プレス絞り
金属薄板を金型で三次元形状に成形する代表的な塑性加工法がプレス絞りである。平板ブランクのフランジ部に圧縮円周応力を与え、材料をダイス穴へ連続的に流入させて容器状・筒状・角筒状などの立体を得る。缶、深皿、燃料タンク、家電筐体、自動車のカップ類など量産部品に広く用いられ、板厚をほぼ保持したまま成形できる点が特徴である。しごき(ironing)を併用して肉薄化・高精度化を図る工程設計も一般的である。
原理と特徴
プレス絞りでは、パンチ先端がブランク中央を押し下げ、フランジ部がブランクホルダ(しわ押さえ)で拘束されつつダイス肩Rを滑り流入する。フランジに主として圧縮円周応力、壁部に引張応力が生じ、材料は塑性流動して容器形状に移る。適切な潤滑と肩R設計により摩擦発熱と表面損傷を抑え、しわ・割れの発生を防止する。板厚は理想的には保持だが、壁部に若干の減少が生じるため、必要に応じてしごきで均一化する。
金型と主要要素
- パンチ:先端Rと表面粗さが材料流動と割れ限界を支配する。高硬度・耐摩耗の工具材を用いる。
- ダイス:肩Rは材料の曲げ・戻しを繰り返す領域であり、R不足は割れ、過大はしわを招く。鏡面仕上げが望ましい。
- ブランクホルダ(BHF):しわ抑制のための保持力。サーボやクッションで可変制御する例が増えている。
- ドロービード:フランジ流入量を局所的に調整し、耳・しわを抑える成形抵抗付与機構。
- クリアランス:板厚tに対し、全クリアランスでおおむね1.05〜1.20tを目安とする。
R・クリアランスの設計目安
- ダイス肩半径 Rd ≈ 4t〜8t、パンチ肩半径 Rp ≈ 3t〜6t 程度を基準に、材質・減肉率で調整する。
- パンチ径 dp とブランク径 D0 の関係を工程ごとに見直し、フランジしわと壁割れのバランスを取る。
成形限界と評価指標
深絞り性の代表指標はLDR(Limiting Drawing Ratio)で、LDR = D0/dp と定義する。低炭素鋼のLDRは概ね2.0〜2.2、アルミ合金は1.8〜2.0、ステンレスは1.7〜1.9が目安である。板材の異方性を表すr値(平均r、Δr)や加工硬化を表すn値が大きいほど深絞り性は良好である。破断予測にはFLD(成形限界線図)や拡散くびれ判定を用い、局所減肉の分布で工程妥当性を確認する。
工程割付と絞り比
- 絞り比 m = dp/D0、あるいは絞り率(%)= (D0 – dp)/D0 × 100 で減径度合いを把握する。
- 1工程目の減径は40〜50%を上限目安、2工程目以降は20〜30%程度とし、必要に応じ中間焼なましを挿む。
- 角絞りは応力集中が大きく、コーナーR拡大や段階成形で割れを回避する。
材料と潤滑
プレス絞りに用いる材料は、IF鋼や低炭素鋼のDDQグレード、アルミ合金、SUSなどである。表面処理やリン酸塩皮膜、ポリマー皮膜により摩擦係数を安定化し、境界潤滑〜混合潤滑域で工具寿命と表面性状を両立させる。環境負荷低減の観点から、水系潤滑やドライコーティング金型の採用も進む。
耳(Earing)対策
- 板異方性(Δr)を小さくする鋼種選定と圧延方向配置の最適化。
- 耳取りしろの設定、ドロービード形状の最適化、前加工による厚み・ひずみ分布の平準化。
欠陥モードと対策
- しわ:BHF過小、肩R過大、潤滑過多が要因。BHF増、ビード強化、R最適化で対処。
- 割れ(フランジ割れ・壁割れ・底割れ):BHF過大、R不足、減径過大、潤滑不足が要因。工程分割、R拡大、潤滑強化、材料見直しを行う。
- 厚みムラ・オレンジピール:材料組織・加工硬化の影響。しごき併用や中間焼なまで均一化。
- 耳の突出:Δr起因。ブランク回転配置や耳取りしろ、材料切替で低減。
CAEと試作検証
近年はFEM(陽解法)による成形シミュレーションでプレス絞りの割れ・しわ・耳を事前評価する。摩擦モデル、工具剛性、BHFプロファイルをパラメトリックに最適化し、FLD安全率や最小肉厚で工程妥当性を判断する。試作段階ではグリッド法でひずみを可視化し、トライ品の肉厚測定やビード通過荷重でモデルを同定・更新する。
工程フローの例
- ブランキング(円板・角板の作成)
- 第1絞り(深さ・径の大部分を確保)
- 再絞り(段階的に減径・増深)
- しごき(必要時)・トリム・フランジ・穴あけ
- 洗浄・表面仕上げ・外観検査・寸法検査
設備と制御
設備はクランクプレス、サーボプレス、油圧プレスを用途で使い分ける。サーボは速度・BHFプロファイル制御の自由度が高く、しわ・割れの同時回避に有効である。ダイセットやガイドの剛性、平行度、金型温度管理は品質安定の基礎条件である。
品質・計測
寸法・形状のばらつき低減には、ビード高さやBHFの管理図運用、肉厚分布・耳高さ・円筒度などの指標化が有効である。CMMや非接触3Dスキャンで幾何偏差を定量化し、金型面補正へフィードバックする。ねじ締結部品であるボルトのような機械要素と比較しても、容器・筒物の幾何精度は機能・気密に直結するため統計的工程管理が重要である。
関連用語
- 深絞り、円筒絞り、角絞り、再絞り、しごき(ironing)
- ブランクホルダ(BHF)、ドロービード、肩R、LDR、r値、n値、FLD
- 耳(earing)、しわ、割れ、底割れ、厚みムラ、オレンジピール
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