リチウム(Li)
リチウムは原子番号3のアルカリ金属で、常温で最も軽い金属元素である。銀白色の軟らかい金属で、密度は約0.534 g/cm3、融点は約180.5 ℃、沸点は約1342 ℃である。電気化学的標準電位は約-3.04 Vと極めて低く、強い還元性を示す。自然界では単体で存在せず、スポデュメン(LiAlSi2O6)やペタライト(LiAlSi4O10)といったケイ酸塩鉱物、あるいは塩湖のかん水中にLi+として含まれる。炎色反応は深紅色で、分析上の識別に用いられる。
構造・電子配置と物性
リチウムの電子配置は[He]2s1であり、価電子1個を持つことから典型的なアルカリ金属の性質を示す。結晶構造は常温で体心立方(bcc)で、ヤング率は金属としては低い部類にあり軽量・低剛性である。比熱は約3.58 J/g·Kと大きく、熱伝導率は約80 W/m·K程度で良好である。イオン半径はLi+でおよそ0.76 Åと小さく、拡散性・インターカレーション特性に寄与する。
資源と製錬プロセス
資源は大別して硬岩型と塩湖かん水型に分かれる。硬岩型ではスポデュメン等の鉱石を焙焼・浸出し、Li2CO3やLiOHとして回収する。塩湖かん水型では蒸発濃縮やイオン交換でLi+を濃縮し、炭酸化・晶析で精製する。工業的にはLiClを溶融塩電解して金属リチウムを得るプロセスも用いられる。用途の多様化により、製錬段階で目的製品(Li2CO3、LiOH·H2Oなど)を使い分けることが一般的である。
化学的性質と反応
リチウムは空気中で急速に酸化し、表面に酸化膜や炭酸塩を形成する。窒素とも反応してLi3Nを与えるため、長期保存には不活性ガス雰囲気や鉱物油中での保管が推奨される。水との反応は2Li + 2H2O → 2LiOH + H2であり、発熱・水素発生を伴う。ハロゲン化物(LiCl、LiBr、LiI)は高いイオン性を示し、LiClは潮解性が強い。強い還元力を活かして有機合成ではn-BuLiなどの有機リチウム試薬が塩基・求核剤として広く使われる。
電池材料(Li-ionとLi金属)
二次電池では、正極にLCO(LiCoO2)、NMC(LiNiMnCoO2)、NCA(LiNiCoAlO2)、LFP(LiFePO4)などが用いられ、負極は主に黒鉛である。電解質はLiPF6を有機炭酸エステル(EC、DEC、EMC等)に溶解した系が一般的で、SEI(固体電解質界面)の形成が性能・寿命・安全性を左右する。エネルギー密度向上の観点からシリコン系負極や高Ni系正極が検討されている。一方、リチウム金属二次電池は理論エネルギー密度が高いが、デンドライト生成・安全性が課題であり、固体電解質(SSE)による全固体電池が有望視されている。
合金と軽量構造材
Al-Li合金は比強度・比剛性に優れ、航空宇宙分野での軽量化に寄与する。少量のリチウム添加によりアルミニウムの密度を低下させ、弾性率を向上できるが、加工性や靭性とのバランス設計が重要である。MgやCuとの多元合金設計、析出強化相の制御、溶接性や耐食性の確保が実用化の鍵となる。
化合物と産業用途
- 炭酸リチウム(Li2CO3):正極材料前駆体、ガラス・セラミックスの融剤。
- 水酸化リチウム(LiOH·H2O):高Ni系正極の共沈・焼成で選好、グリースの増ちょう剤前駆体。
- 塩化リチウム(LiCl):乾燥剤、吸湿材、空調用ブライン。
- リチウムステアレート:高温安定なリチウムグリースの増ちょう剤。
- リチウムアルミニウム水素化物(LiAlH4):強力な還元剤。
安全性・取扱いと規格の要点
金属リチウムは水分と反応しやすく、取り扱い時は乾燥・不活性条件を維持する。粉末は発火性があり、少量火災には乾燥砂や専用消火剤を用いる(一般の水系消火は禁忌)。電池用途では過充電・短絡・高温雰囲気を避け、セルの熱暴走に備えた保護回路・熱設計・適切なBMSが不可欠である。輸送上はUN番号・クラスに従い、梱包・表示・状態評価(SoC管理)を順守することが求められる。
分析・評価と典型データ
- 定性:炎色反応(深紅)、原子吸光・ICPによる微量分析。
- 電池:初期クーロン効率、容量保持率、レート特性、低温特性、インピーダンス(EIS)。
- 材料:Al-Li合金の組織観察(TEM/SEM)、析出相解析(XRD)、腐食試験(塩水噴霧)。
代表値(目安)
密度0.534 g/cm3、融点180.5 ℃、沸点1342 ℃、標準電位-3.04 V、比熱3.58 J/g·K。これらの値は測定条件により変動するため、設計・規格適用時には最新のデータシート・規格票を参照する。
環境・資源循環
バッテリー需要増大に伴い、資源供給の安定化とリサイクルが重要性を増している。前処理(放電・解体)、物理分離(破砕・選別)、湿式回収(浸出・抽出・晶析)により、Ni、Co、Mn、そしてリチウムを効率的に回収するプロセスが整備されつつある。ライフサイクル全体でのCO2排出や用水の最小化、トレーサビリティの確立が今後の技術・制度面の焦点である。