バイパスダイオード
バイパスダイオードは、太陽光発電用のPVモジュールでセル列の一部が影や汚れで発電不能になった際に、そのセル列(ストリング)を迂回させて電流の流路を確保する半導体素子である。逆電圧印加によるセルの過大発熱(ホットスポット)を抑制し、モジュールの信頼性と発電継続性を高める役割を担う。通常、セルを直列に束ねたサブストリング単位にバイパスダイオードを逆並列接続し、遮光時に順方向導通させることで逆方向へ流れようとする電流を逃がす。多くの製品ではショットキー型が用いられ、低Vfと低逆回復により損失と発熱を抑える。
原理と役割
直列接続されたセル列の一部が遮光されると、そのサブストリングは他の発電中セルから見て電流のボトルネックとなり、逆バイアスが生じる。ここでバイパスダイオードがしきい値を超えて順方向に導通し、逆バイアスをクランプして電流をバイパスさせる。結果として当該サブストリングは事実上電気的に切り離された状態となり、残りのサブストリングが発電を継続する。これによりセルの局所過熱を抑え、封止材の劣化やガラス破損といった致命的損傷を回避する。
配置と回路構成
バイパスダイオードはモジュールの接続箱(ジャンクションボックス)内に実装され、一般に1枚のモジュールを2〜3分割したサブストリングそれぞれに1個ずつ配置する。回路的にはサブストリングの正負端子間に逆向き(セル直列と逆極性)で接続され、健全時にはオフ、遮光時にはオンとなる。配線抵抗と接触抵抗は導通時損失と温度上昇に直結するため、リード長やはんだ・端子形状は熱設計と併せて最適化する。
I–V特性とMPPTへの影響
部分遮光でバイパスダイオードが導通すると、モジュールのI–Vカーブには段差が現れ、P–Vカーブには複数ピークが生成される。最大電力点探索(MPPT)アルゴリズムはこの多峰性に対応する必要があり、単峰前提の手法では局所最大に捕捉されうる。実運用ではストリングレベルの電流がバイパスダイオードの順方向電圧Vfだけ損失として消費されるため、発熱(I×Vf)を見積もり、連続遮光時の温度上昇も評価に含める。
定格選定の指針
- 順電流If(連続):ストリングのIsc(短絡電流)以上に安全率を掛ける。低温高照度時の電流上昇を考慮する。
- 逆電圧VRRM:サブストリングのVoc合計に温度係数とサージ余裕を加えた値以上とする。
- 順方向電圧Vf:低いほど損失と発熱が小さい。ショットキー型は優位だがリーク電流と温度特性に注意。
- 熱抵抗RθJC/RθJA:実装・筐体放熱条件での接合温度Tjを定格内に収める。
- 信頼性:温度サイクル、湿熱、サージ試験結果や規格適合性を確認する。
ショットキー選択時の留意点
ショットキーバイパスダイオードはVfが低い一方、温度上昇でリークが増大しやすい。高温長期の遮光条件では接合温度が上がり、熱暴走的に損失が増える恐れがある。パッケージの熱拡散、銅箔の放熱面積、充填材の熱伝導率など、モジュール構造全体で熱設計を行うことが重要である。
故障モードと診断
バイパスダイオードの代表的故障は「短絡」と「開放」である。短絡では当該サブストリングが恒久的にバイパスされ、モジュールの公称電圧が低下する。開放では保護機能が失われ、部分遮光でホットスポットリスクが増大する。診断にはI–Vスキャン、サーモグラフィ、EL/PL検査が用いられる。I–Vの段差位置や温度異常の局在は、どのサブストリングのバイパスダイオードが関与しているかの手掛かりとなる。
設計・実装の実務ポイント
- 配線・端子の寄生インダクタンスを抑え、遮光遷移時の過渡サージを低減する。
- 導通時のI×Vf損失と周囲温度を入力に、Tjマージン(例:Tjmax−Tjop)を確保する。
- 封止材や接着剤の熱老化を見込み、温度勾配とヒートスポットの平準化を図る。
- MPPTの多峰対応(スキャン型や区間探索)により実発電量の落ち込みを緩和する。
- 保守では接続箱を開けずに外部端子計測と熱画像で状態推定を優先する。
ブロッキングダイオードとの違い
ブロッキングダイオードは夜間や系統停止時にストリングへ逆流する電流を遮断する素子で、直列に挿入される。一方、バイパスダイオードはサブストリング両端の逆並列で、部分遮光時にのみ導通してセルを保護する。目的・接続位置・動作タイミングが異なるため、混同せずに別々の定格・熱設計を行う。
規格・評価の観点
量産設計では、温度サイクル、湿熱、高温動作、サージ、塩害などの環境ストレスに対し、バイパスダイオードの劣化モードを加速試験で確認する。モジュール全体のI–V特性変化、ホットスポット抑制効果、長期信頼性の統計評価を通じて、遮光条件下でも安全かつ安定した運転を実現することが肝要である。