ラテンアメリカの戦後|冷戦下の変容と課題

ラテンアメリカの戦後

ラテンアメリカの戦後は、第2次世界大戦後の国際秩序の再編と冷戦構造の浸透の中で、開発主義の台頭、革命と反革命、軍事政権と民主化、債務危機と市場化改革が連鎖した時代である。各国は一次産品輸出への依存と工業化の遅れ、社会的不平等という構造条件を抱えつつ、国家主導の産業政策から新自由主義的改革へ、さらに21世紀の「左派潮流」や資源ブームを経て多様な政治経済の軌跡をたどった。

国際環境の変化と「周縁」の位置づけ

戦後世界は、米ソ対立を軸にした冷戦へと急速に傾いた。ラテンアメリカは地理的に米国の勢力圏に近く、反共を名目とする介入や政権工作が繰り返されやすい地域となった。他方で、欧州の復興需要や国際貿易の再開は一次産品輸出国に短期的な追い風ももたらしたが、価格変動に左右される脆弱性はむしろ強く意識されるようになった。

輸入代替工業化と開発主義の時代

戦後の主要な政策潮流の1つが輸入代替工業化である。外貨不足と工業製品の輸入依存を克服するため、関税・外貨統制・国営企業・補助金などで国内産業を育成する路線が採られた。こうした開発主義は、都市労働者の組織化や中間層の拡大と結びつき、政治的には大衆動員型のポピュリズムを後押しした。典型例として、アルゼンチンのペロン主義や、ブラジルの国家主導の工業化が挙げられる。

  • 国家の役割が拡大し、インフラ・エネルギー・重工業への投資が重視された。
  • 都市化が進み、農村から大都市への人口移動が社会構造を変えた。
  • 一方で、保護政策は非効率や財政負担、インフレを招きやすかった。

革命の衝撃と反革命の拡大

1959年のキューバ革命は、ラテンアメリカの戦後を象徴する転機である。社会改革と反米を掲げる革命政権の成立は、地域の左派運動に強い影響を与え、ゲリラ闘争や土地改革の要求を刺激した。革命の国際的波及は米国の安全保障観を硬化させ、同盟国の反共体制を支援する政策が強化された。チリ、ニカラグア、エルサルバドルなどでは、急進的改革をめぐる対立が内戦や国家暴力へとつながった。

社会改革をめぐる対立の深層

多くの国で、土地所有の偏在、都市の貧困、労働条件の格差が長期の不満として蓄積していた。改革は既得権層の反発を呼び、治安維持と秩序回復の名の下で、政治的競争の空間が狭められる局面が増えた。

軍事政権と国家暴力

1960年代後半から1980年代にかけて、南米を中心に軍事クーデタが相次いだ。ブラジル(1964年)、チリ(1973年)、アルゼンチン(1976年)などで成立した軍政は、反共を掲げて政治活動を抑圧し、失踪や拷問といった人権侵害を広範に伴った。国境を越えた取り締まり協力としてコンドル作戦が知られ、地域的な恐怖政治のネットワーク化を示す事例となった。

軍政は経済面でも国家介入の縮小や市場原理の導入を進める場合があり、特にチリではピノチェト政権下で急進的な改革が試みられた。こうした路線は成長の局面を生む一方、失業や格差の拡大、社会保障の後退を引き起こし、政治的正統性の不足を補うための抑圧が強まる悪循環を生みやすかった。

1980年代の債務危機と「失われた10年」

1970年代の国際金融環境の変化と借入拡大の帰結として、1980年代初頭に債務危機が表面化した。メキシコの支払い困難を契機に危機が連鎖し、緊縮と構造調整が各国に求められた。通貨切り下げ、財政削減、賃金抑制は生活水準を押し下げ、所得分配の悪化や社会不安を深めた。この時期はしばしば成長停滞と社会的コストの大きさから「失われた10年」と呼ばれる。

国際機関と政策条件

IMFなどの支援は、財政規律や市場改革を条件とすることが多く、国内政治では主権や公平性をめぐる論争を誘発した。危機の処理は単なる経済問題ではなく、政治体制の転換とも結びつきやすかった。

民主化と市場化改革の並走

1980年代後半から1990年代にかけて、軍事政権から民政への移行が広がり、選挙と議会政治が再建された。同時に、対外信用の回復と成長再開を目指して、民営化や規制緩和、貿易自由化といった新自由主義的改革が推進された。改革はインフレ沈静化や投資呼び込みに一定の成果を示すこともあったが、雇用の不安定化、地方・先住民社会の周縁化、公共サービスの格差など、新たな社会問題を生んだ。

地域統合もこの時期に加速し、南米ではメルコスール、北米ではNAFTAが象徴的である。統合は市場拡大の機会である一方、産業競争力の差が国内の分配政治を難しくし、移民や国境管理の問題とも絡み合った。

21世紀の資源ブームと政治の再編

2000年代には資源価格の上昇を背景に、多くの国で財政余力が拡大し、貧困対策や社会給付の強化が進んだ。いわゆる「左派潮流」は、格差是正と国家の再関与を掲げ、社会政策の拡充によって支持を広げた。しかし資源依存の構造が温存される限り、価格下落局面では財政が急速に悪化し、政治的分断が再燃しやすい。ラテンアメリカの戦後が示すのは、景気循環が制度の安定性と社会統合を左右しやすいという地域特性でもある。

社会構造の変化と現在に続く課題

都市化の進展は巨大都市圏の形成を促し、住宅・交通・治安・環境の課題を同時に拡大させた。犯罪と暴力、麻薬経済、汚職は国家への信頼を揺さぶり、民主化後の政治を慢性的に不安定化させる要因となっている。また、先住民の権利、ジェンダー平等、森林破壊や水資源といった環境問題は、開発モデルそのものの再検討を迫る論点となった。移民・難民の増加も地域内外の政治課題となり、社会政策と国際協調の両面で難題を突きつけている。