実効値|交流の熱効果を直流換算する基準

実効値

実効値は、交流など時間的に変動する物理量(電圧・電流・速度・振動加速度など)の「熱効果や仕事量の等価な大きさ」を表す代表値である。電気工学では抵抗で消費される平均電力が等価な直流と同じになるよう定義され、正弦波に限らず任意波形に適用できる普遍的な指標である。例えば家庭用の100 V表記は100 Vの実効値を意味し、正弦波の波高値はおよそ141 Vとなる。平均値や波高値は用途が限られるが、実効値は発熱・電力計算・絶縁設計・機器定格に直結する実務的価値が高い。

定義と数学的表現

実効値は二乗平均平方根(Root Mean Square, RMS)として定義される。連続時間信号x(t)に対し、周期Tをもつ場合はRMS = sqrt( (1/T)∫_0^T x(t)^2 dt )、非周期でも十分長い観測時間で同様に定められる。離散データx_k(k=1..N)ならRMS = sqrt( (1/N)Σ x_k^2 )である。いずれも二乗で極性の影響を除去し、平均化で時間変動を平滑化し、平方根で元の次元に戻す操作になっている。

物理的意味と熱効果

抵抗Rで消費される平均電力はP = R·I_RMS^2 = V_RMS^2/Rで与えられる。すなわち実効値の電流I_RMSは「同じ発熱を生む直流電流」と等価である。正弦波に限らず、矩形波・三角波・歪んだ波でも、この定義で発熱等価を評価できる。波形の尖り度(Crest Factor = V_peak/V_RMS)が大きいと、同じ実効値でも瞬間値のピーク対策(絶縁・飽和・余裕度)が必要になる。

正弦波の関係式

正弦波v(t)=V_peak·sin(ωt)ではV_RMS = V_peak/√2、両極値間V_pp = 2·V_peakよりV_RMS = V_pp/(2√2)となる。電流も同様でI_RMS = I_peak/√2である。日本の配電100 VはV_RMS=100 Vを意味し、ピークは約141 Vである。機器の耐圧や絶縁設計ではV_peakやV_ppを、電力や熱設計では実効値を使い分ける。

  • 電圧: V_RMS = V_peak/√2, V_pp = 2·V_peak
  • 電流: I_RMS = I_peak/√2
  • 平均電力: P = V_RMS·I_RMS·cosφ(線形負荷)

非正弦波と高調波

任意波形はフーリエ級数で基本波と高調波の和として表せる。実効値は二乗和の平方根で加法性をもつため、V_RMS^2 = Σ V_n,RMS^2が成り立つ(nは各次成分)。歪率THD(Total Harmonic Distortion)は高調波成分のRMSと基本波RMSの比で定義され、損失・騒音・発熱・電磁妨害の評価に直結する。インバータや整流器の出力評価では、基本波だけでなく全波形の実効値を用いてケーブル・ヒューズ・遮断器の定格選定を行う。

測定方法

実効値測定には2方式がある。1つは「平均値整流形」で、整流・平均後に正弦波換算係数で表示するため、歪波・パルス波に対し誤差が大きい。もう1つは「True RMS形(真のRMS)」で、波形を二乗→平均→平方根する等価演算(熱電変換・デジタル演算)により任意波形の実効値を直接求める。選定時は周波数帯域、サンプリングレート、Crest Factor許容、波形応答(AC+DCかACのみか)を確認することが重要である。

三相回路における実効値

対称三相の実効値は線間電圧V_Lと相電圧V_Ph、線電流I_Lと相電流I_Phの関係で扱う。Y結線ではV_L = √3·V_Ph, I_L = I_Ph、Δ結線ではV_L = V_Ph, I_L = √3·I_Phが基本である。平衡負荷の有効電力はP = √3·V_L·I_L·cosφ(いずれもRMS)となり、配電・電動機容量計算やケーブル選定の基礎となる。非平衡時は各相ごとに実効値を計算し、ベクトル合成や零相分成分を含めて評価する。

電力・皮相電力・力率との関係

交流回路の平均有効電力はP = V_RMS·I_RMS·cosφ、皮相電力はS = V_RMS·I_RMS、無効電力はQ = V_RMS·I_RMS·sinφで定まる。いずれも実効値が基準であり、電力量計は瞬時電力の時間平均を測る。非線形負荷では位相差だけでなく高調波による力率低下が起こるため、V・Iの実効値と波形の同時評価(例えばFFTとRMSの併用)が推奨される。

回路素子ごとの観点

抵抗ではI_RMSが直接損失P=R·I_RMS^2を与える。インダクタやコンデンサでは平均有効電力は小さくてもRMS電流が巻線・誘導加熱・ESR損に効くため、許容RMS電流の確認が必須である。半導体素子ではRMSと同時にピーク値・dI/dt・dV/dtの耐量も設計制約となる。ケーブル・母線は温度上昇限界がRMS電流で規定され、遮断器・ヒューズはRMS対等価電流値(しばしばI^2t連関)で動作が定義される。

表記・単位と実務上の注意

表記はV_RMS, I_RMS, Vrms, Irmsなどが用いられる。仕様書で「300 V」とだけ記すとRMSなのかピークなのか曖昧になりうるため、正弦波なら「300 V_RMS(50/60 Hz)」のように明記するのが望ましい。スイッチング電源・PWM・インバータ出力は非正弦波であり、True RMS測定器を用いて導体温度上昇・損失・定格を判断する。さらにEMCや騒音の観点ではRMSのみならずピーク値・THD・Crest Factorも合わせて管理することが実務品質を高める。