スパッタターゲット|成膜プロセスを左右する材料選択の要

スパッタターゲット

スパッタターゲット(英: sputtering target)とは、スパッタリング成膜プロセスにおいて薄膜の供給源となる固体材料のことである。真空チャンバー内でアルゴン(Ar)などの不活性ガスをプラズマ化し、生成されたイオンをターゲット表面に衝突させることで原子が弾き出され、対向する基板上に堆積して薄膜が形成される。半導体デバイス、フラットパネルディスプレイ、太陽電池、光ディスクなど多岐にわたる電子部品の製造において不可欠な消耗材料であり、形成される薄膜の品質は使用するターゲットの純度・密度・組成均一性に直接依存する。

スパッタリングにおけるターゲットの役割

スパッタターゲットは物理気相成長(PVD: Physical Vapor Deposition)の一形態であるスパッタリングにおいて、薄膜の元となる原子を供給する部材である。プロセスはまず真空チャンバー内を高真空に引いた後、アルゴンガスを微量導入して電圧を印加しプラズマを発生させることから始まる。プラズマ中で加速されたアルゴンイオンがターゲット表面に高エネルギーで衝突すると、運動量移乗によってターゲット構成原子が表面から弾き飛ばされる。この飛散した原子が基板に到達・堆積することで、ターゲット組成に対応した薄膜が形成される。蒸着法と異なり、ターゲット材料を直接加熱して蒸発させる必要がないため、タングステンや白金などの高融点材料や複雑な合金でも成膜が可能である。

材料の種類と選定

スパッタターゲットに使用される材料は、形成する薄膜の用途に応じて幅広く選定される。金属系ではアルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)が代表的で、それぞれ半導体製造装置における配線膜・バリア膜・電極膜に多用される。合金ターゲットとしてはNi-Fe(パーマロイ)やCo-Cr系が磁気記録媒体向けに、ITO(酸化インジウムスズ)がタッチパネルや液晶ディスプレイの透明電極向けに広く採用される。セラミックス系では酸化物・窒化物・フッ化物などが光学薄膜や保護膜用として利用される。ターゲット材料の純度はパーティクル発生や電気特性に直結するため、半導体用途では4N(99.99%)から6N(99.9999%)以上の高純度品が要求される場合が多い。

セラミックスターゲットの特性

セラミックスや酸化物系のスパッタターゲットは一般に電気絶縁性が高く、直流(DC)スパッタリングでは電荷蓄積による異常放電(アーキング)が生じやすい。このため、高周波(RF)スパッタリングや、パルスDC電源を組み合わせた方式が採用される。また、セラミックスは脆性が高く熱衝撃に弱いため、製造時の焼結条件の管理や、装置取り付け時のバッキングプレートとの接合方法が重要となる。代表材料であるITOターゲットは酸素雰囲気下で反応性スパッタリングを行う場合もあり、膜の酸素組成制御が透明性と導電性のバランスを決定する。

構造と形状

スパッタターゲットは、ターゲット材料(target material)単体で装置に取り付けられる場合と、バッキングプレート(backing plate)に接合した状態で使用される場合がある。バッキングプレートは通常、無酸素銅やアルミニウム合金で製作され、スパッタリング中に発生する熱を冷却水へ逃がす役割と、ターゲット材料を機械的に支持する役割を担う。接合(ボンディング)にはインジウムやハンダ系合金が用いられる低温拡散接合と、熱間等方圧加圧(HIP)を用いた固相接合がある。ターゲットの形状は丸形(円盤型)、矩形(長方形)、管状(円筒型)など多様で、スパッタ装置の構成やウェーハ・ガラス基板のサイズに合わせて設計される。大型FPD(フラットパネルディスプレイ)製造ラインでは一辺が2m超の大型矩形ターゲットも使用される。

ターゲットの製造プロセス

スパッタターゲットの主な製造方法は溶融法と粉末冶金(焼結)法の2種類である。溶融法は原料金属を高温で溶融・鋳造した後、鍛造・圧延・機械加工を経てターゲット形状に仕上げる方法で、金属系材料に広く採用される。結晶粒径の均一化とガス成分の除去が品質管理の核心であり、電子ビーム溶解や真空アーク溶解によって不純物を徹底排除する。一方、焼結法はセラミックスや高融点材料・複合材料に適しており、原料粉末を成形後、ホットプレスや熱間等方圧加圧(HIP)で緻密化する。相対密度が低いとコーティング膜の均一性が低下したりパーティクルが増加したりするため、理論密度比99%以上の高密度化が求められる。

消耗と利用率

スパッタリングプロセスでは磁場を用いたマグネトロン方式が主流であるが、ターゲット表面の磁場強度が局在するため、消耗(エロージョン)が特定のレーストラック状の領域に集中する。この不均一消耗によってターゲット利用率は一般的に20〜40%程度に留まり、残材の多くは廃棄・リサイクルに回される。利用率を向上させる手段として、磁石ユニットを可動式にして磁場分布を動的に変化させる手法や、ロータリーターゲット(管状ターゲットを回転させて全周を消耗させる方式)が採用されている。膜厚制御の観点からも、エロージョンの進行に伴う成膜レートの変化を監視・補正する仕組みが重要である。

用途と対象デバイス

スパッタターゲットが供給する薄膜は、LSIの金属配線・バリア層・電極から、液晶・有機ELディスプレイの透明電極・反射防止膜、ハードディスクの磁性層・潤滑層、絶縁膜・誘電体膜まで多岐にわたる。自動車分野では車載センサーやミラーコーティング、太陽電池分野ではCIGS系薄膜太陽電池の光吸収層にも用いられる。3D NAND・DRAMなどの先端メモリデバイスでは多層構造内の各種バリア膜・電極膜形成にターゲットが多品種少量で使われ、デバイスの微細パターニング化に伴いターゲット材料の純度・組成均一性への要求も年々高まっている。

品質管理と評価

スパッタターゲットの品質評価項目には、純度(グロー放電質量分析:GDMS による不純物定量)、密度(アルキメデス法)、結晶粒径・組織(光学顕微鏡・EBSD)、平坦度・表面粗さ(接触式・光学式測定)、ガス成分(酸素・窒素・水素)が含まれる。ターゲット内の不純物は成膜した薄膜の電気特性や信頼性に直接影響し、例えばアルミニウム配線膜中の鉄・銅などの金属不純物はゲート絶縁膜の特性劣化を招く。また、成膜時のパーティクル発生を低減するために、ターゲット表面の仕上げ加工精度(Ra 1〜2 µm 程度のサンドブラスト処理)も管理対象となる。製品ロット間の均質性確保に向けて、使用済みターゲットのエロージョン形状と成膜データを照合するプロセス管理が普及している。

CVDとの比較における位置づけ

スパッタリングはCVD(化学蒸着法)と並んで半導体・電子デバイスの成膜技術を二分するが、両者は適用領域が異なる。CVDは段差被覆性(ステップカバレッジ)に優れ、アスペクト比の高い微細穴への埋め込みに適している一方、スパッタリングは低温プロセスで高純度の合金・化合物薄膜を大面積に均一成膜できる点で優位である。特に金属配線・電極膜・磁性膜など組成制御が重要な用途ではスパッタリングが選ばれ、スパッタターゲットの材料設計が最終デバイス特性を左右する。抵抗加熱蒸着などの他のPVD法と比べても、高融点材料や合金への対応力と膜質の再現性でスパッタリングは優れており、量産工程での採用が多い。

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