機械安全
機械安全とは、機械の設計・製造・据付・使用・保守のライフサイクル全体で、人の傷害と財産損失を許容可能な水準まで低減する体系である。中核は「危険源の把握→リスク見積り→リスク低減」の反復であり、優先順位は本質的安全設計、保護方策、使用上の情報の順とする(ISO 12100)。さらに制御系の故障に備える機能安全(ISO 13849-1、IEC 62061)や電気的安全(IEC 60204-1)を統合し、検証と妥当性確認で裏づけることが求められる。
リスクアセスメントの流れ
機械安全で採る標準的プロセスは以下である。各段階は文書化し、変更時には再評価する。
- 危険源特定:挟まれ、切創、転落、感電、火災、騒音・振動、エルゴノミクス過負荷などを洗い出す。
- リスク見積り:重篤度、暴露頻度、回避可能性で定性的・定量的に評価する。
- リスク評価:受容可否を判断し、低減の要否を決定する。
- リスク低減:本質的安全設計→保護方策→使用上の情報の順で適用する。
- 検証・妥当性確認:設計意図通りに機能し、残留リスクが許容範囲か確認する。
本質的安全設計
危険エネルギを源流で抑えるのが最優先である。速度・質量・圧力・温度・電圧などの上限設定、運動範囲の機械的ストッパ、角部の面取りや形状最適化、材料の破断延性・難燃性・耐食性の確保、誤組立が生じない非対称形状化、過負荷に対する安全率設定などを実装する。締結部の弛みは重大事故を招くため、適正トルク管理やボルトの選定も本質的安全に含まれる。
典型手法
- 低エネルギ化・限定化:必要最小限の動力・圧力・ストロークに制限する。
- 固有安全形状:挟み込みギャップ、切刃露出、鋭縁・突起を除去する。
- 誤使用耐性:逆向きに組めない構造、工具不要の安全固定、色分けで識別。
- フェイルセーフ化:破断時に安全側へ移行する機構(スプリング戻り等)。
ガードと安全装置
本質的低減で十分でない場合は固定ガード・可動ガードを設け、可動ガードはインターロックで監視する。補助方策として、光線式安全装置(ライトカーテン)、二手操作装置、安全マット、安全レーザスキャナ、非常停止、速度・位置監視(SSM/SLP)などを用いる。バイパスや故障に対しては自己診断と停止機能を備え、誤検出低減のための配置、ミューティング・ブランキングの要否を評価する。
機能安全とPL/SIL
機械安全の制御はISO 13849-1のPL(a〜e)またはIEC 62061のSIL(1〜3)で要求水準を定義する。アーキテクチャ(カテゴリB/1/2/3/4)、MTTFd、DC、CCF対策で達成PLを算出し、要求PLを満たす冗長・監視構成をとる。安全リレーや安全PLC、エンコーダ付き安全ドライブのSTO/SS1/SS2/SLS等の機能を適切に選択し、ISO 13849-2で妥当性確認を行う。共通原因故障を避ける物理分離、配線経路の多様化、ソフトウェア開発のV&Vも重要である。
電気・制御の安全
IEC 60204-1に基づき、保護接地、短絡・過電流保護、感電防護、配線色、保護等級、アース導通などを確立する。非常停止は自己保持回路で機械全体を安全停止へ導く。ドライブはSTOで無励磁安全を実現し、補助電源喪失時にも安全側に落ちる設計とする。制御盤ではクリアランス・沿面距離、絶縁、遮へい、ノイズ対策を確保し、外部I/Oにはカテゴリに応じた双チャンネル入力とクロスフォルト検出を適用する。
人間工学と表示
人は誤る前提で設計する。視認性の高い表示、直感的な操作子レイアウト、体格差・反復作業負荷への配慮、ロックアウト・タグアウト(LOTO)手順、ピクトグラムとJIS配色の一貫運用、言語依存を減らす標識設計が有効である。保護具は最後の手段であり、装着依存設計は避ける。
ライフサイクルと運用管理
機械安全は納入後に完成しない。据付時の受入検査、運用での巡回点検・定期保全、変更管理(設計変更時の再評価)、教育訓練、ヒヤリハット収集、手順書・回路図・部品表の最新版管理、スペア部品の品質保証、停止・立上げの安全手順整備を通じて性能を維持する。残留リスクは取扱説明書・警告ラベルで明示し、PPE要件も記す。
規格・法令の参照
基本規格はISO 12100、電気はIEC 60204-1、機能安全はISO 13849-1/-2およびIEC 62061である。これらに加え、機械種別のB/C規格や関連JISを参照する。国内法規や指令・政省令の適用範囲、適合性評価、技術文書の保存年限、表示義務を確認し、適切な適合宣言と標識を行うことが、機械安全の実効性と説明責任を支える。