共鳴
共鳴は、外力や入力の周波数が系の固有周波数と一致または近接したとき、エネルギーが効率よく蓄積・移送され、応答が著しく増大する現象である。機械・構造・音響・電気回路など多様な分野に現れ、設計上は故障や騒音・振動の原因となる一方、フィルタやアンテナ、楽器などでは有効に利用される。共鳴の理解には、固有値・減衰・インピーダンス・位相の関係を系統的に捉えることが重要である。
物理的な捉え方
共鳴は「エネルギーが2つの形(例: 運動エネルギーと位置エネルギー、電場エネルギーと磁場エネルギー)間で往復し、外部入力と位相が整うことで振幅が成長する」現象である。線形1自由度を例にとると、加振周波数が固有周波数付近で位相が反転し、速度に対する力の成分が最大となり、入力仕事が継続的に蓄積して応答が卓越する。
条件と指標(固有周波数・減衰・Q)
ばね定数をk、質量をmとすると固有角周波数はωn=√(k/m)、固有周波数はfn=(1/2π)√(k/m)である。粘性減衰cを持つ場合、減衰比ζ=c/(2√(km))、品質係数Q=1/(2ζ)で小さいほど減衰が大きい。共鳴のピーク高さと鋭さは主にζとQで決まり、機械的インピーダンスZや音響インピーダンスの整合(ミスマッチの解消)もピーク形成に寄与する。
数式モデルと周波数応答
外力F0sin(ωt)を受ける1自由度系の変位伝達関数の大きさは、|H(jω)|=1/√{(1−(ω/ωn)2)2+(2ζω/ωn)2}で与えられる。ζが小さいほど共鳴峰が高く、ピーク周波数はωp≈ωn√(1−2ζ2)へわずかに低下する。実務ではFRF(周波数応答関数)やBode線図でピークと位相遷移(約90°→-90°)を確認し、加振条件と構造モードの重なりを評価する。
現れる分野と典型例
機械・構造では回転機の回転数が危険速度に一致して軸が大振幅化する、配管の渦励振や建物の風応答、歯車噛合励起の次数共鳴などが代表例である。音響では管長と波長の整合により定在波が生じ、電気ではLC回路で電圧・電流が増幅される。光学の共振器、MEMSの微小共振器などスケールを問わず出現する。
設計・対策の基本方針
共鳴を避ける基本は「ずらす・減らす・分散させる」である。固有周波数を使用域外へ移動し(剛性↑で高周波側へ、質量↑で低周波側へ)、減衰を付与してピークを下げ、励起源の次数と重なりを避ける。加えて、入出力のインピーダンス整合を意図的に崩し、エネルギー伝達を抑える方法も有効である。
- チューニング:板厚変更・補剛・質量配置でfnを移動
- 減衰付与:制振材、粘弾性層、オイルダンパ、空気ばね
- 同調質量ダンパ(TMD):狙いのモードに同調してエネルギーを吸収
- 入力制御:加振源の回転数スキップ、ランナップ・ランダウン制御
- 信号処理:ノッチ/ローパス、ゲイン制御、フィードバック安定化
計測・同定と評価
インパクトハンマや加振機でスイープし、加速度・速度・変位を計測してFRFを算出する。モーダル解析により固有振動数・減衰比・モード形を同定し、ピーク寄与の大きいモードを特定する。音響では周波数応答と残響特性、回路ではインピーダンスアナライザで共鳴点・帯域幅(BW)を評価し、Q=fp/BWで簡便に見積もる。
多自由度・非線形の注意点
実機は多自由度でモードが密集し、複数ピークが結合・分岐する。非線形ばね・摩擦・バックラッシュにより周波数応答が歪み、跳躍現象や履歴を伴う。内部共鳴(1:2, 1:3)やパラメトリック共鳴(Mathieu型)では、励起周波数が直接一致しなくても大振幅化するため、線形近似だけでの評価は危険である。
設計マージンと信頼性
量産ばらつき・経年劣化・温度依存でfnは移動する。設計段階で使用周波数帯との離隔を確保し、加えてζの下限を保証することが肝要である。疲労設計では共鳴下の応力振幅を支配条件としてS-N線図を評価し、クリティカル部の応力集中を低減する。試作段階でのスロット走査・音圧マッピング・実稼働モーダル解析(OMA)を併用し、未知励起でも支配モードを洗い出す。
用語の補足(「共鳴」と「共振」)
日本語では共鳴・共振が混用される。厳密には音響分野で媒質の圧力・粒子速度の整合と定在波形成を強調するときに共鳴が用いられ、機械・電気で振幅の極大現象を述べる際に共振が使われることが多い。しかし実務上は文脈依存であり、物理機構(固有性・減衰・位相)の理解が最優先となる。
応用と活用の視点
共鳴を忌避するだけでなく、目的機能に活かす設計も重要である。例として、バンドパス/ノッチフィルタやLCタンク、表面弾性波デバイス、音響管の能率向上、加速度センサや水晶発振器の高Q共振子などがある。利用時は所望帯域でQを高く保ち、外乱側では減衰・デチューニングを確保する二層設計が有効である。
実務での進め方(手順例)
①仕様域と加振源の周波数スペクトルを整理→②概算モデルでfn・ζ・Qを見積もりリスク評価→③形状・材料・境界条件で感度分析→④試作・実験でFRF/モーダルを同定→⑤対策(チューニング・減衰・TMD・制御)を実装→⑥量産ばらつきと環境条件に対するロバスト性を検証、の順で共鳴リスクを体系的に下げる。