人工知能
人工知能(Artificial Intelligence、AI)は、推論・学習・認識・判断といった人間の知的な働きを計算機で実現しようとする技術と、その研究分野の総称である。国際規格ISO/IEC 22989:2022では、人間が決めた目的に沿って予測や推奨、判断などの出力を生み出す工学的なシステムとして定義されている。製造業では外観検査や予知保全、生産計画の最適化などに広がり、研究室の技術から工場で使う道具へと立ち位置が変わってきた。
1956年に始まった研究の系譜
「Artificial Intelligence」という言葉が初めて公式に使われたのは、1956年に米国で開かれたダートマス会議である。提唱者のジョン・マッカーシーらは、知能のあらゆる側面は機械で模倣できるほど正確に記述できると考えた。ただ、その楽観はすぐには実を結ばなかった。人工知能の研究は、期待が膨らむ「ブーム」と予算が減る「冬の時代」を何度も繰り返しながら進んできた。
| 時期 | 呼び名 | 中心となった技術 | 行き詰まりの原因 |
|---|---|---|---|
| 1950年代後半〜1960年代 | 第1次ブーム | 探索・推論(パズル、定理証明) | 現実の複雑な問題に対応できない |
| 1980年代 | 第2次ブーム | エキスパートシステム | 専門家の知識をルール化する手間が膨大 |
| 2010年代〜 | 第3次ブーム | 機械学習・深層学習 | (現在進行中) |
ルールを書く方式から、データに学ばせる方式へ
第2次ブームの主役だったエキスパートシステムは、「もし温度が80℃を超えたら冷却弁を開く」といったif-thenルールを数千個並べて判断させる仕組みである。日本でも1982年から10年間、通商産業省主導の第五世代コンピュータプロジェクトに約540億円が投じられた。しかし、熟練者の暗黙知を言葉にしきれないという「知識獲得のボトルネック」が壁になった。そこで、人がルールを書くのではなく、大量のデータから規則性を機械に見つけさせる機械学習が主流になる。ビッグデータの蓄積と計算機の高速化が、この転換を後押しした。
ニューロンの数式モデル
機械学習の代表的な手法であるニューラルネットワークは、脳の神経細胞を単純化したモデルを多数つなげたものである。1つのニューロンの出力は、入力xiに重みwiを掛けて足し合わせ、バイアスbを加えたうえで活性化関数fを通した値 y = f( Σi=1n wixi + b ) で表される。学習とは、出力と正解との誤差が小さくなるよう重みを少しずつ調整していく作業にほかならない。
深層学習がもたらした転換点
流れを決定的に変えたのは2012年である。画像認識の競技会ILSVRCで、トロント大学のチームが多層のニューラルネットワーク「AlexNet」を使い、上位5候補の誤り率を約26%から15.3%へ一気に下げた。学習計算には、もともと画像描画用だったGPUが使われている。その後、2016年にはAlphaGoが囲碁のトップ棋士に勝ち、2017年に発表されたTransformerという構造は自然言語処理の精度を大きく引き上げた。2022年末に公開されたChatGPTをきっかけに、文章や画像を新しく作り出す「生成AI」が一般にも知られるようになった。
製造現場での主な使われ方
工場での人工知能の活用は、目で見る・音を聞く・数値を読むといった、これまで人の感覚や経験に頼ってきた作業の置き換えから始まることが多い。IoTセンサーで集めたデータと組み合わせることで、次のような用途が実用段階にある。
- カメラ画像による傷・異物・はんだ不良の判定(画像認識の応用)
- モーターや軸受の振動・電流波形から故障の兆候を見つける予知保全
- ばら積み部品をつかむ産業用ロボットの把持位置の推定
- 需要予測にもとづく生産計画・在庫量の最適化
- 射出成形や溶接での加工条件の自動調整
導入コストと現場でつまずきやすい点
実務では、いきなり本格導入せず、PoC(概念実証)から始めるのが一般的である。外観検査の場合、PoCだけで数百万円、ライン導入までを含めると1,000万円を超えることも珍しくない。費用以上にやっかいなのが学習データで、良品は数万枚集まっても、不良品は月に数個しか出ないという現場は多い。照明の角度やワークの置き方が少し変わるだけで精度が落ちる例もあるため、撮像環境を固定する治具づくりに予算の多くを取られがちである。判定速度が求められるラインでは、クラウドに画像を送らず、装置の近くの端末で処理する「エッジAI」が選ばれることもある。導入後も、品種変更や設備の経年変化に合わせて再学習が必要になる点は、見積もり段階で確認しておきたい。
規格・法規制の整備
技術の普及にあわせて、ルールづくりも急速に進んでいる。2023年にはAIを扱う組織向けのマネジメントシステム規格ISO/IEC 42001が発行され、品質管理のISO 9001と同じように第三者認証を受けられるようになった。欧州連合は2024年にAI法(AI Act)を成立させ、リスクの高さに応じて義務を段階的に課す仕組みを取り入れている。日本では2025年5月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)が成立した。罰則で縛るより、研究開発と活用を後押しすることに重きを置いた内容である。輸出向けの装置にAIを組み込むメーカーは、相手国の規制に合わせた文書整備も考えておく必要がある。
強いAIと弱いAI
哲学者ジョン・サールが1980年に示した区分では、人間と同じように意識や理解を持つものを「強いAI」、特定の作業だけをこなすものを「弱いAI」と呼ぶ。現在実用化されているシステムは、検査や翻訳など限られた用途に特化しており、すべて弱いAIに当たる。分野を問わず人間並みにこなす汎用人工知能(AGI)については、半導体の性能向上とともに議論が盛んになっているものの、実現の時期や定義そのものについて研究者の見方は分かれている。
コメント(β版)