マルチメータ
マルチメータは、電圧・電流・抵抗など複数の電気量を1台で測定できる計測器である。現場では「テスタ」とも呼ばれ、アナログ指示式とデジタル表示式(DMM: Digital Multimeter)に大別される。電気・電子回路の点検、設備保全、製造ラインの品質確認、教育用途まで幅広く用いられる。多くの機種はダイオードテスト、導通チェック、容量・周波数・デューティ比測定、温度入力などを備え、測定レンジや分解能、確度(精度)を仕様で選定するのが基本である。
原理と測定量
マルチメータは内部でシャント抵抗や分圧回路、A/Dコンバータを組み合わせ、電圧(DC/AC)、電流(DC/AC)、抵抗を中心に計測する。ACは実効値(RMS)表示が一般的で、正弦波以外の歪み波形に対しては「真のRMS(True RMS)」方式が必要となる。抵抗測定は微小電流を流して電圧降下を読む4端子法が高精度であるが、一般機では2端子法が多い。容量は充放電曲線から、周波数はゼロクロス検出やカウンタ機能から求める。
構成要素
- 入力端子:共通端子(COM)、電圧・抵抗端子(VΩ)、電流専用端子(mA/A)に分かれる。
- レンジ切替:オートレンジが主流だが、マニュアルレンジは応答を安定させやすい。
- 保護回路:ヒューズ、サージアレスタ、PTC、シャント設計で誤接続から内部回路を保護する。
- 表示・インタフェース:カウント数(例:6000/20000/50000)、バックライト、相対値(REL)、MIN/MAX、データホールド、ロギング、USB/Bluetooth出力など。
測定手順と注意
基本手順は「対象量の選択」「リードの正しい差し替え」「レンジ確認」「プローブ接触」の順である。電圧測定では回路を切らずに並列接続、電流測定では回路を開いて直列接続する。抵抗・導通は対象を必ず無通電にし、コンデンサの残留電荷を放電する。レンジオーバは危険であり、未知の対象は高レンジから当てるのが鉄則である。
校正と測定不確かさ
マルチメータの確度は「±(読み値×% + 桁数)」で表され、温度ドリフトやレンジ、帯域で変化する。定期校正では基準器(校正用標準電圧・抵抗)にトレーサブルな手順を用い、測定不確かさを見積もる。高確度機では年換算ドリフトやガードリング、熱起電力(EMF)対策が重要である。
安全規格とカテゴリ(CAT)
計測安全はIEC 61010に基づくオーバーボルテージカテゴリ(CAT I〜CAT IV)と定格電圧で評価される。配電盤や屋外一次側はCAT III〜IVが要求され、適合しない計器を接続するとアークや感電の危険がある。プローブ・ヒューズも同等カテゴリの定格を満たす必要がある。安全の要諦は「正しい端子・正しいレンジ・正しいカテゴリ」である。
仕様の読み方
- 分解能とカウント:表示最小桁を決める。高分解能は微小変動の観測に有利。
- 帯域・真のRMS:可聴〜インバータ周波数帯を測るなら帯域とTrue RMSを確認する。
- 入力インピーダンス:電圧測定は10 MΩが標準。高インピーダンス回路ではバッファが有効。
- ヒューズ定格:mA/A端子の遮断容量と高速特性(HRC)を確認する。
- 環境:使用温湿度、汚染度、IP等級、落下耐性。
応用例
電源のリップル評価にはAC+DCの読取り、PWM出力のデューティ比測定、サーミスタ入力による温度監視、整流回路のダイオード判定、センサ抵抗のオフセット相殺(REL)、データロギングでのドリフト追跡などがある。設備保全では絶縁測定計と併用し、抵抗のトレンド劣化を早期検知する運用が有効である。
よくある誤りと保守
誤りの典型は電圧レンジのまま電流端子にリードを差す、あるいは通電中に抵抗測定を行うケースである。内部ヒューズ溶断は表示が0のまま変化しない症状を生む。保守では端子・プローブの酸化清掃、電池・ヒューズ交換、ゼロ調整、保管時の温湿度管理を行う。高確度用途では定期校正周期を短縮し、校正証明をトレーサブルに保管する。
選定の観点
- 安全要求:作業電圧と系統に応じたCATと定格。
- 測定対象:DC中心かインバータ系ACか、周波数帯と波形歪み。
- 精度・分解能:必要確度、長期安定性、温度係数。
- 運用:ロギング、インタフェース、バックライト、応答速度。
- 堅牢性:絶縁距離、筐体強度、IP、落下耐性。
現場でのチェックリスト
- 未知対象は高レンジ開始、オートレンジの挙動を確認する。
- COMと測定端子の差し替えを声出し確認する。
- 測定前に回路図と接地を確認し、感電距離を確保する。
- ヒューズ・プローブの定格刻印を毎回点検する。
関連機能と拡張
クランプアダプタで大電流を非接触測定し、温度プローブで熱的挙動を追うなど、アクセサリで適用範囲は広がる。ロガー機能搭載機は長時間データをCSV出力して解析に供せる。校正用のリファレンス電圧/抵抗器と併用すれば現場簡易校正も可能である。
測定品質向上のコツ
- リード長を短くし、ツイストで誘導ノイズを低減する。
- 接触抵抗を抑えるために測定点を清掃し、安定したプロービングを行う。
- 温度係数を意識し、環境が変わる場合は相対測定(REL)を使う。
安全上の警告
高エネルギ回路ではアークフラッシュの危険がある。カテゴリ適合品と適切な個人保護具(PPE)を用い、片手測定・絶縁手袋・遮断器のロックアウト/タグアウトを徹底する。機器の損傷や異臭、割れがある場合は直ちに使用を中止する。