サンバイザー
サンバイザーは、運転者や同乗者の視界に入る太陽光や外光の直射を遮り、眩惑を低減して安全運転を支援する内装部品である。フロントガラス上端近くに取り付けられ、必要時に下ろして日射の直撃を避ける。近年はバニティミラーや照明、スライド式エクステンダー、チケットホルダーなどを備える複合化が進む。構造は芯材、クッション材、表皮材から成り、芯材には薄鋼板やPP・ABSなどの樹脂、クッションにはPUフォーム、表皮にはファブリックやビニルレザーが用いられる。固定はベースブラケットとピボット機構で行い、保持角を決めるディテントや摩擦ヒンジを併用する。車室内の眩惑は視認性と疲労に直結するため、サンバイザーの設計は光学、人間工学、法規、安全、耐久の多面的要件を満たす必要がある。
光学的役割と眩惑低減
サンバイザーの基本原理は、視線と光源の間に遮蔽物を置き、直射光の輝度(cd/m²)を遮断して網膜上のベイリングルミナンスを抑えることである。これにより信号機、歩行者、先行車のコントラストが回復し、識別性が向上する。朝夕の斜め日射では視線方向が低くなるため、下辺のカットライン形状やスライド式エクステンダーが有効である。透過率は基本的にゼロ(不透明)だが、縁部に半透明のサンシェードを併設する設計もあり、遮光と外界把握のバランスを取る。表面の反射率は低艶・低グロス仕上げとし、二次反射による眩惑を抑える。
構造・材料と製造
サンバイザーの芯材は薄鋼板プレス成形または中空樹脂成形が一般的で、剛性と軽量性を両立する。クッションのPUフォームは触感と衝突時のエネルギー吸収を担い、表皮は耐候・耐汚染・触感を左右する。縫製や高周波ウェルダーでエッジを仕上げ、シームの波打ちやしわを抑える。ピボット軸には金属ブッシュや樹脂スリーブを用いて摺動摩耗を低減し、取り付けはタッピングねじやボルトで行う。バニティミラーやLED照明を組み込む場合はワイヤーハーネスを内蔵し、屈曲部の断線を防ぐため余長と曲率を管理する。
調整機構とユーザビリティ
ピボットは左右に回転し、フロント用からサイドウィンドウ用へスイングして側方日射にも対応する。ディテントは所定角度での保持力を与え、路面ギャップでの振動時にも位置を維持する。スライド式エクステンダーは横方向に伸び、ピラー間の隙間を埋めて遮光領域を拡大する。チケットホルダー、カードポケット、ミラー蓋のマグネットスナップなど、操作性と静粛性(S&R低減)を両立させる細部設計が求められる。
人間工学と視界設計
サンバイザーは遮光しつつ、信号機・標識・歩行者の視認を妨げない形状が重要である。下縁ラインは視線のスイープパスを考慮して決め、Aピラーやルームミラーとの相互遮蔽を評価する。大型化は遮光には有利だが、視界閉塞や圧迫感を招くため、厚み・外形・色調の最適化が必要である。フロントガラス上端のシェードバンド(着色帯)と併用すると、遮光の連続性が高まる。
安全・法規・コンプライアンス
サンバイザーは衝突時の乗員保護要件に適合しなければならない。角部はR処理し、露出硬部はクッションで覆って頭部衝撃を緩和する。助手席側のエアバッグ展開域と干渉しない位置・可動域を確保し、展開時の飛散・分離を防ぐ固定強度を確保する。難燃性、VOC・臭気、耐候(UV・温湿度)などの室内材要件も評価対象である。表示ラベル(エアバッグ警告等)は視認性と耐久性を両立する。
品質評価と試験
耐久開閉サイクル、-30〜85℃の熱衝撃、恒温恒湿、紫外線照射、振動、S&R(きしみ・ビビリ)評価、保持力・トルク試験、ねじ固定部の引抜・引張、表皮の摩耗・汚染性・耐薬品性などを総合評価する。車両完成後は実走行で朝夕の眩惑路を用いて実効性を検証する。
照明・バニティ機能
バニティミラーは蓋連動で点灯するLEDを備えることが多い。配光はドライバーの瞳に直接入らないよう遮光板やルーバーを用い、演色性(肌色再現)とグレア抑制を両立する。点灯時の消費電力は小さいが、ドア閉鎖中の消し忘れ対策としてタイマ消灯やイグニッション連動が有効である。
NVH・耐久と量産性
サンバイザー周辺は天井トリム、Aピラーガーニッシュ、ルームランプなどと近接し、共振や摺動が起こりやすい。ピボットのガタ、表皮の擦れ、面圧不均一がS&R源になるため、潤滑・クリアランス管理・布テープの適用で抑制する。量産では成形サイクル、縫製工程、組付けパネルの公差連鎖を解析し、トルクと保持力のばらつきを最小化する。
関連システムとの関係
近年はHUDや先進運転支援システムの普及により、表示視認性と遮光の両立が課題となる。サンバイザーの位置でHUD像が欠けないよう、下縁のクリアランスや角度設定を詰める。バックミラー、天井コンソール、車内カメラとも干渉しない取り付け設計とする。側方用のセカンドバイザーやサンシェードとの役割分担も重要である。
メンテナンスとユーザー配慮
日常点検は可動の渋さ・ガタ、固定の緩み、表皮の汚れを確認する。清掃は中性洗剤拭きを基本とし、溶剤は表皮の可塑剤抜けや白化を招くため避ける。後付けアクセサリーを装着する場合は、視界確保・安全装備との干渉に留意する。
設計の勘所(要点整理)
- 遮光性能:視線方向の日射を確実に遮り、信号・標識の視認を阻害しない外形と可動域
- 安全性:衝突時の頭部保護、エアバッグ展開域の確保、難燃・低VOC
- 耐久・NVH:開閉サイクル、温湿度・UV、振動、S&R対策
- 生産性:材料選定、成形・縫製・組立の工数と公差連鎖、品質ばらつき低減
- ユーザビリティ:スライド延長、側方対応、収納時の薄さと一体感、操作トルクの適正化