歩留まり
歩留まりは、投入した原材料・部品・工程時間などのリソースに対して、規格を満たす良品として出力された割合を示す生産指標である。一般に「Yield」や「良品率」とも呼ばれ、製造の効率性、品質の安定性、コスト競争力を総合的に評価する基礎メトリクスとなる。定義は分野により微調整されるが、基本形は「歩留まり=良品数/投入数」である。半導体や精密組立ではロット単位、連続生産では時間・質量基準で測る。歩留まりは単なる結果指標ではなく、不良の発生メカニズム、工程能力、検査戦略、設計余裕、サプライヤ品質の反映値でもある。
定義と種類(FPY・RTY・材料歩留まり)
歩留まりは用途に応じて複数の派生指標を用いる。工程入口から一度の通過で良品となる割合はFPY(First Pass Yield)、複数工程を直列に連結した全体の通過良品率はRTY(Rolled Throughput Yield)であり、RTYは各工程FPYの積で近似する。材料の利用効率に着目する場合は材料歩留まり(出来高/投入量)を用い、切削・プレス・鋳造などでスクラップ率低減の指標となる。修理・手直し後の回復を含めるか否かは定義差があるため、比較の際はFPY、リワーク率、スクラップ率の分離報告が望ましい。
確率モデルと不良密度
統計的には、不良発生を独立事象とみなすと各工程の良否は二項分布で近似でき、工程良率は1−d(dは欠陥確率)と置ける。n工程直列ではRTY≒∏(1−d_i)となる。半導体では欠陥密度D0と素子面積Aを用いたポアソン近似Y=exp(−A・D0)が古典的で、欠陥のクラスタリングを考慮する場合はネガティブ・バイノミアルに拡張する。組立では誤差伝播や調整余裕の影響が強く、工程間相関を考慮したベイズネットやモンテカルロによる全体歩留まりの推定が有効である。
測定とデータ設計
精度の高い歩留まり評価にはトレーサビリティ設計が不可欠である。ロットID・シリアル・設備ID・作業者・時刻・治工具番号・レシピ版などを結合し、欠陥モード別に良否を集計する。検査方式は全数・サンプリング・オンライン監視(AOI・画像検査・エッジAI)を適用し、検出限界と誤検出率(α・βリスク)のバランスを取る。測定系の再現性・偏り(MSA、Gauge R&R)を検証し、測定誤差が歩留まり推定を歪めないよう管理する。
改善アプローチ(予防・検出・是正)
改善は「予防>検出>是正」の順に費用対効果が高い。設計段階ではDFA/DFM、許容差解析、ロバスト設計(タグチ)、公差配分で感度を下げる。工程ではSPC(X̄-R、p図)、工程能力指数Cpkの向上、DOEで最適条件を探索し、設備ではばらつき源(熱・振動・摩耗・汚染)をFMEAで先行除去する。発生後は5Why、特性要因図、パレートで主要不良に集中し、ポカヨケ、治具・型のリニューアル、レシピの標準化で再発防止を図る。
経済性とKPI連関
歩留まりは原価、スループット、納期遵守率と強く結び付く。COQ(Cost of Quality)の枠組みでは、予防・評価・内部不良・外部不良の各費用を見える化し、FPY改善が直接材料費・手直し工数・検査負荷・在庫滞留の削減に繋がる。ボトルネック工程のFPY上昇はスループットを非線形に押し上げるため、TOC(制約理論)と併用して投資配分を決定するのが合理的である。KPI間の代替関係(サイクルタイム短縮と歩留まりのトレードオフ)も管理対象である。
実務で用いる指標群
- FPY/RTY:通過良品率。リワークを含めない定義で比較性確保。
- Scrap率・Rework率:損失と隠れ不良の分離評価。
- DPMO・PPM:欠陥密度の規模間比較。
- Cpk:工程能力。管理幅に対する中心化とばらつき。
- OEE:設備総合効率。良品化率要素として歩留まりを内包。
半導体・精密実装の要点
クリーン度、パーティクル管理、レジスト塗布均一性、エッチング選択比、アライメント精度、ボンディング温度プロファイルなど、多因子が絡む。欠陥密度のばらつき源は材料ロット、装置チャンバ状態、マスク欠陥、コンタミである。Wafer MapやX-Yヒートマップで空間相関を可視化し、装置台数間のラン差を正規化して異常検知(SPC+機械学習)により早期逸脱を捕捉する。
離散組立・加工の要点
- 公差累積と嵌合性:幾何公差(GD&T)設計で組立歩留まりを安定化。
- 治具・工具の摩耗:校正周期と交換基準を定量化。
- 人依存の変動:標準作業、作業訓練、セル生産で均質化。
- 材料歩留まり:ネスティング最適化、切削条件最適化でスクラップ低減。
データ解析とモデル化
実データでは欠陥が稀で不均衡となるため、分位点回帰、異常検知、ゼロインフレモデルを併用する。共分散構造(SEM)や部分最小二乗(PLS)で多変量因果を把握し、ライン変更やサプライヤ切替時はA/Bではなく擬似実験デザインで交絡を制御する。リアルタイム最適化はベイズ最適化や強化学習を応用できるが、安全側制約(品質ゲート)を明示することが前提である。
定義上の落とし穴
「出荷合格率」を歩留まりと混同すると、過剰検査や選別で見かけ値だけが上昇する罠に陥る。RTYは工程間の再循環・手直しの影響を受けやすく、真のフロー効率を見るにはリードタイム、WIP、スループットを併記する。さらに、検査分解能の改善により一時的にFPYが低下する現象(見える化効果)も解釈に注意が必要である。
実装ガイドライン
- 用語と算式の標準化:FPY/RTY/スクラップ/リワークの統一定義。
- データ品質:MSA合格、欠損・外れ値処理、ロット設計。
- 可視化:工程別パレート、欠陥モード別トレンド、空間マップ。
- 優先度付け:COQとTOCで投資対効果を定量化。
- 継続改善:SPC・FMEA・DOEを標準工程に内在化。
用語の対応関係
Yield(良品率)、Scrap(廃却)、Rework(手直し)、FPY(初回合格率)、RTY(積み上げ良品率)、DPMO(百万当たり欠陥機会数)は相互補完の関係にある。実務では複数を並行監視し、工程の健全度を多面的に把握することが望ましい。
数式の目安
直列n工程、各工程良率p_iのときRTY=∏p_i。半導体ではY=exp(−A・D0)が第一近似で、クラスタリング係数kを用いた拡張ではY=(1+A・D0/k)^(−k)が用いられる。これらは設計段階の粗見積りに有効であるが、実ラインでは相関・再作業・検査閾値により乖離するため、現場データで必ず校正する。
まとめて使える実務チェックリスト
- 定義の固定:FPY/RTY/材料歩留まりの境界を明確化したか。
- 測定系:MSA合格、検査のα・β管理ができているか。
- 主要欠陥:パレート上位の再発防止策は標準化されたか。
- ボトルネック:TOC視点で歩留まり改善を優先配分したか。
- 経済性:COQで費用対効果をレビューしたか。