フォーミング
フォーミングは金属や樹脂などの素材に外力を与え、塑性変形を利用して所望の形状・寸法に成形する加工の総称である。切削のように除去を前提とせず、素材の体積をほぼ保持したまま形を変える点に特徴がある。板材を対象とする板成形と、棒・塊材を対象とするバルク成形に大別され、自動車・家電・機械要素から精密部品まで広範に用いられる。高い材料歩留まり、短タクト、量産適性を備える一方、材料特性や摩擦、工具形状が品質と生産性を大きく左右するため、理論・実験・CAEを統合した工程設計が要となる。
定義と位置づけ
フォーミングは外力が降伏点を超える領域での塑性流動を制御し、加工硬化や応力解放を伴いながら形状を与える加工である。切削・研削などの除去加工、溶接・ろう付けなどの接合加工と並ぶ製造の基本群に属し、曲げ、絞り、押出し、鍛造、圧延、引抜き、スピニング、ハイドロフォーム、インクリメンタル成形など多様なプロセスを包含する。
力学の基礎
弾塑性学に基づき、真応力–真ひずみで表す流動応力は一般にσ=Kε^nで記述され、Kは強度係数、nは加工硬化指数である。応力状態は板材で面内引張・曲げが、バルクでは三軸圧縮が支配的となり、ひずみ経路やひずみ速度、温度によって限界成形性が変化する。弾性回復は形状誤差(スプリングバック)を生み、金型補正や工程条件で抑制する。
板材成形とバルク成形
板材成形は深絞り・張出し・曲げなどにより薄板の板厚と面内流動を制御するのに対し、バルク成形は鍛造・押出し・引抜き・圧延などで材料内部の三次元的な体積流動を扱う。前者は耳(イアリング)・しわ・割れ、後者はバレル化・中心割れなど特有の欠陥様相を持つ。
主要プロセスの概観
- プレス成形:ブランキング、曲げ、フランジ、しごき、深絞りを順送・トランスファーで連結し量産化する。
- 鍛造:自由鍛造と型鍛造に大別され、組織緻密化と高強度化に寄与する。
- 圧延・押出し・引抜き:連続変形で断面精度と表面性を両立し、長尺材や薄板を得る。
- スピニング・ハイドロフォーム:回転・流体圧を活用し、均一な肉厚と滑らかな曲面を実現する。
- 温間・熱間・超塑性成形:温度を制御し延性・成形荷重・スプリングバックを最適化する。
材料特性と成形性評価
板材の異方性はLankford係数r値で、加工硬化特性はn値で把握する。成形限界線図(FLD)は主・従ひずみの組合せに対する破断限界を可視化し、孔拡大試験や張出し試験は局所延性を評価する。アルミや高張力鋼ではスプリングバックが大きく、温間や工具剛性向上、ビード設計で対策する。バルクでは温度・潤滑・ひずみ速度に依存する流動応力を管理し、中心割れや折流れを抑える。
金型設計とトライボロジー
金型はダイ肩R、パンチR、クリアランス、圧縮ビード、パッド圧など幾何と境界条件で材料流動を制御する。摩擦は潤滑剤の粘度・添加剤、表面粗さ、工具コーティング(TiN等)で調整し、焼付きや表面傷を抑止する。焼入れ金型や高剛性ベースはスプリングバック安定化に寄与し、冷却・温調は温間・熱間成形で重要となる。
設備とプロセス制御
メカニカルプレス、油圧プレス、サーボプレスは荷重–行程特性が異なり、サーボはスライド速度・滞留制御でしごきや絞りを安定化する。ダイクッションやブランクホルダ圧は板流動を規定し、荷重・板厚・温度のインライン計測やフィードバック制御は品質のばらつきを低減する。自動搬送・段取り短縮はタクト向上に直結する。
欠陥モードと対策
- しわ:ブランクホルダ圧増、ビード強化、ブランク形状最適化で抑制する。
- 割れ:パンチ・ダイR拡大、板厚・材料変更、潤滑改善、成形速度低減が有効である。
- スプリングバック:金型補正、パッド圧・しごき量調整、温間化、工具剛性向上で対応する。
- 表面欠陥:清浄度管理、適正潤滑、工具鏡面化やコーティングで防止する。
- 寸法ムラ:型たわみ低減、プレストレス、スライドガイドの剛性確保で安定化する。
工程設計とコスト管理
ブランキング→成形→トリム・ピアス→フランジ→整形の工程連鎖を設計し、歩留まりとスケルトン率を最小化する。順送は小物量産、トランスファーは大物深絞りに適する。ツーリング費・寿命・段取り時間・タクトを総合評価し、試作段階から量産条件に近い打ち方で検証して立上げリスクを抑える。
CAE/シミュレーションの活用
FEMベースの成形解析は板厚減少、ひずみ集中、破断予測、ビード効果、スプリングバック量を事前評価できる。材料モデルは異方性降伏則や速度・温度依存を反映し、逆解析で板取り・ブランク形状を自動同定する。実測荷重・変位との同定によりCAE–実機のギャップを縮小し、デジタルツインで金型補正の反復を削減する。
品質保証と計測
三次元測定機やスキャナで形状偏差をマップ化し、限界公差内の安定生産性(工程能力指数)を監視する。板厚分布、硬さ、残留応力、外観(打痕・焼付き)を点検し、SPCでばらつきを管理する。初期流動の不安定や工具摩耗はトレンド監視で早期に検知する。
環境・安全・保全
LCA視点では材料歩留まり向上とスクラップ削減、潤滑剤のVOC低減やミスト対策が重要である。リサイクル材の利用やドライフィルム潤滑は環境負荷低減に資する。安全面では挟まれ・飛来防止、金型交換の標準手順、非常停止系の定期点検を徹底し、予知保全でダウンタイムを抑える。
プロセス選定の指針
- 形状・寸法・公差:曲率、肉厚遷移、穴・フランジの有無を吟味する。
- 生産数量:量産は順送・トランスファー、少量はインクリメンタルや簡易型が有利である。
- 材料特性:r値・n値・降伏応力・延性・焼入性・耐食性を総合評価する。
- 表面要求:外観等級と表面処理前提に応じて潤滑・工具材を選ぶ。
- 設備・治工具:プレス能力、ストローク、クッション力、温調能力を満たすか確認する。
- コスト・リードタイム:工具費、段取り、タクト、保全性を含め総所有コストで比較する。