接続箱
接続箱は、電路の分岐・集合点を安全かつ保守容易にまとめるためのエンクロージャであり、端子台や保護機器を内蔵して配線を整流化する装置である。建築電気設備、プラント計装、工作機械、太陽光発電(PV)など幅広い分野で用いられ、防水・防塵・耐衝撃といった筐体性能に加え、絶縁距離や温度上昇、短絡耐力などの電気設計要件を満たす必要がある。適切な接続箱は、施工ミスやゆるみ起因の発熱、浸水による故障、サージ侵入などのリスクを低減し、保全や改造時の作業時間を短縮する。
構造と主要部品
一般的な接続箱は、(1)筐体(樹脂または金属)、(2)シール材(ガスケット)、(3)ケーブルグランド・ノックアウト、(4)端子台(スクリュー、スプリング、貫通、大電流用バー端子)、(5)DINレール、(6)保護機器(ヒューズ、ブレーカ、サージ保護デバイス:SPD)、(7)接地バー、(8)銘板・回路表示、(9)呼気バルブ(ブリーザ)で構成される。屋外では紫外線・雨水・塩害・粉塵の影響が大きく、筐体材質(PC、ABS、ステンレス、アルミ)と表面処理、パッキンの耐候性が寿命を左右する。
規格と等級
保護等級はJIS C 0920/IEC 60529のIPコードで示し、屋外はIP65〜IP67が目安である。機械的耐衝撃はIK等級を参照する。難燃性はUL94 V-0などを指標とし、内部の絶縁協調はIEC 60664-1に基づき沿面距離・空間距離を選定する。温度カテゴリは端子・導体の許容温度(例:105℃)に整合させ、端子の定格トルクも遵守する。北米規格ではNEMAタイプの記載が用いられる場合がある。雷害や開閉サージ対策としてSPD(IEC 61643-11相当)を組み込み、接地システムと協調させる。防爆環境ではEx d/e/ia等の適合品を用い、通常の接続箱と区別する。
電気設計と定格の決め方
- 定格電圧:系統電圧と過電圧カテゴリ(OVC)に応じて端子・部品を選定する。
- 定格電流:同時通電本数と負荷率から導体サイズ・端子許容を決め、I2R損失と温度上昇を評価する。
- 短絡耐力:上位系統の短絡容量に対するヒューズ・ブレーカの遮断容量を確保する。
- 絶縁協調:沿面距離・空間距離、汚損度を考慮しレイアウトする。
- 配線本数・種類:単線・撚り線、フェルール有無、シース外径に合わせて端子・グランド径を選ぶ。
- 環境条件:IP・IK、UV、塩害、結露、温湿度範囲、腐食ガスを評価する。
- 保全性:入線方向、曲げ半径、結束・表示、作業スペース、端子アクセス性を確保する。
温度上昇と熱設計
密閉小型筐体では内部損失が蓄熱しやすい。端子接触抵抗の増大は発熱・劣化の悪循環を招くため、定格の余裕、適切な配線径、端子トルクの管理、配線の放熱性を考慮する。直射日光下では日射吸収(筐体色や反射率)や設置方位の影響が大きい。結露低減には呼気バルブや乾燥剤、内圧差の制御が有効である。
施工と保守
施工品質は接続箱の信頼性を左右する。圧着端子・フェルールの適合、皮むき長さ、端子ねじの規定トルク、導体の挿入深さ、二重挿し不可の確認を徹底する。ケーブルグランドはシース外径に適合させ、曲げ半径と引張緩和を確保する。屋外では上・側面入線時の水だまり形状を避け、ノックアウト処理面のバリ取りとシールを丁寧に行う。保全では増し締め、端子温度・熱画像、絶縁抵抗、SPDインジケータ、ケーブル表示の点検を定期化する。
よくある不具合と対策
- 端子ゆるみ・過熱:トルク管理と振動対策、ばね端子の採用。
- 浸水・結露:IP等級の見直し、グランド選定、呼気バルブ・配水構造。
- 腐食:材質・塗装・ガルバニック対策、シール材の耐薬品性。
- サージ劣化:SPDの選定・交換サイクル、等電位接続の徹底。
- 誤配線:端子マーキング、回路図貼付、ワイヤ番号表示と検査記録。
用途別のバリエーション
計装信号用ではシールド処理や端子分離が重要で、アナログ・デジタルの導通・ノイズ分離を図る。動力用では大電流バーやヒューズ保持具を備え、短絡電流と温度上昇に余裕を持たせる。太陽光ではストリングの集約・ヒューズ・SPDを内蔵するタイプが用いられ、逆流防止やメンテナンス性を重視する。ネットワークやPoE用ではサージ対策と接地が鍵となる。防爆形はゾーン・ガス種別に適合する設計が必須である。
選定手順(実務フロー)
- 仕様把握:系統図・負荷条件・環境条件・保全方針を整理する。
- 定格設計:電圧・電流・短絡・温度・絶縁協調・SPDを決める。
- 筐体選定:IP/IK・材質・サイズ・入線方位・取り付け方法を決定。
- 内部配置:端子台・保護機器・接地バー・表示を干渉なく配置。
- 部材選定:ケーブルグランド径、配線アクセサリ、名板、図面貼付。
- 検証:温度・絶縁・導通・トルク・表示・図面整合を確認。
- 据付・試運転:チェックリストで検査し、記録を保存する。
関連機器との違い
接続箱は配線の「接続・分岐」に主眼があり、遮断器や計測機器を多数搭載する分電盤や制御盤とは機能と規模が異なる。端子箱は端子台中心で保護機器をほとんど持たない構成が多い。太陽光の集電箱は多数ストリングを集約し監視機能を持つ場合があり、用途に応じて区別するのが実務的である。いずれも安全性・保全性・環境適合を満たす設計・施工が不可欠である。
設計上の要点(チェックリスト)
- IP/IK/難燃/絶縁協調の適合、端子トルクと配線径の整合。
- 入線方向・曲げ半径・余長・識別表示・図面の明示。
- SPD・ヒューズの選定と上位保護との協調、接地の連続性。
- 熱設計・日射・結露・塩害対策と材質選定。
- 点検容易性(前面アクセス、端子ピッチ、工具スペース)。
以上の観点を体系的に満たすことで、接続箱は長期信頼性と保全性を両立し、設備全体のダウンタイム低減と安全性の向上に寄与する。設計・調達・施工・保守の各段階で規格適合と実測確認を重ねることが、ライフサイクルコスト最小化への近道である。