ソレノイド
ソレノイドは、巻線コイルに電流を流して磁界を発生させ、その磁気エネルギーで可動鉄心(プランジャ)を直線運動させる電磁アクチュエータである。長尺コイルの内部磁束密度は近似的に B=μ·n·I(μ: 透磁率、n: 巻数密度、I: 電流)で表され、電流制御によって吸引力とストロークを精密に制御できる。機械要素としては小型・堅牢・応答が速く、電磁弁、ロック機構、リレー駆動、車載機器などで広く用いられる。一方、発熱・残留磁気・逆起電力など固有の設計留意点が存在し、電気・磁気・熱・機械の複合最適化が必要となる。
動作原理と磁界
ソレノイドは、通電したコイルがつくる軸方向磁界により、磁気回路のギャップ(エアギャップ)を小さくする向きに可動鉄心が吸引される。長いコイルの内部では磁界が一様に近く、磁束はヨークと可動鉄心を通って閉回路を形成する。磁気エネルギーの位置微分が機械仕事に変換されるため、ギャップが縮むほど吸引力は増大する。理想化すれば吸引力 F≈(B^2·A)/(2·μ0)(A: ギャップ面積、μ0: 真空透磁率)であり、B を高めるには電流 I、巻数 N、コアの高透磁率化が有効である。
力学特性と設計式
吸引力はストローク位置に依存し、一般にエアギャップ g が小さい領域で急激に増大する(F∝1/g^2 近似)。ばねで原位置に戻す方式では、ばね力と吸引力の交点が保持点となる。インダクタンス L は概ね L≈μ·N^2·A/ℓ(ℓ: 磁路長)で表され、位置で変化するため、通電中の動作では電磁力と電流応答が相互に影響する。熱設計では銅損 P=I^2·R とデューティ比を考慮し、定格通電(continuous)と断続通電(intermittent)で許容電流が異なる。温度上昇は巻線抵抗の増加を招き、同一電圧駆動時の吸引力低下につながる。
電気駆動と保護回路
ソレノイドの電流応答は時定数 τ=L/R に支配され、DC 直駆では投入遅れ・釈放遅れが生じる。高速化にはプリエンゲージ用の高電圧パルス、あるいは PWM 駆動(立上げは高デューティ、保持は低デューティ)が有効である。開放時の逆起電力対策としてフライホイールダイオードを直並列に入れるのが基本だが、応答を速めたい場合はツェナー・ダイオードや RC スナバ、TVS の採用で過電圧を許容しつつ減衰を速める。AC 駆動ではシャーディングリング(短絡環)によりハムの低減と保持力の平滑化を図る。
構造と材料
固定ヨーク・コイル・可動鉄心・リターンスプリング・スリーブで構成される。磁心材料は軟磁性が高くヒステリシス損の小さい低炭素鋼や電磁軟鉄が用いられる。高サイクル用途では摺動部の摩耗と固着防止のために表面処理(窒化、リン酸塩皮膜)や潤滑が重要である。ケースは防塵・防滴のために封止され、環境等級(例: IP 規格)や耐振・耐衝撃の要求に応じて設計する。巻線は耐熱グレードのエナメル線を用い、クラス別の温度限界を守る。
種類(直動・ラッチング・回転型)
直動形は最も一般的で、プランジャが直線移動してピン・レバー・弁軸を駆動する。ラッチング形は永久磁石の保持力を利用し、通電パルスのみでオン・オフを切替え省電力化できる。回転型はアーマチュアが回転しトルクを出力する方式で、小型ロックやミラー機構で用いられる。必要ストローク・保持力・応答時間・省電力性に応じて最適形式を選択する。
代表的な適用例
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電磁弁: 流体の開閉・切替。差圧条件、Cv、シート材質、許容異物径を併せて選定する。
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リレー/コンタクタの駆動: 可動鉄片を引き込み接点を転換。アーク抑制とコイル逆起電対策が要点。
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車載: スタータ・ロック・EGR・AT バルブなど。広温度域、車両電源ノイズ、耐振に配慮する。
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各種ロック・搬送ストッパ: フェールセーフにスプリングで原点復帰させ、停電時の状態を規定する。
選定パラメータと手順
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要求機能: 必要ストローク(mm)と吸引力(N)の位置特性を定義。
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電源条件: DC/AC、電圧変動、許容消費電力、デューティ比、連続/断続。
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環境: 周囲温度、雰囲気(粉じん・油・湿気)、振動、取付姿勢、IP 等級。
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寿命: 機械サイクル数、電気開閉回数。ばね応力・摺動・打音を含めた耐久評価。
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EMC/安全: 逆起電圧抑制、誤動作防止、異常過熱時の保護(温度ヒューズやサーミスタ)。
失敗モードと安全設計
コイル断線・短絡、可動部固着、残留磁気による解放遅れ、発熱による絶縁劣化が代表例である。フェールセーフは要求機能次第で「無通電=開」または「無通電=閉」を選ぶ。急停止時の逆起電圧で他回路を障害しないよう配線系のクランプ位置を計画し、発熱評価は最悪デューティ・周囲温度での定常解析と過渡試験で裏付ける。
試験・評価の要点
吸引力–ストローク曲線、応答時間(引込/解放)、温度上昇、騒音、消費電力、サージ耐量を測定する。PWM 駆動時は電流リップルと電磁音の相関を確認し、AC 駆動ではインピーダンス角度と励磁損を評価する。量産ではばね荷重公差・ギャップばらつき・巻線抵抗分布が性能に与える影響を統計管理し、工程内検査で外観・抵抗・耐圧・絶縁を確認する。最後に、実機負荷での長期サイクル試験により信頼性指標を確立する。