損、強酸・強アルカリや溶剤蒸気の暴露に留意し、保護眼鏡・手袋を着用する。使用後は速やかに中和・洗浄・乾燥し、目盛の読み取り面を傷つけない。保管は防塵・防振の専用ケースとし、温度変化や直射日光を避けることが望ましい。