多層基板|高密度実装と信号品質向上

多層基板

定義と特徴

多層基板は2層以上の導体層を層間絶縁材で挟み、ビアで電気的に接続したプリント配線板である。高密度実装、低インピーダンスの電源配電網(PDN)、高周波信号の整合や低ノイズ化に有効で、携帯端末からサーバ、車載ECU、航空宇宙機器まで広く採用される。層数は4〜16層が一般的で、HDI(High Density Interconnect)ではビルドアップ工法により更なる微細化・高多層化が可能である。

構造と材料

構造はコア材とプリプレグ(樹脂含浸ガラスクロス)を積層したスタックアップで表される。基材はFR-4が汎用、低損失材としてBTレジンやPPE系、さらにはPTFE系が高速・高周波用途で用いられる。銅箔は電解箔(ED)と圧延箔(RA)があり、曲げ耐性や表面粗さが信号損失や層間接着に影響する。ガラス転移温度(Tg)、Z方向膨張係数(CTE)、誘電率(Dk)、損失正接(Df)が選定の鍵となる。

製造プロセス

代表的工程は、内層パターニング→内層検査→積層・加熱加圧→貫通ドリル→めっき(スルーホール形成)→外層配線形成→レジスト・表面処理→外観検査である。HDIではレーザーで微小ビアを開孔し、ビルドアップを繰り返す。ビア壁の銅めっき品質、樹脂流動の制御、レジストラ対向ズレの抑制が歩留まりを左右する。

配線設計とスタックアップ

典型例として8層の「信号/グランド/信号/電源/電源/信号/グランド/信号」構成がある。リターン電流の経路を短く保つため信号層と参照プレーン(GND/PG)を近接配置し、差動ペアや特性インピーダンス(50Ω、100Ω差動など)を設計する。電源は多数のデカップリングコンデンサでPDNインピーダンスを広帯域に低減する。

ビアの種類

  • スルーホールビア(TH):全層貫通で製造が容易。
  • ブラインドビア(BVH):表層から内層へ接続し、表面実装密度を確保。
  • ベリードビア(BV):内層間のみの接続で外層の配線自由度を高める。
  • ビア・イン・パッド(VIP):BGA下で配線距離と寄生成分を低減。樹脂充填と平坦化が必須。

ビア設計の留意点

スタブ短縮(バックドリル)、アニュラリング確保、熱放散用サーマルビアの配置、EMI観点でのグランドビア・フェンスなどを考慮する。

電気特性とシグナルインテグリティ

多層基板ではスキュー、リンギング、アイパターン開口、クロストーク、リターンパス切断が主要課題である。参照プレーン連続性の確保、分割プレーン跨ぎの禁止、等長配線、ターミネーション、層間遷移の最小化で品質を担保する。高速差動では損失・反射・モード変換を抑え、ビア構造と表面粗さが高周波損失に与える影響を評価する。

熱設計と放熱

電力密度増大に伴い熱拡散層として銅プレーンを活用し、サーマルビアでヒートスプレッダや筐体へ逃がす。樹脂の低熱伝導率、はんだ接合部の温度サイクル、部品直下のホットスポットを熱解析で評価する。

信頼性・試験

スルーホールの銅めっき疲労、CAF(Conductive Anodic Filament)による絶縁劣化、はんだ熱衝撃や湿熱による層間剥離が主要故障モードである。クロスセクション観察、絶縁抵抗試験、はんだ耐熱性、温度サイクル、曲げ試験などで検証する。

用途例

多層基板はスマートフォン、ルータ、GPU/CPU搭載基板、レーダや5G基地局、高効率電源、車載ADAS、医療画像装置などで採用される。高周波帯では低Dk/Df材、電力制御では厚銅配線や銅インレイで電流容量と放熱を確保する。

HDIとビルドアップ

ビルドアップではレーザービアと薄層樹脂で配線密度を劇的に向上させる。mSAP(modified Semi-Additive Process)により細線化(例:L/S=30/30μm級)を実現し、BGAの微小ピッチ対応が進む。一方で樹脂充填や平坦化、電解銅の結晶制御が難易度を上げる。

表面処理と実装

表面処理は有機保護皮膜(OSP)、無電解Ni/Au(ENIG)、無電解Ni/Pd/Au(ENEPIG)、めっきSnなどがある。実装ではリフロー温度プロファイル、部品下VIPのボイド抑制、フラックス残渣とイオン性汚染の管理が重要である。

設計上の注意点

  1. スタックアップを早期確定し、インピーダンスとPDN目標を数値で定義する。
  2. クロストーク抑制のため層間・隣接配線の距離とガード配線を最適化する。
  3. GND連続性とビアフェンスでEMIを低減する。
  4. 製造設計(DfM)ルールに基づくクリアランス、スルーホール径、アニュラリングを遵守する。

関連規格と標準

IPC-2221/2222(設計一般/部品実装)、IPC-6012(リジッド基板適合性)、IPC-4101(積層板)、JIS・IECの関連規格が参照される。製造委託時は工場固有の設計ルールと併せて適用する。

製造コストと歩留まり

多層基板のコストは層数、ビア種別(VIPやブラインド)、線幅/間隔、材質、板厚、公差、表面処理で大きく変動する。高多層・細線化ほど歩留まり影響が顕著で、設計初期から必要性能と製造難度のトレードオフを定量評価することが肝要である。