ノーガスアーク溶接(セルフシールドアーク溶接)
ノーガスアーク溶接(セルフシールドアーク溶接)とはガスを使用せずに溶接を行う技術である。一般的なアーク溶接は保護ガスを使用して溶融金属を外気から遮断するが、この方式は専用のフラックス入りワイヤを用いることでガスボンベを不要とし、屋外や風の強い場所でも安定した溶接が可能となる。設備コストや取り回しに優れ、現場作業の効率化を図れることから、建設や自動車産業など幅広い分野で注目されている溶接方法である。
概要
ノーガスアーク溶接はガスシールドを利用しない代わりに、溶加材であるワイヤ内部にフラックスを含有させることで溶接時のスラグ形成やガスシールドを実現している方式である。これは溶接時に発生するガスやスラグによって溶融池を保護し、空気中の酸素や窒素との反応を制御するものである。従来の被覆アーク溶接に近い概念でありながら、ワイヤ送給装置を組み合わせる半自動または自動溶接にも対応でき、量産性の高い製造工程で利用されることが多い。
歴史
アーク溶接自体は19世紀後半から研究が進み、その後、被覆アーク溶接やガスシールドアーク溶接など多数の方式が開発されてきた。ガスシールドの手間やボンベ輸送の負担を減らす目的でフラックス入りワイヤを用いる技術が考案され、1960年代頃から工業的に普及が始まった。現在では細分化されたワイヤの種類が提供され、用途に合わせて材料選択が可能になっている。
特徴
屋外の現場作業で、炭酸ガスやアーク溶接を行うと、風でシールドガスが流され、期待するような溶融池や溶接部の被覆が得られない。ノーガスアーク溶接の最大の特徴は、外部ガスが不要なところにあり、溶接現場でガスボンベを用意する必要がないため、こうした問題が起こらず、作業環境の制限が少ない。また、ワイヤを自動送給するため、従来の手棒溶接よりも作業効率が高く、熟練度による品質のばらつきも比較的抑えやすい。また、ワイヤ内部のフラックスには、シールドガスを発生させる成分のほかに、強力な脱酸性や脱窒性物質などが含まれており、溶融池や溶接部を保護すると同時に、強度など機械的性質を向上させる役割も担っている。ただし、フラックス系ワイヤ特有のスパッタやスラグが発生しやすく、溶接後のクリーニング作業が必要となるケースがある。
原理
溶接時に生じるアーク熱によってワイヤ内部のフラックスが分解し、発生するガスとスラグが溶融金属を包み込む。この際、スラグは液体金属とともに溶接継手部を形成しながら上部に浮き上がり、冷却後は固化して除去される。こうしたメカニズムにより空気中の酸素や水分の侵入を防ぎ、溶接部の酸化や気孔の発生を抑制する。これが外部ガスを用いないにもかかわらず安定した溶接品質を保つ理由となる。
メリット
メリットとしてはガスシールド装置の簡略化、屋外作業の容易化、ワイヤ送給による溶接効率の向上が挙げられる。溶接時にシールドガスを使用する必要がなく、ガス容器やホース類を携行しなくてもよい。そのため、溶接現場に手軽に持ち運びができるので、例えば風が強くガスの吹き飛びが懸念される場所や、高所・狭所でガスボンベの設置が難しい状況などでに適している。
デメリット
デメリットは、スラグ巻き込みやブローホール(溶接金属中にガスが閉じ込められてできた丸い空間)などの溶接欠陥が発生しやすい。大気中で溶融池が大きく露出されるため、ビード外観が粗くなり、従来のアーク溶接と比べて品質が安定しにくい。溶接条件の最適化や熟練した操作が必要となる。
適用分野
ノーガスアーク溶接は屋外現場での鋼構造物の組み立てや、自動車の車体修理など風の影響を受けやすい環境で威力を発揮する。また、移動性の高い小型溶接装置を使用できるため、設備投資が限られている中小事業所でも導入しやすい。鉄や一部のステンレス鋼などに広く適用可能で、特に少量多品種の生産ラインで効果を発揮する事例が多い。
手順
フラックス入りワイヤを用いた溶接であるため、適切な送り速度と電流値の設定が重要となる。まずはワイヤの径や材料に応じた推奨条件を確認し、トーチの角度や移動速度を作業者が一定に保つことで安定したビードを形成できる。保護ガスを使用しないからといって換気を怠ることは危険であり、アーク時に生成されるヒュームが周囲に拡散しないよう十分な換気設備を整える必要がある。
事前準備
まず、ワイヤ送り装置と溶接機本体を正しく接続し、適正なワイヤ張力を確認する。ワイヤの径が太すぎるとアークが不安定になりやすいため、作業対象の金属厚みや溶接姿勢に合わせて選定することが望ましい。トーチノズル内部にスパッタが蓄積しやすいため、定期的にクリーニングを行っておくことも重要である。
溶接の実行
アークスタート時には適度なリフト距離を保ち、トーチ先端からアークを確実に発生させる。溶接中は溶融池が形成されるのを確認しながら均等なスピードでトーチを移動する。屋外作業の場合は風や気候の影響を受けにくい姿勢や角度を工夫し、スラグの除去が容易な方向に溶接を進めると作業効率が向上する。
後処理
溶接が完了したら、固化したスラグやスパッタを適切な工具で除去し、継手の外観を確認する。万が一欠陥が発生している場合は再溶接または補修が必要である。仕上げ作業として、必要に応じて研磨や塗装を行うことで、製品の品質や耐久性を高めることが可能である。
安全対策
アーク溶接時には高温と強烈な光が発生するため、防護具の着用と作業環境の確保が最優先事項となる。特にノーガスアーク溶接ではフラックス焼成時の煙やスパッタが多めに発生する可能性があるため、防塵マスクや安全メガネの使用が欠かせない。さらに、周囲への火花飛散を防ぐための防炎カーテンや適切な作業区画の設定を行うなど、安全管理を徹底する必要がある。
コメント(β版)